クーデレ転校生は今日も前世の恋人(俺)を捜してる



罪を犯した。
今回は、もう……バレたら死刑でもおかしくない悪行だ。
博盟を欺いたまま、彼に告白した。
「藤正さんを見つけたら、即別れる。って約束する」
狼狽える博盟を宥める為に告げるも、彼は尚さら腑に落ちない様子で壁に手をついた。
「期間限定ってこと? ……そんな形じゃ嫌だろ」
「ううん。だって、好きになっちゃいけない奴を好きになったんだから……。どう考えても自分が悪いし。いつ終わりが来ても、必ず受け入れる」
正体を打ち明けずに告白するつもりなんてなかった。でも、もっと博盟の傍にいたい。友人以上になりたい。
そして、怖いんだ。
( 博盟が……他の誰かに惹かれてしまわないか )
博盟が前世の恋人じゃなかったら、話は全然違った。相手がいる人間に手を出す真似は死んでもしないから、すんなり諦められたはずだ。
でも、彼だから歯止めがきかない。顔を両手で覆い、深いため息をついた。
「あんだけ浮気は駄目とか怒っておいて……ごめん。カスピ海まで引いてるよな」
「あぁ……いや、大丈夫。ここから駿河湾程度」
「お、おう」
それは喜んでいいのか?
密かに考えてると腕を掴まれ、両脇に持ち上げられる。
博盟のぬれた瞳は、真っ直ぐ俺を捉えていた。
「付き合おう」
「うぇ」
「藤正が見つからない前提で。……藤正を見つける前提で」
……っ!
多分、互いに頭の中は大パニックを起こしてる。
罪と矛盾と、小さな愛しさに振り回されてる。博盟は俺の顎を掠め取り、口を奪った。
「ごめん、水継。……好き」
唇を離し、彼は泣きそうな顔で零した。
「ふは……」
でも、謝らなきゃいけないのは俺の方なんだ。
「俺も。ごめんな、博盟」
好きになってごめん。
結果的に、もっと傷つける。───未来が見える。
もう仕方ない。拘束されても宙吊りにされても受け入れよう。それが罪深い俺のさだめだ。
頭の中で天に召される想像をし、唇に触れる。
今世では初めて交わしたキスに、しょうもないが気持ちが昂ぶっていた。
「さて……ひと来たらまずいし、そろそろ行くか」
「う、うん」
慌てて頷く。すると博盟は俺の手を強く握り、優しく微笑んだ。
「水継、これだけは約束する。これから先何があっても、俺はお前を守る」
「博盟……」
「何年経っても、どんな関係になっても。だから、これからもよろしくな」
優しいけど、力強い眼差し。昔から知ってる、大好きな笑顔。
泣いてる俺を何度も立ち上がらせてくれた少年。
「……こちらこそ。ありがと!」
博盟の心を奪う為、自ら泥沼にダイブ。俺は何回目生まれ変わっても、このぬかるみから這い出すことはできないらしい。







二回目の人生で、早くも第二の人生を迎えた気がする。
罪を罪で挟んだ、背徳のサンドイッチを作った気分。
俺を捜してる前世の恋人に、すらっとぼけて告白した。
「正気じゃない」
朝、洗面台の鏡に映った顔を眺めて呟く。案の定昨夜は眠れなくて、目の下に濃いクマができていた。
昨日の俺は頭がおかしくなってたとしか思えない。
「あああぁぁ! もう! 駄目っ!!」
でも、よく考えると今さらだ。博盟と再会してから、俺はずっと頭がおかしい。
絶叫してその場に崩れ落ちると、ちょうど歯を磨きに来た父がビクッと後ずさった。
「どうした水継。具合が悪いのか?」
「あ、ごめん。……ちょっと友達相手にやらかしちゃって……思い出すたび、自己嫌悪で具合が悪い」
「あぁ〜、そっちか。若いんだし普通だよ」
俺と同じく楽観的な父は、眠そうに歯ブラシをとった。
「じゃあさ、父さん。小さい頃に両想いだった子がいるとするじゃん。十年ぶりに再会して、相手は自分のこと覚えてるのにそれを教えてくれなかったら……どう思う?」
「そりゃ、教えてくれてもいいのにって思うよ」
「でしょ? 俺はその、教えなかった側のポジションにいるんだよ。ワケあって話せない。でも距離は置けない、みたいな」
色々すっとばしてしまっているが、父は深く訊くことはせず瞼を伏せた。
「お前が言いたくないなら、そのままでも良いんじゃないか」
「いや言いたい。でも言えない! から困ってる」
「最近の若者の悩みは父さんにはわかんないなー」
残念ながら、俺の感性は数十年前の若者だ。生まれたての子鹿のように立ち上がると、彼は歯ブラシを口に含んで廊下へ出た。しかし思い立ったように立ち止まり、こちらに振り返る。
「ま、でも……本当のことを知ったら、それまでの関係は少し変わるかもな。意識するようになるかも」
「や、やっぱ?」
「ああ。今以上に仲良くなるか。はたまたその逆か」
……!
去っていく父の後ろ姿を眺め、小さく頷いた。
まさにその通り。後者が死ぬほど怖い。全て打ち明けたとき、博盟との関係に修復不可能な亀裂が生まれるんじゃないかと。

こっっわ。

めちゃんこ怖い。何から何まで自分が悪いんだけど、今から凄まじく怖い!!
( あいつ普段は優しいけど、昔っから怒ると怖いんだよな )
制服に着替え、いつもの通学路を歩く。梅雨が明け、空は青く澄み渡っていた。
昨日より幸せなんだけど、何これ。喜びと恐怖が同棲始めちゃってる。
( 初めて会った日から博盟のことに気付いてたって告白したら……リアル島流しされそう )
とても冷静に、また確信した。
死ぬわ。
もう一生隠し通して付き合っていこうか。そんなクズ過ぎる考えが脳裏によぎる。
でもそれだけは絶対駄目だ。絶対、どこかで打ち明け、懺悔しないと。

こんな罪と秘密を抱えてんの、世界中で俺だけだよな。最低すぎてそこの川に飛び込みたいぐらいだけど、心頭滅却して駅の改札を抜ける。
昔、もし生まれ変わったら、みたいな話も何度かしていた。
きっと島の外にいるから、色んな所に行って、もっと堂々と過ごして、いっぱい笑おうと約束した。
それと、叶わない願いも口にした。
「結婚……」
家族になりたい。
……彼と離れる前日、照れながら伝えた。
俺は本気だったけど、博盟は冗談と受け取ってそうだ。
実際、渡さなきゃいけないものを渡せなかったし。……俺の真のプロポーズは不発に終わった。
はー。情けないし悔しい。
ホームに上るとちょうど電車が来たから、慌てて小走りする。が、躓いてバランスを崩してしまった。
「はわ!」
危うく大転倒……は免れ、目の前には昨日ぶりの少年の姿があった。
「っぶな……お前、いつも転び過ぎだぞ」
「博盟! おはよ、ありがと!」
何で彼は最高のタイミングで現れてくれるんだろう。抱かれたまま踵を地につけ、体勢を整える。
事故とはいえ抱き合ってたら周りの学生にチラチラ見られた為、咳払いで誤魔化す。
「そそっかしいから昔っから転んでばっかでさ。あはは」
「……確かに、あわてん坊だったな」
博盟はわずかに微笑み、腰を支えていた手を目の前に差し出した。
「ほら、乗ろう」
「う。博盟……」
「何」
「いや……何でもナッシング」
周りにひといっぱいいるんだけど。博盟の手を取り、童話のお姫様みたいに乗車した。
これは恥ずかしい。でも当の博盟が自然に振る舞ってるから、俺だけワタワタしてると逆に目立ってしまう。平然としよう。
車内はわりとひとがいて、見ると空いてるシートはひとつだけだった。
「水継、座りな」
「俺はいいよ。博盟が座って」
「ああ。じゃ、俺の膝の上に座ってくれる?」
無理ですって。目で訴えると、彼はにっこり頷いた。
華麗にエスコートされ、シートに腰を下ろす。すると博盟の胸から下が視界に入り、妙にドキドキした。
制服だけど、顔が見えないと大人の男性みたい。昔なんて制服なかったから今より大人っぽく見えてたはずだけど、不思議なもんだ。
もしかすると俺の心が若返ってる。……単純かつ純粋になってるのかもしれない。
端の席だから手すりに手をかけると、博盟も同じところを掴んだ。
指先が触れ、重なる。
言葉も視線も交わさないけど、彼と繋がってる気がした。
( 一応……今も恋人同士なんだ )
心臓がバクバク鳴って、それも隣のひとに聞こえてしまいそう。
博盟はどうだろう。
新しい人生で出会ったクラスメイトにドキドキしてくれてるだろうか。
もしそうなら嬉しい。そして抱き締めたい。
お前がちょっとでも惹かれてくれた奴は、お前が一度好きになってくれた奴だから。……堂々としていいんだって。