クーデレ転校生は今日も前世の恋人(俺)を捜してる



博盟は以前、今世で恋愛をする気はないと言っていた。
でも俺の告白を受け入れてくれた。……のは、彼なりの優しさ、という可能性が高い。
俺を傷つけない為にオーケーしてくれたのかもしれない。……訊きたいけど、彼はほんとのことなんて絶対話さないだろうから訊けない。
畢竟、俺は前世の恋人がいる奴に手を出したク◯野郎だ。それを片時も忘れず行動しよう。不謹慎だからあんまりノロケちゃ駄目だ。
「水継、スマホケースにお揃いのシール貼らない?」
「貼る」
だが決意は一時間足らずで覆る。持続しないことを深くお詫び申し上げます。
昼休み、博盟が取り出した立体型のシールを広げ、ワクワクしながら眺めた。
「ふあー、触り心地いい。最近の高校生ってこういうの好きなん?」
「お前も最近の高校生だろ。……この二枚貝のシール良くない? 対になる位置に貼ろうぜ」
「おー、良いね」
博盟が気に入ったのは真珠がついた貝殻のシールだった。俺はスマホケースの右上、博盟は左上に貼り、周りにヒトデやクラゲを散りばめる。
「わー! 超夏仕様!」
「一気に派手になったな」
二つのケースを並べ、出来栄えに目を輝かせる。男のケースにしてはややファンシーだけど、ノロケ脳になってるから何とも思わなかった。

「博盟、ありがとっ!」
「……どういたしまして」

お礼を言うと、何故か博盟は顔を逸らした。でもケースに感動していたから、そこまで気にしなかった。
「俺、やっぱ海が好きなんだよね。昔から貝殻拾いとか大好き! 珊瑚や星の砂を探すのも好きだったなぁ」
「珊瑚があるところに住んでたのか?」
「え」
ハッとして固まる。俺は以前、彼に関西より南には行ったことがないと話していた。
まずった。かぶりを振り、笑って誤魔化す。
「ごめん、間違えた。珊瑚に似てる何かだった」
「ん……そう」
汗だらだらだけど、博盟は納得していた。ケースは大層気に入ってるらしく、しばらく楽しそうに背面を撫でてていた。
「水継。お揃い、増やしていきたい」
「良いと思います」
むしろ悪い理由が見当たらない。真顔で頷くと、博盟は嬉しそうに笑った。
「何か、まだ現実味がないよ。昨日までは友達だったのに。……今は触っても許されるんだもんな?」
スマホで隠しながら、手を握られる。博盟は悪戯をする子どものように笑っていた。
この顔で微笑まれると、罪悪感諸々が溺れてしまう。俺も自分のスマホを覆い被せながら、彼の手を握り返した。
「俺達、一応恋人なんだよな」
「うん。訳ありだけど」
まったくしようもない。
めちゃくちゃ過ぎて笑うしかない。博盟と目が合った瞬間、同時に吹き出した。
「でも、ほんと藤正さんのことは捜さないと。さっそく放課後も外に捜しに行こ!」
「あぁ」
付き合っても、やることは変わらない。
俺を捜してる博盟の為に、俺を捜す。カラオケ、ゲーセン、映画館にショッピングモール。あらゆる場所に足を運んだ。
「どう、博盟。ここは何も感じない?」
「ん〜……あ。あそこにいる客引きのお姉さん、何か気になるかも」
博盟は笑顔でティッシュ配りをしてる女性を見つけ、首を捻った。
お前は同性愛者だろ。何でいつも女性に惹かれるんだよ。
本気でツッコミたかったけど、どっちにしても間違ってるので小声で答える。
「藤正さんはあんな愛想良くよろしくお願いします〜♡って笑えるひとなん?」
「死んでも無理」
「じゃあ違う。行こう」
時間が過ぎるのはあっという間だから、ぱっぱと移動する。外では博盟が逆ナンされることも多かったから、上手く割り込んで連れ出したり。人捜し以外の気苦労も多かった。
「水継、疲れてない?」
「大丈夫。どっちかって言うと、キラキラしながらお前を見てる女子達がな……」
近くのカフェで、博盟はドリンクを差し出してくれた。有り難く受け取り、空いてる席に座る。
「いつ話しかけられるのかって、気が気じゃない」
「あはは、ごめん。……悪いけど、俺は嬉しい」
「何で?」
「お前が妬いてくれるから」
彼は目を細め、俺の手に掌を重ねた。その瞬間顔が熱くなり、フリーズする。俺達を見てる人がいないか周りをきょろきょろしてしまう。
博盟と過ごすようになって、だいぶ自意識過剰になってるみたいだ。
「好きな奴の焼きもちって最高だな。愛されてるって痛感する」
「あのなぁ。お前は良いかもしんないけど、心配する方の身にもなれよ。お前がイケメンだからこっちは常に気ぃ張ってんだぞ」
思わず頬を膨らますも、博盟は楽しそうに笑ってる。
「水継がしっかりしてるから俺は安心して歩けるよ。ありがとな」
「もう……」
呑気な返事だ。これ以上とやかく言う気も起きず、スマホケースを撫でる。博盟はにやにやしていたが、急に前に乗り出した。
「でも確かに、周りに気を取られ過ぎんのも良くないか」
「ん?」
「デートにならないだろ。せっかく二人だけで過ごしてんのに」
「デートォ? 今は藤正さんを捜してるんだろ?」
驚いて返すと、博盟も驚いたようにまばたきした。
「もちろん捜してるけど、俺はお前と一緒にいられる時間は全部デートだと思ってるよ? 学校にいる時は、お前が誰かに狙われないか見張ってるし」
お互い様だと言い、彼は頬杖をつく。
「水継は鈍感だから気付いてないけど。お前を狙ってる女子はたくさんいる。今日もクラスの数人がお前の話をしてたよ」
「え、ほんとっ?」
「嬉しそうだな」
「いやあ……ゴホン。そんなことない」
最近女子の関心は博盟が独り占めしてると思っていたから嬉しい。というのは胸の中だけに留め、かぶりを振る。
「何だろう、隠しててもあふれ出るオーラってあんのかな? 俺もこう見えて実は経験豊富だから」
「急に自信取り戻したな。さっきまでリスみたいにむくれてたくせに」
「えへへ〜」
我ながらチョロいけど、煽てられるとご機嫌になる。にこにこでスマホを持ってると、またその手を掴まれた。
「可愛いけど、今度は俺が妬く」
「はは! たまには博盟が妬いたらいいよ」
意地悪に笑うと、彼はテーブルに手をつき、腰を浮かせた。
目の前に大きな影がかかる。
「え」
一体何を。……と訊く前に、彼の顔が近付く。目の前が真っ暗になり、唇に柔らかいものがあたった。
それがキスだとわかったのは、博盟の顔が見えてから。
「おま……っ!」
信じられない。テーブルは離れてるとはいえ、カフェの中でキスしてきた。
この前みたいにメニュー表は翳していたが、それだけじゃ安心材料にならない。どう抗議しようか口をパクパクさせてると、博盟は満足そうに自身の唇を撫でた。
「水継はまだわかってないな」
「うぇ?」
「俺にどれだけ愛されてるか」
「あ……っ」
愛って。久しぶりに聞いて、思わず顔を手で覆う。
マジで周りに人がいなくて良かった。今は、自分の顔を見られる方がまずい。
「俺は重いんだ。本気で妬いたらどこにいようとキスするし、抱き締める。……昔と違ってブレーキ効かなくなってるからよろしく」
「な、何で我慢できなくなってんだよ」
「もう後悔したくないから」
メニュー表を置き、博盟は力強く答えた。その表情に冗談めいたものは感じられず、息を飲む。
「藤正がいなくなったときもそう。ちょっと目を離したらいなくなった。本当に、一瞬で……だからもう絶対手放さない。キスしたいと思ったら、その場でキスする」
なんつー熱烈な告白だ。
下手したら公然わいせつだけど、博盟の感情がここまで大きくなったのは俺にも原因がある……みたい。
罪深いな、前世の俺。
「う〜……でもな、カフェはやばいって。出禁くらうかもしれないじゃん」
「バレないバレない」
「適当だなぁ」
案外緩い博盟に呆れつつ、照れ隠しに頭を乱暴に掻いた。
「水継、ドリンク交換しよ?」
「……」
博盟のドリンクのストローを差し出される。
もう周りに見られてないか気にする余裕もなかった。
俺の前だけデレデレな博盟に、これ以上は身が持たない。
「……デートみたい」
「デートだもん」
互いに互いの飲み物を差し出し、見つめ合う。
そうか……デートか。
付き合ってるんだから当たり前なのに、俺を捜す博盟に夢中でその発想がなかった。
もうキスもしていいし、手を繋いでも良いんだよな。
あ。てか抱き締めていいのか!!!!
色んな罪悪感で押し潰されそうだったけど、口元を拭いて立ち上がった。
「博盟、行こう」
「え、今入ったのに」
「ドリンク持って! 出よう!」
ということで、強制的に博盟の手を引いて外に出た。幸い近くにひとけのない路地があったから、ズンズン歩いて中に入る。
奥まで来たところで振り向く。博盟は若干戸惑いながら俺を見ていた。
「水継、どうした」
「……たい」
「え?」
「だ。抱きたい。博盟のこと」
恐る恐る見上げると、博盟はフリーズした。
唐突過ぎて引かれたか。想定の範囲内なので諦めてると、彼は何故か急に噎せだした。
「博盟、大丈夫?」
「あ、あぁ。いや、まだ明るいから」
「明るい? ひとがいなければ良いだろ?」
「いや……俺はその……お前の意思は尊重したいけど、抱かれるのはちょっと」
えっ!
まさかの拒絶。目の前が真っ白になり、ふらついた。
「い……嫌? 恋人なのに?」
「違うよ、恋人だからこそこういうことは慎重に話し合いたいんだ」
はい??
抱き合うだけで何を話し合うっていうんだ。意味がわからず硬直したが、深呼吸し、話が噛み合わない理由に思い至った。
話し合う、って、夜の営み的な話か─────!
「違ーう!! 俺が言ってんのは、ふつーに、ギュッと抱き締めたいってことだよ!!」
恥ずかしい勘違いをされてることがわかり、全力で否定した。博盟もハッとし、顔を赤らめて咳払いする。
「何だ、そっちか。びっくりして冷や汗出た」
博盟が勝手に想像してただけなのに、俺が異常者みたいになってる。遺憾過ぎる。
「確かに、冷静に考えて経験ゼロの水継がそんなこと言うわけないもんな」
「経験あるよ!」
「え?」
「嘘、経験ない。……けど、もしそういうことをするときが来たら……俺が上でもいい?」
ふと、前世の記憶を思い出した。
初めての夜、どちらが上か下かで激しい討論を交わした。結果的に俺が折れて下になった……というか、流れで押し倒されたような気がしてきた。
前は俺が譲歩したから、今世は交替しても良いと思う。
期待を込めた瞳で見ると、彼はゆっくり首を横に振った。
「俺は下は向いてない」
「くそ、俺だって……ってもうこの話はいーよ! 普通に抱き締めたいんだって!」
明るいうちからディープな話はやめた方がいい。無理やり軌道修整すると、博盟は耐えきれない様子で吹き出した。
「あっはっは! もう腹捩れそう」
「こっちは腸煮えくりそうだよ」
「ごめんって。ほら、おいで」
やきもきしていたけど、目の前に両手を差し出される。
博盟は手を広げ、俺を待っていた。
ね、念願のハグ……。
ずっと願っていたからこそ、次の一歩に踏み出せない。
ちょっと気持ちを落ち着けよう。深呼吸を十回以上繰り返してると、博盟はため息をついた。
「あと三秒以内に抱き着かないなら帰る」
「やだ!」
由々しき事態だ。考えるより先に地面を蹴り、博盟の胸に飛び込んだ。
背中に手が回り、頭を撫でられる。博盟の息遣い、体温を直接感じた。
胸の動きが伝わってくる。
「……っ」
ようやくだ。嬉しくて涙組んだけど、バレないよう顔を埋めた。
「あったかいな」
「……うん」
生きてる。そんな当たり前のことか尊く、奇跡に思う。
もう絶対手放さない。ってのは俺の台詞だ。
「っと。おい、倒れる」
「受け止めてくれ」
「はいはい。ほんと世話が焼けるな」
全体重をかけてしまい、互いにズルズルと倒れる。近くの壁に手をついて笑い合った。
「夢だったんだ。博盟のこと、自分から抱き締めんの」
「水継……」
「お前といられるだけで、日に日に夢が叶ってく。幸せ過ぎて、マジでバチがあたりそう」
彼の袖を強く掴む。離れることが怖くて尚さら抱き締めた。
博盟はしばらく何も言わなかったけど、俺の顔をそっと持ち上げ、優しく笑った。
「心配すんな。今までが罰ゲームだったんだよ。出逢えたからには、これから幸せなことしか待ってない」