ベンチの上に広げられたそれらは、普段から僕が愛用しているブランドの化粧水タイプの肌パック。
わりとお高めでたまに安売りしていたのをコツコツと買いためていた大事なものだけど、ストックは充分あるからちょうどいい。
「先輩、顔にパックしたことあります?」
「いや、ないかなぁ」
「なら、使い方は今から教えます……ちょっと待っててくださいね」
再びバッグをあさり、ノンアルコールタイプの除菌シートを取り出す。
子供にも使える使い捨ての簡易的な手拭きだ。
僕はそれを一枚取りだして、しっかりと自分の手……特に指先を入念に拭いた。
「め、恵流くん、そこまでしなくても大丈夫だよ」
気を遣う先輩に「いえ、お気になさらず」と首を横に振った。
パックの使い方を教えるなら、先輩の肌に触れることになる。
除菌もなにもしていない雑菌がついている手先でそんなことをして、体質が悪化し古代魚化が進むのは避けたかった。
手のひらから手の甲まで、納得いくまで全体を拭き取り……僕はいよいよパックを開封した。
ちなみに、念には念を入れてパックの入ったパッケージの表面も除菌シートで拭いておいたから抜かりはない。
取り出した顔パックは、充分に水分を含んでいた。
「それじゃあ、顔に貼りつけていくので前髪を上げておいてもらえますか?」
「う……うん、分かったよ」
言われた通りに両手で前髪をかきあげた先輩。
その素顔にパックを乗せようとした瞬間、先輩が目を閉じた。
(`∇´)
逆八の字っていうか……。
怒ったときの眉毛のような目の瞑り方するんだ……。
画面上の顔文字でしか見たことない記号的な表情ばかり見せるな、この人。
変なところに関心を持ちながら、目の前の顔文字にペタリとパックを貼ってやった。
「貼るときは上から、丁寧に肌に密着させて――」
僕の説明を聞きながら、顔パック中の優彗先輩は律儀にメモを取っていた。
ホワイトボードにテープで止められていた水泳部のポスター裏に書いてるけど、それはいいんだろうか。
「それではこれを一日に1回……週に2,3回の頻度から始めましょう。合わない場合もあるので僕が毎日メンテナンスします」
「えっ!毎日……?」
「はい、先輩はなにもしなくて大丈夫ですよ。僕から会いに行きますので……面倒かもしれませんがそのたび顔を見せてください」
「あ、いや……面倒とかではなくて……その、毎日恵流くんと会えるのが嬉しくて」
白いパックの向こうではにかんだ様子の先輩の言葉に、胸がざわつく。
なんだ……この気持ち。
首を傾げていると、僕のスマホのアラーム音が鳴った。
保湿を始めてからしっかり10分。
いくら肌に良くても、顔パックのやり過ぎは禁物だ。
「先輩、もうパックを取って大丈夫ですよ」
「うん」
密着していたパックが先輩の手で剥がれていき、美容成分たっぷりの水気を含んだ顔が現れる。
そこにいたのは古代魚ではなく、顔面国宝。
キラキラと輝きを放つ顔面の破壊力に、思わず目がくらんだ。
やっぱりカッコいいな、この人。
悔しいけれど、この状態の彼は僕の好みど真ん中の外見だ。
体質が改善されたら、ずっとこの顔を見ていられるんだろうか?
ふと先輩が僕へ視線を向けた。
途端に、その顔が照れたように朱に染まる。



