クーデレ転校生は今日も前世の恋人(俺)を捜してる



「フルーツパフェお待たせしました」
「わわ! どうも!」
放課後、俺と博盟は高校近くのファミレスに入った。
「はい。カレー作ったご褒美」
「ひっ博盟……」
博盟はフルーツをスプーンに乗せ、俺の口の前に差し出した。
「さすがに外は……見られたらドン引かれるって」
「ははっ。これならどう」
彼はテーブルに置かれたメニュー表を取り、俺の顔を隠すように掲げた。俺達は壁側のテーブルだから、これなら隣からは見えない。
しかし防犯カメラはあるだろうし、見られなきゃいいって問題でもないんだよなぁ。
( けど )
博盟の顔を見る。こんな見惚れそうな顔で微笑まれたら、拒否るのが難しい。
負けた。豪快にフルーツを頬張り、頭を押さえる。
「俺は罪に罪を重ねてる気がする」
「いいんだよ。高校生を甘やかすぐらい、あいつも許してくれる」
博盟はドリンクバーで飲み物をとってきてくれた。スマホのカメラを起動し、パフェを食べる俺を撮影する。
「こら、それ盗撮……てか、これも言いたくないなら大丈夫だけど。博盟達って何歳ぐらいだったの?」
「藤正は二十歳」
「若い。……やっぱり、辛いこと訊いてごめん」
「全然。お前にはむしろ訊いてほしいぐらい。話してるうちに、俺も忘れてたこととか思い出すし」
同感だ。俺も、前世の記憶は完全じゃない。子細はすっぽ抜けてるし、幼い頃なんてもっと曖昧。
ただ、博盟に対する気持ちだけが強い輝きを光っていた。
「ううん、そこら辺はデリケートだから。マジでごめん。なさい」
「だからいいって。でもびっくりした?」
「そりゃなー。俺と変わんないもん。やっぱその、藤正さんは俺に嫉妬すんじゃないかな」
前で手を組んでモゴモゴ言ってると、博盟は含みのある笑みを浮かべた。
「したらしたで良い。妬いてるときのあいつの顔可愛いから」
「お前は良いかもしれないけど、怒りの矛先が俺に向くかもしれないだろ」
「大丈夫。そのときは俺がお前を守るよ」
と、彼は楽しそうに俺の手を握る。
く……楽観的というか、余裕たっぷりだ。俺が嫉妬で荒れ狂ってるとも知らず、この浮気者。
「博盟、この店に前世の恋人がいるとも限らないだろ。イチャイチャすんな」
「んー? そうだなー……」
博盟は俺から手を離すと上体だけ後ろに向け、店内を見回した。
「お……確かに、言われてみると何か感じるかも」
「うっそ」
マジで言ってんのか。ここに前世の恋人がいるのに?
博盟は額を押さえ、真剣な顔で考えている。やがて、食器を片付けている店員の女性を指差した。
「あのひとから、何か懐かしい感じがする」
「気のせいだよ気のせい」
博盟の手を掴み即答した。マジで彼の勘はアテにならない。でも俺が否定したことで、彼も不思議そうに肩を竦めた。
「何。水継は俺の前世の恋人がわかるのか?」
「わからないけど、俺の全細胞が告げてる。あのひとは違う。まず、美人だから絶対彼氏いる」
息継ぎなしに話すと、彼はフム、と口元に手を添えた。
「そうだな。胸も大きいし、脚も細いし」
「オイこら、どこ見てんだ」
脚を組んで彼女を見つめる博盟に、小声でキレる。女性にも申し訳ないし、これもある意味浮気だ。ダブルでやきもきした。
「博盟。藤正さんかどうかは、俺も一緒に見極めたい。よろしくて?」
「別に良いけど……実際に話してみないと絶対わからないからな? 相手だって、前世の記憶を必ずしも保持してるとは限らないんだし」
席を立ち、レジへ向かう。ここは博盟が奢ってくれたから、お礼を言って店を出た。
「無事に見つけても、藤正が俺に気付かない可能性がある。そのパターンが一番大変だ。前世の話をしても不審者扱いされて、話し合いもできない」
「捕まえればいい! どうせ縄で縛るつもりなんだろ? 俺も手伝うよ! 何なら手錠買ってこようか?」
「何か唐突にやる気満々だな……」
場所を変え、夕食にと韓国料理店に入った。俺は博盟と同じ激辛冷麺を頼み、再度話し込む。
「博盟、今までどれぐらい恋人捜しに行ったの」
「父親が転勤族だから、何だかんだかなり回った。東北、関西、四国に九州。旅行中も恋人捜しでひとり動き回ってた」
「すごいなー。尊敬する」
そこまでして捜してくれてたんだ。……嬉し。
俺は以前東京にいた。人口が多いから逆に見つけやすいんじゃないかとあちこち回ってたけど、全然見つからなくて途方に暮れたことを思い出す。
落ち込んで、気持ちを奮い立たせて、また心折れかけて。その繰り返しを経て、俺らはここにいる。
一緒だ。……どうしようもなく、俺は繋がっている。
「生まれ変わってると信じて捜すしかないな」
博盟は麺をすすり、肩を揺らした。俺もブンブン首を振って頷き、冷麺をかきこんだ。
「あう……辛い……」
「はは。ほら、水」
「ありがと」
水が入ったグラスを受け取ると、博盟は眉を下げた。
「俺に合わせて辛いもの頼まなくてもいいんだぞ」
「ん……」
それもバレてた。でもやっぱり、せっかくなら同じものを食べて、感想を共有したい。口をぎゅっと結んでいると、博盟が心底楽しそうに笑ってることに気付いた。
何年も捜し続けても見つからないから、逆に余裕が生まれてるのかもしれない。そこは俺と同じだ。
「そういえば、生まれ変わった人達のコミュニティもあるみたいじゃん。そういうの登録してないの?」
「あぁ、あれはしてない。情報収集に協力するっていうより、経験者同士悩み相談する集まりなんだ。俺の予想では、あいつはそういうところに行かないと思う」
「へ、へぇ……」
何か怖いぐらい見透かされてる。一度行こうか迷ったけど、ひとりで捜す方が身軽だからやめたんだ。
咳払いし、水を一気飲みする。デザートにバニラアイスを二つ頼んで、最近入れたアプリを開いた。
「なぁ、このアプリ面白いよ。今まで訪れた都道府県を記録できんの。……とりあえず最初は県内を虱潰しに回って、また範囲広げてこうぜ」
「便利だな。さすが水継、良いもの見つけてくれる」
「煽てても何も出ないぞ」
ま、さっき奢ってもらったしここの勘定は出すけど。
笑い合って、ゆっくり席を立った。
「トイレ行ってくる」
「あぁ」
仕事帰りの人も増え、店内は一気に賑わってきた。
手洗いに向かい、大きな鏡面に映る自分を眺める。
何か、未だに実感ないな。
博盟と一緒に笑って、ご飯食べて。夢心地ってこういうことを言うんだろう。幸せ過ぎてずっと宙に浮いてるような、ふわふわした感覚に包まれている。
恋人捜しの話を合わせることは忘れちゃいけないけど、それ以外は最高……。
でも高校生で良かった。もし今酒が飲めたら、酔った勢いで絶対彼に抱きつき、告白してしまう。好きが爆発してえらいことになる。
「マジで助かった……」
さぁ、また普通のクラスメイトを演じよう。深呼吸して踵を返すと、ちょうど手洗いに入ってきた中年の男性とぶつかってしまった。
「わ。すみません」
「あ? お前どこ見てんだ」
彼は舌打ちし、露骨に態度を悪くした。こっちは酒が入って悪い方に酔っている。
「高校生かよ。年上相手には申し訳ありませんだろうか」
「あっ大変申し訳ございませんでした」
肩がぶつかったぐらいでそこまで怒れるのはすごいと思う。見習いたくはないが、ここはさっさと逃げた方が良い。
頭を下げて通り抜けようとしたが、腕を掴まれ、個室の方へ引き寄せられた。
「ハッ、よく見たら綺麗な顔してんな。女にモテて調子乗ってんだろ」
「はい!?」
何の言いがかりだ。
ここまで突っかかってきたら暴れた方が良いか? でも、体格差もあって腕を振りほどくことができない。
それに先に手を出すのはまずいかも。もし学校に知られて停学処分にでもなったら、博盟と会えなくなる。それは絶対嫌だ。
こういう時、頭は無駄に回る。先々のことを考えて動けなくなる。
難儀だ。ただ博盟といたいだけなのに……冷静になろうとする思考が、むしろ自由を奪う。
「っ!」
そのとき、男の手がシャツを入れてるベルトにかかった。
全身が凍りつく。やばいと思うのに、抵抗できない。
すぐそばにあいつがいるのに。
────いやだ。
「博盟……っ!」
「水継?」
彼の名前を呼んだ瞬間、ドアが開いた。個室に追いやられた状態だが、博盟は奥までやってきて、俺を見つけてくれた。
俺が男に掴まれてる姿を見ると、表情が一変した。男の腕を引き離すと同時に捻り、体ごと壁に押しつける。あまりに早業で、正直こっちがビビってしまった。
「いってぇ! おい、やめろ!」
「……先に、彼に何をしてたのか教えてもらえます?」
「別に……そのガキがぶつかってきたんだ! 態度悪いから説教してただけだよ!」
博盟は俺の方に振り返る。事実と異なるので首を横に振りまくった。
「とりあえず店員呼びますね」
「は。わ、わかった! 悪かったよ! だから離してくれ!」
ようやく正気に戻ったのか、解放された男は足早にトイレから出て行った。ホッとしたけど、脱力してつい壁にもたれてしまう。
「水継!」
博盟は血相を変え、俺を抱き寄せた。
「大丈夫か? 何された? 今すぐ警察呼ぶから……あと怪我してたら救急車を……」
「あ、怪我はないからだいじょーぶ。気が抜けただけ……ごめん」
彼の腕を掴み、体勢を整える。緊迫感から解放されたのに、博盟があまりに心配そうだから笑ってしまった。
「何笑ってんの」
「あはは。いや、博盟がめっちゃ必死だから」
「当たり前だろ!」
張り裂けそうな声が響き渡る。普段の博盟からは考えられない声音だった。
一喝されて、俺も口を噤む。……笑ったのは彼をからかってるからじゃなくて、……嬉しかったから。
「またお前に何かあったら、俺は……っ」
博盟の瞳が、波のように揺らめく。それに気付いた瞬間、胸が締め付けられた。
今世ではもう見ないと思ったのに。また、こんな顔をさせてしまった。
やっぱ俺は最低最悪な恋人だ。俯き、深く息を吐く。
しかもこんな時まで、泣き顔可愛いとか思っちゃうクズだ。顔を上げ、博盟の頬にそっと触れる。
「心配させてごめん。大丈夫だよ」
「……本当に?」
「うん。オッサンにあそこまで近付かれたの初めてだからゾワゾワしたけど」
腰回りをポンポンと叩き、彼に笑いかける。また笑いごとじゃないと怒られるかと思ったけど、優しく頭を撫でられるたけだった。
すごい心配してくれるなぁ。……親友を。
「ごめん。博盟がめっちゃ必死に心配してくれるから、嬉しくて笑っちゃったんだ。助けてくれてありがとう」
「……」
ここは茶化さず真顔で言うと、強く抱き締められた。
「ち、ちょっと博盟っ」
「心配だよ。……心配じゃない時なんてない……っ」
力は弱まるどころか、どんどん強くなる。博盟の胸に顔をすっぽりうずめていて、息することに必死だった。
「お前は本当、どこに行っても危ないな」
「何だよ。今日はたまたまだって!」
もっと言えば、こんなこと初めてだ。たまたま、博盟といる時にやばいひとに当たってしまった。
でも、そのおかげで博盟と抱き合ってる。結果オーライ……とか言ったら、今度こそ殴られそう。
心の中だけ手を合わせて、博盟の袖を握った。
「ちょっと怖かったけど、大丈夫だよ。だってすぐ博盟が来てくれたもん」
昔からそうだ。俺が怖がったときは……いや。
怖がる前から、彼は俺の傍にきて、抱き締めてくれていた。
変わらないな。……俺の正体を知らないことだけ複雑だけど、彼の優しさは同じで安心した。
「博盟、ありがとっ」
「……」
もう抱き締めたい。……どころか、キスしたい。
でもできないから踵を浮かし、彼の顔を覗いた。
「藤正さんがいなかったら、さっきのはマジで惚れたかも」
「ふはっ」
個室から出て、二人で歩き出す。博盟は俺の手を掴み、耳元で囁いた。
「俺はお前に惚れてる」
「え」
「言ったろ。可愛くて、甘やかしたいって。……昼間は合わせたけど、弟に思う感情なんかじゃないよ」
博盟は足を止め、ドアを押さえる。それから頭が痛そうに前傾した。
「どうしたもんかな……」
「な、何。どうした」
「前世の恋人を捜しながら、お前のこと大事にしたいっていうのは……さすがに重罪だと思ってさ」
「あ〜……そうね……」
もし俺が前世の恋人ではなく、人生一周目のまっさらな少年なら。前世の恋人捜しなんかやめて、自分だけを見てほしいと思うだろう。
でも、中身が完全に元恋人だから。彼の言う通り、どうしたもんか。
( 好かれるのは大歓迎ですけど!!!! )
元恋人としては複雑極まりない。俺とわちゃわちゃすることで、“藤正”のことを忘れてしまうかもしれない。
でも、それでもいいのか? 結果的に彼も俺も幸せになれるなら、それで……。
イカ──────ン。処理追いつかなくて頭爆発しそう。
真っ白になって佇んでると、博盟は気まずそうに咳払いした。
「や。わるい、今のは忘れて」
「えぇ! 待てよ、俺に惚れてるんだろ? 大丈夫、わかるよ。俺は確かに……イケメンだし!」
「自分で言うな」
「すみません……でも、好きになんのは理屈じゃないんじゃないか。フィーリングとかあんじゃん。今世では……俺らは相性良いのかもよ」
こんなこと言ってたらいけない。頭ではストップがかかってるのに、口は無責任に回っていた。
彼を独り占めしたい一心で。
「白状する。さっきのは、ほんとに惚れた」
「……水継」
やばい。多分、俺は今倒れそうなほど真っ赤になってる。
でもそれは博盟も同じで、可愛いけど可哀想なぐらい赤くなっていた。
「……もしかして、互いに惚れたってこと?」
「……おう」
一秒の沈黙が一分ぐらいに感じる。
壁に手をついて目眩に耐えていると、博盟は俺の唇に触れた。
「浮気決定かな」
「……」
眼の前に差し出された手を取る。息があたりそうな距離で博盟と見つめ合った。
どんな罰を受けてもかまわない。
「博盟。今から最低なこと言う」
踵を浮かし、彼の頬にキスをした。
「前世の恋人が見つかるまで……俺と付き合って」