顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


「め……恵流くんっ……ちょっと距離が近いというか……」


「え?」


そう言われて、初めて自分の立ち位置を認識する。

ホワイトボードの横にいたはずの僕の体は、先輩の顔を見ることに集中しすぎて彼のすぐ近くまで距離を詰めていた。

完全に無意識だったその行為に、慌てて先輩から離れる。


「すみません、つい……」


「う……ううん、全然、嫌とかじゃないんだけど……」


流れる気まずい空気を断ち切るように、僕は口を開いた。


「あ……そのままだとすぐに乾燥しちゃうので、今日は乳液も塗っちゃいますね」


「そ、そうなんだ……恵流くんに任せるよ」


未使用の乳液を指の腹に乗せ、塗っていく。

くすぐったいのか、目を閉じた優彗先輩の長いまつげが僅かに揺れる。

先輩の体質改善……保湿ケアの日々は、こうして始まった。

それから毎日、僕は彼を訪ねては肌のメンテナンスを行っている。

放課後の理科準備室が二人の待ち合わせ場所。


「顔パック……フェイスシートを始めて痒みとかはありますか?肌が逆に荒れてたり……合ってないなー、みたいな感じは」


「んん……特にない、かな」


会話の内容はスキンケアについての問答が多いけど、保湿ケアは順調に行われているようで先輩の肌にはツヤが目に見えて増していた。

顔は相変わらず古代魚モードだけど、まあ大きな一歩だと思う。


「恵流くんって好きな食べ物とかある?」


「野菜が好きですね、あとは豆腐とか……ヘルシーなものやサッパリした味付けのものが好みです」


「そうなんだ、じゃあ好きな色は?」


「え、色?……そうですね、ビビッドなものよりは柔らかいパステル調の色合いが好きかな……」


日を重ねていくうちに、優彗先輩が僕に質問をしてくることも多くなった。

……意外にお喋り好きなのだろうか?

先輩は普段、顔を隠して生活しているみたいだし……人と関わることが少ないから現状を楽しんでいるというのも理由の一つなのかもしれない。

それでも僕のことなんか聞いて、なにが楽しいのか分からないけど……僕に質問をする先輩はいつも嬉しそうにしている。

そのたびに僕の胸は調律が乱れたピアノのように不規則な音を奏でるから、不思議でならない。


「先輩、こうして会うようになってからたくさん質問してくれますけど……そんなに僕のことが知りたいんですか?」


体質改善スキンケアもあと数日で終わる……そんなある日。

僕は疑問に思っていたことをぶつけてみた。

優彗先輩は慌てたように「えっ!?」と声を上げる。

彼はうつむき、指先を組んで遊ばせながら逆三角形の口から言葉を発した。


「実は……ひかれるかもしれないけど、その……恵流くんのことが、初めて会ったときからずっと気になってて……」


「僕のことが、気になる……?」


「うん」


弱々しく頷いた先輩が、こんなことを口にした。


「恥ずかしい話なんだけど、昔……一度だけ出た水泳の大会で一目惚れした子に似てて」


一目惚れ。

その言葉を聞いたとき、胸の奥底に針が刺さったような痛みを感じて、僕は僅かに目を見開いた。