「さっき、“この顔は生まれつきのものじゃない”って言ってましたよね?……小学生のころってどうでした?」
「え?小学生……高学年のころからこの体質になった……かな」
その言葉を受け、記憶の中の昔の彼を思い出す。
この顔が変わるイケメンは、あの大会で会ったときもプールの水に濡れていた。
もしあのときからすでに、この体質になっていたのなら?
イケメンではない古代魚モードの彼に先に会っていたら?
“兄の仇討ちだ”とここまで意気込むこともなかったかもしれない。
恵まれた容姿と高い能力を、共に天から授かった者同士だったからこそ……悔しさが芽生え、僕は兄の敗北を受け入れられなかっただけ。
彼の見た目が息をのむほどに美しいものだったから……勝手に闘争心を燃やし“同族として負けられない!”と考えてしまっていただけだ。
きっと古代魚の方の顔だったら、僕は――“だけど見た目の差で僕と兄が勝っている”と勝ち誇ることができたかもしれない。
それに気づいたとき、僕は落胆した。
周りがそうだったように、僕も……彼を見た目で判断していた、ということに。
人を見た目で判断する。
こんな醜い、嫌な人間の部分が自分にもあったんだ……という事実に、心の中の火種が消えていくのを感じた。
「あの、キミ大丈夫?さっきから急にうつむいてるけど――あ、キミの方こそどこか具合が悪いとか……!?」
――気づけなくてごめんね!
――保健室、行く?気持ち悪くない?
慌てたように僕を心配し、労ろうとする彼の心の優しさを前に唇を引き締める。
性格の良さを見せつけられると、途端に自分が惨めになってくる。
「いえ、体調は何事もないので平気です……でも僕、もう帰りますね。さようなら」
そう言って足早にその場を立ち去ろうとする僕を、彼は引き止めた。
「ま、待って!えっと……部活見学はしなくてよかった?」
「……え?」
「校門は逆側だし、他に部室ないし、この場所に来たってことは水泳部の見学にきてくれたのかなって思ってたんだけど……あれ、違った……?」
そう言われて、彼があの不可思議な“体質”を初対面の僕に教えた理由を悟る。
彼は、僕が水泳部に入る可能性が高いと判断したんだろう。
だからあとで入部して驚かせてしまう前に、自分のことを知ってもらおうとした。
そんなところかな。
僕はそう仮定して、小さく微笑みを浮かべながら素直にここにきた理由を話した。
「間違ってはいないけど、僕の目的は水泳部への入部じゃなくて――あなただったんで」
そう言い放った瞬間、目の前のサカバンバスピスが耳まで赤く染まるのが見えた。
いよいよ熱でも出したのではないだろうか。
風邪をうつされる前にさっさと退散しよう。
そう思いながら再び背を向けた僕の腕が、後ろからグイッと引っ張られた。
振り返ると、真っ赤な顔をした古代魚が僕を見つめている。
「なにかご用ですか?」
尋ねると、彼のぽかんと開いた逆三角形の口からこんな言葉が投げかけられた。
「俺は2年生の架院優彗。その……キミの名前……も、教えてくれないかな……?」
「……1年の宝条、恵流ですけど」
答えると、僕の腕を掴んでいた大きな手のひらが離れていった。
そのまま「宝条……恵流くん……」と僕の名前を呟きながらフリーズした彼を置き去りに、僕は一礼をして去って行く。
これが僕と、古代魚になる顔面国宝・優彗先輩との二度目の邂逅だった。



