クーデレ転校生は今日も前世の恋人(俺)を捜してる




ちっぽけな呟きは、南風に攫われた。
透き通った海の中で、二人でただ佇む。
まるで世界で二人だけになってしまったみたいだ。人も鳥も魚も、何も見つからない。
コバルトブルーの水面を見つめ、ゆっくり顔を上げる。

博盟も同じように光の揺らめきを見ていたが、静かに瞼を伏せた。

「いいよ」

澄みきった、何の未練もない声音だった。
え。それだけ?
あまりに淡白な反応に驚いてると、博盟は怪訝な表情で見返してきた。
「何驚いてんだよ。お前が言い出したんだろ」
「そ、そうだけど……超絶クールだからびっくりした」
クールというか、……落ち着いていて。
もっと怒るか、ショックを受けてもいいところなのに。依然として博盟は超然とかまえている。
でも今度は大袈裟にため息をつき、片足を上げて水を跳ねかした。
「予定通りなんだろ?」
「え?」
「お前は、藤正を見つけたらこの関係は終わりだって言った。……ってことは、藤正を見つけたんじゃないのか」
博盟ははっきり告げ、こちらを指差した。
その堂々たる振る舞いに、こちらが怖じ気ついてしまう。でも俺ももう限界だった。
「そうだよ。とっくの昔に見つけてる」
これ以上抑えることはできない。彼の方に向き、張り裂けそうな声で叫んだ。

「博盟、お前もだろ」

もう逃げも隠れもしない。
視界がやけに悪いけど、目元を拭って博盟を見据えた。

「藤正はここにいる。気付いてるんだろ。……道直」

息切れしながらも、何とか言えた。感情はめちゃくちゃだったけど、友瀬の言う通り確かにスッキリしていて、何だか可笑しかった。
「だから、唐谷水継と別れてほしい。それで、新しい水継と藤正と付き合ってほしい!」
「何だそりゃ」
博盟は黙って聞いていたが、耐えきれない様子で吹き出した。
「……うん。まーアリかもな。どっちにしろ、“水継”とは一回別れなきゃいけないし」
博盟がゆっくりこちらに歩いてくる。ずっと笑ってると思ったけど、瞳はこの海のように揺れていた。

「まずは久しぶり。藤正」
「……っ」

でも、先に泣いたのはやっぱり俺だった。
大粒の涙を零す俺の目元をなぞり、彼は困ったように笑う。
そして一番に、あの質問をしてきた。
「ちなみに、いつから俺のこと気付いてた?」
「は、初めて会った日から」
「………………ふーん」
やばい。今にも人ひとり殺しそうな目をしてる。
嫌な汗が滝のように流れ、慌てて手を振った。
「だ、だって! お前が俺のこと憎いとか、縛って木に吊るして鞭打つとか言うから!」
「そこまで言っとらんわ」
被害妄想が爆発してしまい、博盟は頭が痛そうにため息をついた。
思い上がりだけど、勇気を出して打ち明けたことを評価してほしい。半泣きで見つめると、彼は気まずそうに頬を掻いた。
「ま、最初に脅したのは事実だな。ごめん」
「そうだよ! 俺がどんだけ悩み苦しんだと思ってんだ! もう一生打ち明けないで、別人として付き合っていこうかと思ったぐら痛たたたたたホントごめんなさい」
ぶちまけてる途中で頬をつねられたから、秒で大人しくする。でも涙は止まらなくて、嗚咽しながら彼に伝えた。

「好きだから……ずっと一緒にいたいから、怖くて言えなかった。……ごめん、道直……っ」
「うん。……わかってる。不安にさせてごめんな」

優しく抱き寄せられる。博盟は、泣きじゃくる俺を静かに宥めた。
「好きだから馬鹿みたいに警戒して、慎重になるんだ。お互い様だよ」
「……博盟も?」
「あぁ。俺も、初めて会った日に気付いた」
はい?
今、なんて。驚いて何も言えない俺に、博盟は冷静に告げる。
「最初から言ってるだろ? 見ればわかるって」
「お、おま……っ」
信じられない。
理解が追いつかなくて、今にも倒れそう。
じゃあ最初から、博盟も全部演技していたのか。俺がたまに言い間違えてアタフタしてるときも、浮気だなんだと悶えていたときも、心の中でせせら笑っていたのか。
「信じられねぇお前! 最っ低!」
「お前もな。俺に恋人捜し継続させて、あちこち引っ張り出して遊び呆けんのは楽しかったか?」
「いやっそれは……お前と一緒にいる口実が必要だから! 俺の行いは結果的に全部お前の為で、清廉潔白だ!」
号泣から一変、今度は怒りと羞恥心に支配される。この口争いは中々おさまりそうになかった。

「大体お前、最初から口滑ってたぞ。俺が恋人は同性愛者ってこと話す前に、“彼”を裏切ったら駄目とか何とか騒いでた」
「そうなの?」
「そう」
「…………」

言われてみれば、そんな気もしてきた。
事実、それ以外でもかなりのボロを出してそう。
博盟は全部華麗にスルーし、俺から正体を打ち明けるのを待っていたみたいだ。
「……って! お前こそ何で教えてくれなかったんだよ!」
「もしかしたらお前は前世の記憶が戻ってないのかと思って、見守ってたんだ。でもこれ絶対戻ってるな、って確信してからは……何で言い出さないのかわかんなくて腹立つから、もう少し様子見することにした」
「最低ですよ。お互いに」
いやほんと、あり得ない。
誤解と深読みが重なった結果、しようもない駆け引きと化かし合いに発展してしまった。
自己嫌悪から額を押さえていると、博盟は楽しそうに口を手で押さえた。
「今回告白しようと思った理由って……もしかして、友瀬から聞いた? お前、寝言で俺の名前何度も繰り返してたの」
「……っ!!」
恥ずかし過ぎて頭がショートしかける。
寝言は予想外だった。博盟のことばかり考えていたから、短い夢でも口に出てしまったのかもしれない。
ああもう、最悪。
博盟……いや、道直のことで頭がいっぱいということが、本当の本当にバレてしまった。
「もうやだ。帰る……」
「まだ帰れないから観念しろ」
博盟は腕を組み、目に涙をためながら笑う。

「あははっ……もうお前、相変わらず可愛くて最っ高!」
「だから、可愛い言うな!!」

何度目のやりとりかわからないが、楽しそうな博盟に一喝する。
でも、神様どころか、誰が見ても笑うかもしれない。
こんな小競り合いをして、ひとりで苦悩した俺達を。
かっこ悪いなんてレベルじゃない。二回目の人生の方が黒歴史って、マジでどういうことだ。
博盟は笑っていたけど、やがて俯き、真剣な表情を浮かべた。

「藤正。今世でも、こんな俺とまた付き合ってくれるか?」
「……!」

なんつー強かな恋人だろう。
こんな奴と巡り合ったのが運の尽き。……いや。好きになってしまった、俺の業だ。
( 可愛い )
反則だ。こんな笑顔で微笑まれたら、断るなんてできない。

第一、好きで好きで仕方ない。
「ずっと言いたかった。それに、ずっと抱き締めたかったんだ。ただのクラスメイトとして、じゃなくて」
懺悔となるはずの告白は、彼に抱き着くことで打ち明けた。

「道直! と、博盟が好きだ……!」
「ははっ。……ありがと!」

真実を伝えたら前世の繋がりすら断ち切れてしまうかも、と本気で思った。
でも彼は俺が思ってるよりずっとずっと優しくて、愛情深い奴だった。
知ってたのに、好きだから臆病になってしまった。人間って、恋愛って本当に厄介だ。
「……俺もやっと言えるよ、藤正。お前を見つけた日から、ずっと言いたかったこと」
でも絶対失いたくないと思ってしまう。思いっきり抱き締めたくなるほどいじらしくて、愛おしい。


「大好きだよ、水継。生まれ変わってくれてありがとう」