「その、一目惚れした子ってどんな子だったんですか?見た目、とか性格とか……」
勝手に開いた唇が問いただす“一目惚れの子”について。
紡がれた言葉は先輩の記憶に訴えかけるような、どこか必死な声色をしていた。
「それが……きちんと手入れされたサラサラの黒髪に、透き通るくらい白い肌の可愛い子だったってこと以外、なにも知らないんだ」
「え?」
「大会が終わってプールから上がろうとしたとき、その子を見つけて……声をかけたんだけど、その子は何も言わずに走って行っちゃってね」
そう懐かしそうに話す優彗先輩の隣、耳を傾けていた僕はある直感を抱いていた。
その“一目惚れした子”って……僕じゃない?
あの日、兄を負かした相手の顔を見てやろうと僕が会いに行ったのも大会後のプール。
声をかけられたし、そのあとなにも言わずに僕はその場を去っている。
それに。
きちんと手入れされたサラサラの黒髪で、なおかつ透き通るほど白い肌をした僕に似ている子供。
僕に似ている優れた容姿の、先輩の初恋泥棒。
そんなのあの日、あの場所に……僕以外いるはずがないじゃないか!
「ふふん、そうなんですねー」
優彗先輩の心に今も残る初恋の相手……その正体に気づくなりすっかり気分が良くなった。
全く、罪深いなぁ……あの日の幼い僕ってば。
兄さんの仇だった顔面国宝に、出会った日からずっと想われていたなんて!
こんな面白い話はない。
僕は得意気に胸を張りながらニヤニヤと口元を緩ませる。
「先輩、その子についての印象とかはどうだったんですか?どんなところに惹かれたんです?髪型?顔……あっ、儚げな雰囲気だったとか?」
「えっ……そ、そうだなぁ……」
照れくさそうにしながらも「うーん」と考えこむ先輩を見つめながら、僕はご機嫌に彼の次の言葉を待つ。
先輩はあの日の僕のどこに恋をしたのだろう。
どこでもいい。
僕の美しさでも可愛さでも、なんでも構わない。
他者に評価されることがなにより自信に繋がるんだ。
それが自分と同格……それ以上だと認識している相手からの評価なら、なおさら心の栄養になる。
さぁ、先輩。
恥ずかしがらずに、存分に僕を褒めてください!
僕の期待を知ってか知らずか、先輩が思い出すように呟いた。
「真っ赤になった顔……を見て、かな?」
「……え……?」
その瞬間。
時が止まったような感覚がして、目を瞬かせる。
顔を赤くしていた……?
この僕が……?
閉め切られていた窓の向こうから、運動部のケラケラと笑う楽しげな声が聞こえた。



