顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


“話をするなら人気のないところがいい”という優彗先輩の意見に従い、僕たちは理科準備室に忍び込んだ。

ここなら放課後にやってくる生徒はまずいない。

空き教室も候補に上がったけど、そこは手芸部と文芸部が合同で活動を行っているらしくて却下となった。


「なんでさっき、女子生徒たちから逃げてたんですか?」


開口一番。

気になっていた質問をぶつける僕に、先輩はメガネとマスクを外しながら応じた。


「彼女たちが期待して会いに来たのは“イケメンの架院 優彗”だ。この顔を見せたら……驚かせてガッカリさせちゃうかなって」


あらわになった顔は、イケメンとはほど遠い古代魚モードのそれだ。

虚空を見つめているような瞳。

逆三角形の締まりのない口。

常に冷静に物事を乗り切ってきた僕でさえ言葉を失ったその顔つきは……確かに女子たちの期待を裏切ってしまうだろう。


「先輩のその、顔がガラリと変わるっていう体質……この高校で知ってる人はどのくらいいるんですか?」


「少ないよ。クラスの皆の前ではさっきみたいに完全防備で顔を隠してるし、水泳部でも知ってるのは顧問の先生と4人いる先輩たちくらい」


「2年のクラスメイトに、水泳部の人はいないんですか?」


「うん……うちの高校は元々、文化部の方が人気だったからね。俺も部活に入るつもりはなかったんだけど……雨で今の部長に体質がバレちゃって」


5人の部員がいて初めて部活として認められる中、当時の水泳部は4人しか集まらず、新入生の侵入部員を探していたという。

そんな中、たまたま降ってきた通り雨のせいで顔が変わるところを部長に見られてしまった。

“水”に関する体質なら入るべきだと押され、優彗先輩はなし崩し的に廃部の危機だった水泳部へ幽霊部員として入ることになったらしい。


「僕のクラスメイトが水泳部に入るらしいんですけど、今年の1年には体質のことを話すんですか?」


「そうしようと思ってた……でも、せっかく入部を決めてくれた後輩たちを不気味がらせるのもなって……部員が増えるって部長たち喜んでたから」


「でも昨日……僕には自分から話して、実際に顔が変わる体質まで見せてくれたじゃないですか」


そう言うと、先輩は指先で頬をポリポリとかいた。


「それが……自分でも不思議なんだけど、恵流くんと話してたら自然と行動に移してて……なんでだろう?今まで一度もこんなことなかったのに」


僕にだけ、初めて自分から体質をバラした……?

どういうことだ。

僕は考え、そして結論を出した。

やはり僕ならば彼の体質をなんとかできる、ということなのではないか?

先輩はそれを本能的に嗅ぎ取り、無自覚にも助けを求めるために僕に隠してきた体質を教えた……。

非科学的な考えだけど、僕という恵まれた存在ならばあり得る展開かもしれない。


「優彗先輩は、その体質を直したいですか?」


「え?……それは、うん……直したいけど」


「なら――任せてください」


僕は優彗先輩の手を両手で握り締める。

目の前で赤くなる顔……その口元から響く裏返った小さな悲鳴を聞き流しながら、強く彼を見つめた。


「僕が、あなたを助けてさしあげます」


僕は自信満々に、あるいは生意気にニヤッと口角を上げてみせた。