その#付き合ってません(ハッシュタグ)非公開に出来ますか!?


新学期。俺たちは三年生になった。特別クラスの莉生と一般生徒の俺では同じクラスになることはないので、普段と変わらず昼休みや放課後を使って動画制作に勤しんでいた。
「コラボ依頼?」
放課後の生徒会室。スマートフォンの光に照らさ れた莉生の顔は、いつもみたいに浮き足立ってはいなかった。
「そう、高校生占い師の蒼天の館っていうアカウントで動画投稿してる人から」
差し出されたスマホを覗き込む。
青を基調にした神秘的なアイコン。フォロワー欄に並ぶ数字を見た瞬間、思わず声が裏返った。
「え、この人百万人フォロワーいるの!?なんでまたそんなすごい人から」
「さぁ?陽に会ってみたいんだって」
「俺?」
「うん。なんかこの間の生配信の切り抜きを見て陽のこと知りたくなったから一度会ってみたいって」
「そりゃ願ったり叶ったりだけども」
こんなの、普通に考えれば大チャンスだ。れおはるの名前を一気に広げられるかもしれない。
なのに、顔を上げても莉生は浮かない顔のままだった。
「なにか気になることでもあるの?」
「いや、なんか……陽が注目されるのが嬉しくもあり複雑でもあり、みたいな」
「古参ヅラかよ」
「いや古参ではあるでしょ!?俺が陽を見出したのにさ〜知ってる?この占い師のおかげで人気になった人たちが何人もいるのよ」
「へぇ、それはすごいな」
「陽が遠くに行っちゃうのは嫌だな」
冗談みたいな声だった。なのに、どうにも莉生の本音が滲んでいるようだった。
「その可能性があるのは俺より莉生の方だと思うけど」
「俺はどこにも行かないよ、陽と一緒に夢を叶えるんだから」
「恥ずかしいことをよくもまあそんなはっきりと」
「だってこれは俺のほんとの気持ちだからさ」
「……そう」
まっすぐ視線を向けられて、言葉に詰まる。
莉生は時々、こういうことを平然と言う。冗談でも、茶化しでもなく。
胸の奥に熱が落ちて、俺は誤魔化すようにスマートフォンへ目を落とした

そして迎えたコラボ当日。指定されたスタジオは、オフィス街にある雑居ビルの上階にあった。
扉を開けた瞬間、ふわりと香水の匂いが鼻を掠める。
室内は深い青と黒で統一されていて、壁には月や星を模した装飾。間接照明が薄暗く灯り、中央には重厚な丸テーブルが置かれていた。
いかにも、という内装に思わず辺りを見渡していると、奥から一人の青年が現れた。
黒に近い青髪。涼しげな目元。同年代のはずなのに、妙に落ち着いた雰囲気がある。
「初めまして、海影蒼です。蒼天の館へようそこそ」
「初めまして、影山陽です」
「朝日奈莉生です、どうも」
蒼は柔らかく微笑むと、すっと目を細めた。
「気軽に蒼と呼んでください、お二人と同い年なので」
「そうなんだ、じゃあ蒼も俺たちにタメ語で話してよ」
「たしかに、その方が俺らも話しやすいかも」
「分かった、じゃあ莉生に陽。改めてよろしくね?」
案内されるまま椅子に腰かける。既にカメラは回っていて、撮影スタッフも横に控えていた。
「まず、なぜ僕が君たちをこの館に招待した経緯を話した方がいいよね?」
テーブルの上には、既にカードが綺麗に並べられていた。照明を受けたカードの縁が鈍く光る。
「そうだね、蒼からコラボ依頼もらったときめっちゃびっくりしたし」
「うん、すごい人からコラボ来たなと思って」
「ありがとう、二人にそんな風に言ってもらえるなんて光栄だよ。僕が二人にコラボ依頼をしたのはね、君たちの配信の切り抜きをたまたま見たのがきっかけなんだ」
「切り抜き?」
「そう、二人はとっても仲が良くて、二人でいることで相乗効果として運勢を高めていく存在なのに、別々の道を歩むことが視えたんだ」
ふいに、隣の気配が変わった。見ると、莉生がまっすぐ蒼を見ていた。
「なんか急にオカルトチックになってきた」
「そういうのもやってるよ。でも今回は改めてタロットで君たちの運命を占った。そうしたらね?」
蒼はテーブルの上に一枚のカードを置いた。そこには、白い衣と翼を持つ天使が二つのカップのあいだで水を注ぎ替えていて、水は斜めに流れ、重力に逆らうような不思議な動きをしている。片足は水の中、もう片方は地面にあり、静かに立っている。背景には遠くへ続く道と淡い光の山が描かれているカードだった。
「これは?」
「節制、と呼ばれるカード。正位置、つまり正しい位置にあればバランス調和順調を表す。でもこれは逆位置」
「逆?」
「そう、停滞を意味する」
蒼の細い指が、カードの上下を静かに示す。
「まさに今の君たちを表すカードだと思わないかい?」
最近、数字は伸びている。順調なはずだ。
それなのに、ほんの少しだけ息苦しい瞬間が増えていた。
「……つまりどういうこと?」
「変化が必要だということ」
「変化?」
「そう、今のままでは君たちは止まってしまう。ここでひとつ、大きな転換を入れるべきだと思ってね」
莉生がわずかに身を乗り出す。
「たとえば?」
「そうだな、それも占ってみたんだ。そうしたら莉生、君には愚者のカードが出たよ」
「愚者?」
「新しい始まり、挑戦を意味するカードだよ」
莉生の目が、ほんの少し揺れた。
「れおはるのままじゃダメってこと?」
「新しく外に出るチャンスが来たら迷うことなく飛び込んだ方がいいね」
「外に出るチャンス……」
ぽつりと繰り返した声が、やけに耳に残った。
「逆に陽は、月が出た」
「……意味は?」
「不安、迷い、隠された感情。これは莉生が新しいことにチャレンジするとより濃く出るとあるね」
「……不安、迷い……」
その瞬間、胸の奥を見透かされた気がした。莉生が先へ進くこと。自分だけ置いていかれること。そんなこと、一度も口にしたことなんてないのに。横を見ると、莉生は真剣な顔でカードを見つめていた。その横顔が、少しだけ遠くに感じたのは気のせいだと思いたかった。
「でもそれが悪いってわけではないんだ」
蒼は静かに笑って、月のカードを指先で撫でた。
「月はね、本音を暴くカードでもある。陽はきっと、自分でも気づいていない感情を抱えてる」
「……自分でも?」
「うん。たとえば、“このままでいたい”とか」
心臓がドキリと跳ねた。それは否定できない感情を言い当てられたから。
れおはるは順調だ。人気も出てきた。毎日忙しくて、楽しくて、刺激的で。
でも──。
このまま、ずっと。莉生と二人で動画を撮って、
馬鹿みたいな企画で笑って、数字が伸びたって騒いで。そんな日々が、ずっと続けばいいのにって。そんなことを一度でも思ったことがないと言えば、嘘になる。
「……っ」
無意識に息を呑む。隣を見る勇気はなかった。
すると蒼は、今度は莉生の方へ視線を向けた。
「逆に莉生は、このままじゃ終われない人だ」
「……!」
「もっと上へ行きたい。もっと知られたい。もっと大きな景色を見たい。違う?」
莉生は答えなかった。その姿に胸の奥が、ちくりとした。
「だから君たちは、今すごく綺麗に噛み合ってる。でも同時に、“ズレ始めてもいる”」
「じゃあ、どうすればいいの」
莉生は絞り出すような低い声で蒼に尋ねた。
「簡単だよ。二人とも、選ぶんだ」
「選ぶ?」
「れおはるとして進むのか。それとも、それぞれの道を進むのか」
蒼は最後のカードを引く。そこに描かれていたのは、高い塔に雷が落ち、人々が崩れ落ちる絵だった。
「……塔?」
「崩壊のカード」
蒼はとても穏やかな顔でカードをこちらに提示した。
「でもね。本当に必要な関係は、一度壊れても終わらないよ」

撮影はそこで終わり、機材の撤収やスタッフへの挨拶を済ませても、俺たちはなかなか帰る気になれなかった。
蒼の言葉が、まるで胸の奥に小骨みたいに引っかかっている。
夕暮れの街を当てもなく歩き、気づけば近くの公園にたどり着いていた。
ブランコが風に揺れてきぃ、と小さく鳴る。子どもたちの姿はもうなく、オレンジ色の西日だけが遊具の影を長く伸ばしていた。
並んでベンチに腰を下ろす。しばらくはブランコの音だけ聞いていた。
「……どう思った?さっきの占い」
先に口を開いたのは莉生だった。
俺は足元の砂利を見つめながら、小さく息を吐く。
「どうって……なんか、当たりすぎて怖かったかも」
正直な感想だった。自分でも気づいていなかった部分まで見透かされたような気がして、今も落ち着かない。
「たしかにな〜」
莉生も苦笑しながら頷く。少し迷ってから、ずっと胸に引っかかっていたことを口にした。
「莉生は……このままじゃダメだと思ってるの?」
「え?」
「俺一人じゃ、莉生の夢には力不足?」
最初は半ば無理やり乗せられた船だった。でも、最後に乗ると決めたのは自分だ。
ここまで一緒にやってきたという自負もある。
だからこそ、もし莉生の中で限界を感じているのだとしたら――それが少し怖かった。
莉生は目を丸くしたあと、困ったように笑った。
「そんなことないよ」
莉生は即答した。それだけで少しだけ肩の力が抜けていく。
「ただ、やっぱり自発的な発信には限界があるなって思ったんだ」
「……うん」
それは理解できる。理解できるからこそ、何も言えなかった。そんな俺を見兼ねて、莉生がぽつりと話し始める。
「……俺の家さ、医者の家系なんだよね」
「え、そうなの?意外」
「よく言われる」
莉生は空を仰いだ。
「親父も母さんも上の兄も医者でさ。真ん中の兄も医大生なんだよね。でも俺は嫌だったんだよね。親のレールに乗って医者になるのは」
口元には笑みが浮かんでいたけれど、いつもの軽さはなかった、自分のことを自嘲しているような笑み。
「だからインフルエンサーになって、俺は俺の人生を歩きたいって証明したかったの」
「……俺の家もそうだよ。莉生とはちょっと違うけど」
「陽も……?」
そんなこと考えたこともなかったと言わんばかりの驚いた顔の莉生と視線が合う。
「俺の家は逆に芸能一家だったんだよね。父親が監督で、母親は女優で」
「えっ」
「俺も小さい頃、子役の事務所にいたし」
「え!? そうなの!?」
莉生が身を乗り出す。
「どうりでカメラ慣れしてると思った」
「でも俺はそれが嫌だったんだよね」
今度は莉生と同じように空を見上げた。
「だから勉強して、特待生になって、いい大学に入って、いい会社に入って。安定した暮らしを手に入れたかったんだけど」
そこでわざとらしく肩をすくめた。
「まあ、どっかの誰かさんのせいで今はそっちはお休み中だけどね」
「なんだ、陽も一緒だったんだ」
莉生が笑う。つられて俺も少し笑った。
そのあとに残った沈黙が、さっきより気になった。
「なにか迷ってること、あるんでしょ」
莉生の笑みが止まる。やがて、観念したように息を吐いた。
「……陽には隠し事できないかぁ」
「じゃなきゃあんな占いなんて受けないと思ったんだよ」
「それもそうか」
少し間を置いて、莉生が姿勢を正す。
「あのさ……実は、恋リアの出演オファーが来てて」
「恋リアって……好きあと?」
「うん」
「すごいじゃん」
思わず声が出た。
好きあと──『好きになるまで、あとすこし』。
今、高校生の間で圧倒的な人気を誇る恋愛リアリティーショーだ。
そこから一気に知名度を上げたインフルエンサーも多い。
そんな番組から莉生に声がかかった。
それがどれだけ大きなチャンスか、俺にだって分かる。
「受けるの?」
「受けようと思ってる」
迷いのない返事だった。
「蒼にも背中を押されたし」
「そうだよね」
そうだろうと思った。莉生ならきっと挑戦する。夢に近づく道があるなら、絶対に飛び込む。
それが朝日奈莉生という男だから。
「陽は反対?」
「莉生の決めたことに反対はしないよ」
それは本心だった。
「けど……」
その先が出てこない。
莉生が少しだけ首を傾げる。
「今いるファンの人はどうなるのかって、心配?」
こくりと頷く。それも嘘じゃない。
「そうだよね。俺が恋リアに出ること反対する子もいると思う。でもさ」
莉生は前を向いたまま言った。
「やってみたいんだよね」
その声にもう迷いなんてなかった。
「陽さ」
「ん?」
「もしかして俺が恋リアに出るの嫌だったりする?」

「そんなわけない」
反射みたいに否定する。そんなわけない、嫌なわけない、莉生の夢は叶えて欲しい。
「俺は莉生の夢を応援してる」
「陽」
次の瞬間、ふわりと身体が引き寄せられた。
気づけば莉生の腕の中にいた。
突然のことなのに、なぜか離れようとは思わなかった。
肩口に顔を埋める。莉生の体温が近い。聞き慣れた心臓の音がする。
「じゃあなんで、そんな寂しそうな顔してるの?」
息が止まった。
「……」
声が出ない。
莉生は抱きしめたまま何も言わず俺が何かを言葉にするのを待っていた。
「なんでこんなにモヤモヤするのか、自分でもわかんない」
「……うん」
莉生は急かさない。ただ静かに聞いてくれる。だから余計に止まらなかった。
「莉生には有名になってほしい。それは俺がれおはるを始めた時からずっと思ってることで」
「その夢に近づくチャンスを莉生は得たのに。俺はどうして、しばらく会えなくなるのかな、とか。撮影もしばらくないのかな、とか」
そんなことばかり考えてしまう。こんなんじゃ莉生の夢を応援してるなんて言えない。あまりにも自分勝手さに嫌気がさす。
「……そうだね」
莉生の声が耳のすぐ近くで落ちる。静かな声だった。
「……ごめん」
俺はゆっくり身体を離した。
「こんなこと言って」
莉生は何か言おうとして、結局口を閉じた。
夕暮れはもうほとんど消えて、公園には夜の色が降り始めていた。
「今日はもう帰るね」
「陽……」
背後で莉生が呼ぶ。足を止めかけて、やめた。振り返ったらもう戻れなくなってしまうような気がしたから。
「本当に応援してるから」
それだけ残して歩き出す。
莉生がこの時どんな顔をしていたのかなんて、俺には知る由もなかった。

家に帰ると莉生からメッセージが届いていた。
正式にオファーを受けたこと。しばらく撮影で動画投稿を休まなくてはいけないこと。
俺は内容を最後まで読み終えると、短く「分かった」とだけ返した。
画面が暗くなったスマホを枕元へ放り投げる。
「これでよかったんだよな……」
天井を見上げる。返事はもちろんない。
胸の奥に残ったものを追い出すように布団を頭まで被った。

翌日。
教室へ向かう廊下から、いつもより騒がしい声が聞こえてきた。
何事だろうと思いながら扉を開ける。
「あ、陽! おはよう」
聞き慣れた声と共に、ひらひらと手を振る人物が目に入った。
「……蒼?」
窓際の席で当然のように笑っている蒼の姿に思考が止まる。

「昨日ぶり」
まるで近所のコンビニで偶然会ったみたいな軽さだった。いや、昨日ぶりなのは事実なんだけど。なんでここにいるんだ。
クラス中の視線が一斉に俺へ向く。
「知り合い?」
「影山の友達?」
「てか有名な占い師の人じゃん」
クラス中から声が飛んでくる。
蒼はすっかり馴染んだ顔で愛想よく笑っていた。
午前中の授業が終わり、昼休みになる。クラスメイトに囲まれていた蒼の腕を掴む。
「え、陽?」
「いいから来て」
半ば強引に教室を抜け出し、屋上への階段を上る。
重い扉を開くと春の風が吹き抜けた。人気のない屋上でようやく足を止める。
「なんで蒼がいるんだよ」
振り返ると、蒼は怒られる理由が分からない子供みたいな顔をしている。
「あー、交換留学?ってやつで。うちの学校と陽たちの学校から一人ずつ留学させるプロジェクトがあって、それに立候補したってこと」
「それはいつの話?」
「先月かな」
「なんで」
俺の問に蒼は少しだけ首を傾げる。
「言ったじゃない。君のことが気になったからって」
「そりゃ確かにそう言ってたけど昨日の今日で」
「留学する前に会っておきたかったからコラボしたの。そうでもしないとこんな風に陽に屋上に連れて来られることもなかったでしょ?」
「……いやそれはそうだけど」
納得できるような、できないような。普通そこまでするか?そんな疑問が顔に出ていたのだろう。蒼はくすりと笑った。
「なんでそこまで、って顔してるね」
「してる」
即答すると蒼は楽しそうに目を細める。
「陽と仲良くなりたかったんだ」
「……俺と?」
「そう」
あまりにも真っ直ぐ返されて言葉に詰まる。蒼の笑顔は柔らかい。なのにどこか底が見えなかった。
「それと、ビジネスの話もあるよ」
「ビジネス?」
「陽は今パートナー不在でしょ」
その言葉に胸が少しだけざわつく。莉生が恋リアに出る。分かっている事実を改めて突きつけられた気がした。
「……」
「それで週一で俺と動画を撮るってのはどう?」
「動画? 蒼と? なんでまた」
「莉生が一人で活動してる時に陽はなにもしないの?」
「……それは」
動画投稿は止めたくない。ファンの期待も裏切りたくはない。蒼の知名度を使えばもっとアカウントを大きくできるかも。
……だけど。胸の奥に引っかかる違和感だけが消えなかった。
「ちょっと考えさせて欲しい」
「今すぐ答えは出ないの?」
蒼が不思議そうに瞬きをする。
「莉生には二つ返事でオッケーしたって聞いたけど」
「いやしてないし」
「あれ? そうなの?」
蒼は少し考えるように顎へ指を当てた。
「迷いはなかったはずだけど」
ぞくり、と背筋が粟立つ。蒼と話していると全てを見透かされたような気がしてくる。
「じゃあツーショだけ撮らせて。インスタに載せるから」
空気を切り替えるように蒼がスマホを取り出した。
「まあ……それならいいけど」
肩を組まれる。近い。思った以上に距離感が近い。カシャッ、と軽いシャッター音。
「ありがとう」
蒼は満足そうに写真を確認した。
「あ。そろそろ授業始まるから戻ろうか」
「そうだね」
その笑顔を見ながら、やっぱり調子が狂うなと思った。

それから数日。
昼休みになるたび、蒼は当然のように俺を屋上へ連れ出した。
そして今日も。フェンス越しに見える校庭を眺めながらカフェオレを飲んでいると、隣の蒼が唐突に口を開く。
「ねぇ陽は莉生のどこが好きなの?」
「……っ、な、何言ってんの?」
「え、好きじゃないの? 友達として」
「好き、っていうか、なんていうか、なりゆきだし……」
言いながら自分でもしっくりこない。蒼はそんな俺をじっと見ている。
「でも莉生が恋リア出るのは嫌だったんでしょ?」
「まあ……って、なんで知ってんだよ」
「占い師だからね」
「……こわ」
「待ってごめんって、引かないで」
慌てて手を振る蒼に思わず吹き出す。
「冗談だよ」
「よかった」
蒼はほっとしたように胸を撫で下ろした。演技なのか本心なのか分からない。やっぱり掴みどころがない。ミステリアスな男だ。
「それで、陽は莉生のどういうところが好きなの?」
今度は逃がさないと言わんばかりの視線。俺は少しだけ空を見上げた。
「夢があるところ、かな」
「へえ?」
「その夢を俺も一緒に叶えたいって思ったわけだし」
自分で言っていて、ようやく腑に落ちる。莉生といると前を向けた。だから隣にいたかったんだ。
「なるほどね」
蒼が小さく頷く。
「それで置いていかれる感覚になっちゃったわけだ」
「そうかも」
認めると少しだけ胸が軽くなった。風が吹く。
しばらく沈黙が流れた後。蒼がぽんと手を叩いた。
「ならさ、一緒に見ようよ莉生の恋リア」
「……は?」
「それを配信しよう」
「え?」
あまりに突飛な提案に思考が追いつかない。蒼は構わず続ける。
「それなら僕の提案も飲んでくれるよね?」
「え? いやいや待って展開が早い」
「莉生の恋リアにヤキモチを妬く姿を見せたられおはるファンだって喜ぶんじゃない?」
「それは、そう……なのか?」
「そうだよ」
蒼は満面の笑みを浮かべた。
「ね、そうしよう?」
勢いに押されるまま、俺は小さく息を吐く。
「……わかった」
その瞬間。蒼の目が少しだけ嬉しそうに細められた。
「じゃ、決まりね」
その笑顔を見た瞬間、なぜだか胸の奥がざわついた。まるで蒼だけが、最初からこの答えを知っていたみたいに。