その#付き合ってません(ハッシュタグ)非公開に出来ますか!?


最初の動画を投稿してから、二週間が経った。やると決めた以上人気になって困ることはないが、予想以上に反応に嬉しい反面戸惑うことも多い。
その間にも高校生らしい場所──ハンバーガーショップ、ファミレス、ボウリング場。そんな定番スポットに莉生と出かけ、その様子を動画にしてアップしてきた。
投稿した動画はどれも安定して再生数を伸ばし続けている。
コメント欄も日に日に賑やかになり、気づけば莉生のフォロワーは五千人ほど増えていた。
【れおはる】の人気は、正直なところ怖いくらいに順調だ。

そして今日は日曜日。
以前コメントで寄せられていた「莉生との食べ歩き動画が見たい」というリクエストに応えるべく、二人で商店街へ行く予定になっている。
駅前で待っていると、改札の向こうから見慣れた姿が歩いてきた。
休日らしいラフな格好の莉生が、こちらに気づいて手を振る。

「そういえば私服って新鮮だね」
合流して開口一番、莉生がそう言った。
「たしかにいつも放課後だから制服だったもんな」
普段は学校帰りにそのまま撮ることが多い。
だからこうして私服で並んでいると、妙に違和感がある。
「私服も可愛いよ」
「いいよそういうの」
軽くあしらうと、莉生は不満そうに眉をひそめた。
「こういうのは積み重ねが大事なんだよ」
ほら。と指をさすと小型ドローンが、すっと莉生の手のひらに降りてきた。
「おお、これが前に言ってたやつ」
「そう。まあ手持ちカメラも必要だろうけどこれで大体は賄えると思うよ」
「でも追尾機能付きなんていくらしたの?」
「陽はお金のことは気にしなくていいの」
「……分かった」
聞いちゃいけない金額なのかもしれない。と思ったのでこれ以上は聞かないことにした。
「そういえばさ莉生が俺の食べ方に文句言った回あったじゃん」
「バニラポテト?」
「そう」
ポテトをバニラシェイクにディップして食べてたら「お行儀悪い、普通に食べて」って怒られたやつだ。
「あれ、私もやる!ってコメント結構あったし」
「俺、数えたけど五件くらいだったよ。マイノリティだからって数盛らないの」
「くそ、バレてたか……」
ただでさえハンバーガーショップの回はそれまでの俺は莉生に振り回されてるけどしっかりしてるというイメージが、実は莉生は育ちがいいというイメージに逆転してしまったというのに。
「今日は食べ歩きだっけ」
「そう、この商店街を歩きながらね」
「楽しみ。昨日そわそわしてさネットで調べてリストアップしたんだよね」
「じゃーん見て陽」と見せられたのは店の外観とおすすめの食べ物が一覧になっている冊子。
「まるで遠足のしおりだな」
「まずはたい焼き食べたい」
「お、いいじゃん」
「たい焼き食べたことないんだよね」
「え、そうなの?」
「うん、画像で見たときにケーキ?みたいな見た目が出てきて魚じゃないの!?って思ったし」
「……莉生」
「なに?」
「話、盛ったね?」
「…………」
「食べたことなくても見たことはあるね?」
「…………」
「おい、返事しろよ」
莉生は露骨に視線を逸らす。そして次の瞬間、突然ぱっと顔を上げた。
「あ、ここじゃん!すみませーんたい焼き二つ!」
「ちょ、莉生!」
急に走り出す莉生の後を追いかける。
商店街の端にある小さなたい焼き屋。鉄板の甘い匂いが、通りにまで漂ってきていた。店先に立つおばちゃんに、莉生が早速声をかける。
「なにがオススメ?」
「普通にあんこか、あとは期間限定のチョコかな」
「なるほど、陽はなににする?」
「俺はカスタード」
「え、あんこじゃないの?」
「いつもカスタード派なの」
「陽ってほんと偏食だよね」
「うるさいな。お前はなににするんだよ」
「んー、限定らしいしチョコにしようかな」
「お前も人の事言えないだろ」
「たしかに。じゃあカスタードひとつとチョコひとつで」
注文を受けたおばちゃんが、にこにことこちらを見る。
「二人は仲良しなのね」
「そうなんです、俺ら親友だもんね?」
「ただの友達です」
「ねぇそこは親友でいいじゃん!」
「お店に迷惑だから静かにして」
やり取りを見ていたおばちゃんがくすっと笑った。
「ふふ、これサービスであんこ一つ入れとくから仲良く食べてね」
紙袋にたい焼きを入れながら、もう一つ追加してくれる。
「え!ありがとうございます!」
「いただきます、ありがとうございます」
礼を言って店を離れ、少し横の路地裏へ移動する。人通りもほどよく減って、撮影もしやすい。
「おばちゃんが一個おまけでくれました〜」
スマホカメラに向かって袋を掲げる。こういうリアクションも、もうだいぶ慣れてきた。
「さ、冷めないうちに食べよ」
「いただきます〜」
袋からたい焼きを取り出す。表面はきつね色で、薄くパリっとした焼き色がついている。
頭からかじりつくと、すぐにカスタードの甘さが口いっぱいに広がった。
「生地もカリカリだしめっちゃ美味しいこれ」
「え、まって、俺も早く食べたい」
莉生もまた同じように頭からかぶりつくとトロトロに溶けたチョコレートに苦戦していた。
「やば、めっちゃ垂れる」
「ティッシュいる?」
「たすかる」
ポッケからティッシュを取り出して莉生に渡す。
「美味しい?」
「うん、チョコがめっちゃ甘い」
「え、一口食べたい。気になってたんだよね」
「食べづらいから、こっからかじって」
「分かった」
莉生がかじった所の上から、そっとかじる。生地の香ばしさとチョコの甘さが混ざって、思った以上に美味しい。
「チョコ美味いな」
「でしょ?」
「莉生もカスタード食べる?」
「食べる」
じゃあ、はい。と持っていたたい焼きを袋から取り出してしっぽの方を口元に持っていったのだが。
「なんか違くない?」
莉生はご不満のようだ。口を尖らせている。
「普通に莉生がかじった所食べたくないでしょ」
「しっぽまで食べたら一緒じゃん」
「気の持ちようがあるんだよ」
「俺と陽の仲じゃん」
「じゃああげない」
ツンとした態度でたい焼きをかじると慌てた様子の莉生が「ごめんってば、食べる!食べるから!あーんってして?」と喚いている。俺はカメラとたい焼きで両手が塞がっているので、莉生のお尻めがけて軽く蹴りを入れた。
「調子に乗るな」
「いたっ、もうすぐ暴力振るうのよくないよ」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「え、俺のせいなの?」
「それ以外に誰かいるか?」
「ねぇ、またれおはる漫才みたいってコメントくるじゃん、やめよ?」
「お前が始めた物語だろうが」
「え、そうじゃん」
「……はぁ」
「クソデカため息やめて?」
莉生は相変わらずうるさい。無視してたい焼きを食べ進めていると、ふいに莉生が俺の顔をじっと見た。
「……あ」
「なに?」
「陽、クリームついてる」
「え、嘘どこ?」
「こっち」
そう言うと、莉生の手が伸びてきた。俺の口端に触れた指が、カスタードを拭い取る。そしてそのまま。ぺろ、と舐めた。
「あま」
「……ふん」
「クリームなんて付けちゃって陽はあざといね」
「別にあざとくないだろ」
「そういうところも可愛いって話だよ」
「……あっそ」
「じゃあ食べ終わったし次探しに行こ」
「そうだな」
「次は陽が食べたいのにしようよ」
「え〜じゃあコロッケ食べたいかも」
「お、いいね。甘い物食べたあとのしょっぱいの」
「なんかオススメある?」
莉生は得意げに、さっきの冊子をめくった。
「コロッケなら、あそこ」
莉生が迷いなく指差したのは、少し離れたところでさっきから行列が出来ている揚げ物屋だった。店先には「揚げたて」と書かれた札がぶら下がっている。
「揚げたてだって」
「いいじゃん。食べ歩きといえばコロッケだもんな」
列に並んでいると、油の匂いがふわっと漂ってくる。店の奥ではおじさんがコロッケをどんどん揚げていて、衣が弾ける音が小気味いい。
前に並んでいる女子二人が俺たちと顔を合わせるなりひそひそと話し込んでいる。
(これは気付かれたか……?)
なんて思っていると案の定「あ、あのレオくんですか?」と莉生に話しかけた。
「え?ああ、はい。レオです」
「嘘、やばい!いつも動画見てます!」
「あ、あの、さなで動画にコメントしてるんですけど分かります……?」
「え!分かるよ!いつもありがとうね」
蚊帳の外、アウトオブ眼中、といった様子の女の子二人に、まだまだ頑張らないとなと思いつつ、それはそれとして莉生のファンサの手厚さに感心していた。
「写真撮ってもらってもいいですか……?」
「うん、ああでもSNSにあげる時は少し時間を置いてからにしてくれる?商店街に迷惑かけたらよくないから」
「もちろんです……!」
「じゃあ撮りまーす」
さすがに列で写真を撮るのは迷惑なので、少し移動し、撮影役を申し出た。
「これからも応援してます……!」
「ありがとね〜」
手をひらひらさせてファンの女の子に別れを告げる莉生。
「ごめん、ありがとね」
「ううん平気」
嘘、本当はちょっとだけ面白くない。
「陽?」
そんな俺に気付いたのか莉生が下から顔を覗き込んでくる。
「なに」
「もしかしてヤキモチ?」
「はぁ?そんなわけないじゃん」
「ふふ、可愛いとこあんね」
「だから違うってば」
反抗するのも束の間、俺たちの番が来てしまった。
「二つください」
紙袋に入ったコロッケを受け取り、またさっきの路地裏に戻る。
「じゃ、いただきます」
莉生がさっそくかぶりついた。次の瞬間。
「……っっ!」
顔をしかめて口を押さえている。
「莉生、猫舌なの?」と笑いながら小突くと「うるひゃい」と言いながら自動販売機に水を買いに走っていた。
「はー、熱かった」
「湯気たってるのに齧り付くバカいないでしょ。あ、ここにいたわ」
「陽も食べてみたらいいじゃん」
莉生がそういうので平然としながらコロッケにかじりつく。もちろん俺は猫舌ではないので全然熱くない。
「なんかずるい」
「知ってた?猫舌ってキス下手らしいよ」
「え」
莉生の手が一瞬止まる。コロッケを持ったまま、ぴたりと固まったその横顔が妙におかしくて、陽は少しだけ口元を緩めた。
「舌の使い方が下手だから猫舌なんだって、ようするにキスも下手ってこと」
「え〜、ショック」
「莉生経験あんの?」
「ないけど」
「意外、ないんだ」
「じゃあ陽が試してみる?俺のキス」
「あのさ、またコメント欄がやかましくなるからやめてよそういうの」
「陽ちゃん照れててかわいいね」
「照れてねーから」
言い返しながら、陽は手の中の紙袋をくしゃりとまとめた。
コロッケの油がほんのりと袋に染みていて、指先にさっきまでの熱がまだ残っている気がする。
こういう軽口にも、もうだいぶ慣れた。
莉生はずっと距離が近いし、言うことも大袈裟だ。今さらひとつひとつ真に受けていたら身がもたない。
——そう、分かっているはずなのに。
毎回毎回「可愛い」と言われる度に可愛くない返しをしてしまうのが癪だ。こんなのスルーすればいいだけなのに。
「次どうする?」
「んー、しょっぱいの食べたし甘いもの?」
「それもいいけど口の中さっぱりさせたいかも」
「じゃあフルーツ飴とかどう?」
「いいじゃん、そこにしよ」
「じゃあこっち」
話を切り替えるように莉生が歩き出す。陽もその後ろを追った。
さっきのコロッケ屋から少し歩いたところに、フルーツ飴の店があった。
ガラスケースの中には、飴でつやつやに固められた果物が並んでいて、昼の光を受けて宝石みたいにきらきらしている。
「陽どれにする?」
「いちご」
「じゃあ俺は……」
「莉生はシャインマスカットね」
「え、俺に選ぶ権利ないの?」
「どっちも食べられるしいいじゃん」
「俺みかんがいいんだけど」
「すみませーん、いちごとシャインマスカットひとつずつ」
「俺の話聞いて?」
店員が「はーい」と明るく返事をする。すでに出来上がっていたらしく、会計を済ませるとすぐに串を手渡された。
透明な飴が薄く張っていて、いちごの赤が透けるように見える。
思わず見入ってしまうと、隣で「みかんがよかったのに……」と莉生がまだ不服そうに唇を尖らせていた。
「またどこかで食べよっか」
「さっきのところ曲がった先に公園あったの見えたよ」
「じゃあそこ行こ」
商店街から五分もかからない小さな公園は、休日の午後らしいのんびりした空気に包まれていた。
砂場では小さな子どもが遊んでいて、少し離れた場所では母親たちが立ち話をしている。
ベンチの周りには木陰が落ちていて、歩き回って少し火照った体にはちょうどよかった。
二人でベンチに腰を下ろす。
金属のひんやりした感触が、服越しに伝わった。
「陽こっち見て〜」
さっそくいちご飴にかじりつこうとした瞬間、スマホを構えた莉生に動きを止められる。
「飴溶けるじゃん」
「むすくれてるのもかわいい、一個食べてみて」
「ん」
陽は言われるがまま、一番上のいちごに歯を立てた。
ぱり、と薄い飴が割れる小気味いい音。その直後、甘酸っぱい果汁が口の中に広がる。思っていたより飴は薄くて、くどくなく、いちごの酸味がちゃんと残っていてうまい。
その間にも、カシャカシャと連写音だけは容赦なく響いていた。
「撮りすぎ」
「これとかめっちゃかわいいよ?」
横からスマホを差し出される。
画面の中には、いちご飴を齧った瞬間の自分が何枚も並んでいた。
頬の丸みとか、まつ毛の影とか、写真を見せられながら力説されても正直よく分からない。
自分で見ても、ただ冴えない男子高校生がイチゴ飴を食べているだけじゃないか。
「別に普通じゃん」
「え、どこが?めっちゃかわいいけど」
「それお前の感性がおかしいだけ」
「陽のバニラポテトよりは多数派だよ」
「それ持ち出してくるのズルくない?」
莉生はそう言いながらも楽しそうで、陽は小さく息をついた。
「陽は自分で気付いてないだけでめちゃくちゃ可愛いんだよ」
「可愛いって言われても嬉しくないし」
「そういうツンデレなところもね」
「デレた覚えはない」
「そういうところだよ」
(なんでそんなに楽しそうなんだよ……)

「あの」
「はい?」
そんなやりとりをしていたら、大学生くらいの女の子2人組が声を掛けてくる。また莉生のファンか、すごいな莉生は。と感心しながら二つ目のイチゴ飴を齧っていたらどうやらそんな雰囲気ではないらしい。
「お兄さんこのあと暇ですか?よかったらお茶でもどうかな〜って」
「いや……今ちょっとたてこんでて」
「私が奢るし!」
「俺高校生なんで……」
「え!?見えな〜い!めちゃくちゃかっこいいね、インスタやってる?アカウント教えてよ」
「やってないっすね」
「さっきその子の写真撮ってたじゃん教えて?」
莉生が困ったように笑っている。はっきり断っているのに、二人は空気を読まずにぐいぐい距離を詰めてくる。陽は飴を噛み砕きながら、そのやり取りを眺めた。
(……しつこいな)
たぶん莉生も本気で嫌がっているわけじゃないにせよ、確実に困ってはいる。そのくらいは見れば分かった。
なのに引かない逆ナンに段々苛立ちを覚えてきた。冗談っぽく笑いながら押し切れると思っている感じが、なんだか鼻につく。
「いいじゃん遊ぼうよ」
「いやほんとに無理なんで……」
「そっちの子と一緒ならいいの?」
「別に私たちは四人でもいいよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に妙なざらつきが走った。
——四人でもいい、ってなんだよ。
最初から視界に入っていなかったくせに。
今になって“ついで”みたいに数に入れられた感じがして、陽はむっとする。
自分でもよく分からない。ただ、面白くなかった。
莉生は自他共に認めるイケメンで、ファンに話しかけられることもナンパされることも多く慣れてるのだろう。
でも、今莉生の隣にいるのは俺なのに。そこに知らない誰かがずかずか入り込んでくるのが、気に食わなかった。
​──気づいたときには、体が先に動いていた。俺は莉生の腕を掴んで割り込んだ。
「さっきからなに。今デート中なんだけど」
口から出た言葉に、自分でも一瞬ぎょっとする。けれど、言ってしまったものはもう戻らない。
「行こ、莉生」
「え、あ、うん」
女の子たちが呆気に取られた顔をするのも見ず、陽はそのまま莉生の腕を引いた。
振り返る余裕もなく、公園を出て、商店街を抜けるように走る。
日曜の午後の空気が、肌を撫でていく。
掴んだ腕から莉生の熱が伝わってじんわり熱い。
しばらく走って、人通りの少ない道まで来たところでようやく足を止める。
心臓がうるさい。呼吸が浅くて、うまく息が整わない。走ったせいだけじゃない気がするけれど。
「どうしたの?陽」
「別に……撮影を邪魔されたくなかっただけ」
息を整えながら答える。我ながら苦しい言い訳だと思う。
「ほんとにそれだけ?」
「……それだけ」
言い切ってみせる。そうだ、それだけだ。ただ撮影の邪魔だったし、しつこくされて鬱陶しかった。それだけ。それだけだ。
「なーんだ、陽がデート中とか言うからヤキモチ妬いてくれたんだと思ってたけど、俺の勘違いか」
「……っ」
ぴたりと言葉に詰まる。図星、というほどはっきりしたものではない。
でも、完全に違うとも言い切れない。その曖昧なところを、正確に突かれた気がした。
「……そうだよ、ヤキモチだよ。そりゃ友達を取られそうになったらそれくらいあるだろ」
「友達、ねぇ……」
ようやく絞り出した言葉は、思ったより子どもっぽく聞こえた。でも、それ以外に言いようがなかった。
友達だから。莉生は俺の大切な友達、だから。
「何笑ってんだよ」
莉生が喉を鳴らして笑う。その笑い方が、なんだか含みを持っているように見えて、陽はむっと眉を寄せた。
「陽ってほんと鈍いし友達いないし、どうにかなんないの?それ」
「はぁ?莉生は俺の友達じゃないのかよ?」
「……!いや、うん、今はそれでいいや」
「? なんだよそれ」
「もう少し時間が必要ってこと」
含みのある言い方に首を傾げる。でもこれ以上は聞けそうにないので諦めることにした。
「しかし、めっちゃ撮ったから編集大変だなぁ」
気まずさをごまかすように、陽はカメラを触りながらぼやく。
保存したデータの量を思い出すだけで少しうんざりした。
「あ、それなんだけどさ」
「ん?」
「今回の食べ歩きデート、俺が編集してもいい?」
「いいけど、莉生がそんなこと言うのめずらしいじゃん」
企画は莉生、編集は俺という役割がここ二週間で出来ていたので、莉生がそんなふうに申し出ることは意外だった。
「まあね。じゃあ出来上がったら連絡するから」
「分かった」
そうしてその日の撮影は、それでお開きになった。
帰り道、今日撮った写真を眺めながら陽はさっきのことを思い返した。
女の子たちに声をかけられていた莉生。反射的に腕を掴んだ自分。
「デート中」と口走ったこと。そして、ヤキモチだろと見抜かれたこと。
思い返すほど、じわじわ居心地が悪くなる。
(……なんだったんだ、ほんと)
答えは出ない。ただ一つ分かるのは、今日の自分は少し変だった、ということだけだった。
それから数日後、食べ歩きデートの動画が公開された。
投稿されたのは、夜。
通知に気づいて、なんとなくの気持ちで再生ボタンを押した。
——最初は、いつも通りだった。
商店街の入口。二人並んで歩く後ろ姿。軽い会話、テンポのいいカット。
(まあ、こんなもんか)
そう思ったのも束の間だった。今回のメインであるべき食べ歩きのシーンが静止画が次々映し出される編集がされており、時間にすると十秒もない。少し短すぎるのではないか。
気づいたときには、眉をひそめていた。
そして。例のシーン。
「今デート中なんで邪魔すんな」
そこから先だけが、不自然なほど丁寧に使われ ていた。
エモい演出と音楽。明らかに、そこが“主役”として編集されている。動画を最後まで見終わったあと、しばらく動けなかった。
コメント欄を開く。
『陽くんの「デート中なんで」やばすぎる』
『れおはる公式すぎて無理』
『照れてる陽くんかわいい』
『あれガチで言ってるよね?』
画面いっぱいに並ぶ文字を見ながら、陽は小さく息を吐いた。
「莉生ちょっと話がある」
いつものように教室の扉から顔を出した莉生の制服の裾を掴んで、そのまま半ば強引に引っ張る。
クラスメイトが「え、何あれ」とざわつくのも構わず、中庭まで一直線に連れていった。
ベンチの前でようやく手を離す。少し乱れた制服の裾を、莉生が整えながら首をかしげた。
「あ、昨日上がった動画見た?」
「見た?じゃねーよ。なんだあれ。食べ歩きのシーンがほぼダイジェストじゃん」
「うんだって『デート中なんだけど?』が今回のメインでしょ」
「いやそうだけど、そうじゃなくてだな!」
「コメント欄も陽くんかわいいで盛り上がってるじゃん」
「……それは、そうだけど」
「いやぁ、みんなに陽の魅力が知ってもらえてなによりだよ。逆ナンしてくれた女の子たちに感謝だね」
そう莉生が言った次の瞬間しまったと言いたげな顔で口を抑えている莉生。
「……おい、まさかだとは思うけどもしかしてあれエキストラ」
言葉にした瞬間、莉生の表情がわずかに固まる。
「あ、やば。そろそろ授業戻らないと」
「おい莉生逃げるな!」
踵を返して走り出す莉生。完全に図星の反応だった。陽も反射的に一歩踏み出すが、昼休みのチャイムが遠くで鳴り始める。
中庭に吹く風が、さっきまでのやり取りをさらっていく。数メートル先で、莉生がふと振り返る。

「陽ー!」
「なんだよ」
「今日は駅前のカフェ行こうね」
「お前の奢りな」
「ふふ、楽しみだね」