『いい、華恋。女の子は可愛くても、か弱くてもだめ。気高く美しくいなきゃだめよ』
それは、大好きな母の口癖だった。
どこまでも広がる緑の野原。うららかな太陽の光を浴びながら、5歳の華恋は小さな手で白詰草を摘み、お花のリースを作っていた。
母の言葉に不思議そうな顔を浮かべ、くりっとした大きな可愛い目で母を見つめる。
「強くなる……? でも……ママ、私はお姫様になりたい!」
無邪気に笑う小さな華恋に、母は困ったように、けれど愛おしそうに目を細めた。
「お姫様って強くないとだめ?」
「ふふ、そうね。気高いお姫様の方が、ママは安心かな。でも、きっと……いつか華恋を命がけで守ってくれる王子様が、きっと現れるわ」
優しく頭を撫でてくれる母のぬくもり。
しかし、その温かな視界は突如として白いモヤに覆われ、急速に冷たく歪んでいく――。
「――っ!」
弾かれたように、華恋はベッドから跳ね起きた。
窓の外では、激しい雷鳴が轟き、叩きつけるような雨がガラスを濡らしている。
ジトッと嫌な汗が全身に浮かび、まとわりつくような気持ち悪さに、華恋は小さく荒い息を吐きながら額に片手を当てた。
(また……あの夢……)
呼吸を整えようとしても、頭の奥で、何度も何度も同じ映像がリフレインする。
激しい雨の音。稲光。
自宅のリビングに広がっていた、おびただしい赤。
床に倒れ、ピクリとも動かない両親の冷たい身体。
声も出せずにただ泣きじゃくる5歳の自分と、「母さんっ!父さんっ!」と声を枯らして叫び続けていた、幼い兄・波留の姿。
あの日も、今日のような酷い雷雨だった。
華恋はふらつく足取りでベッドから出ると、自室のテーブルへと向かった。
そこには、小さな写真立てがぽつんと置かれている。
写真の中で笑っているのは、まだ幼い自分と、優しい両親、そして今や大スターとなった兄の波留。
家族4人、何の後憂もなく仲睦まじく写った、失われた過去の遺物だ。
華恋はその写真をちらりと見つめ、すぐに視線を逸らした。
哀しみに暮れる時間は、もう13年前に終わっている。
今の自分を突き動かすのは、両親を奪った暗殺組織『KING』のトップへの、底知れない激しい憎悪だけだった。
「お姫様なんて……とっくにやめたよ、ママ」
掠れた声で呟き、華恋はキッチンへと向かった。
冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出し、一気に喉へと流し込む。
冷たい液体が身体を駆け巡り、ようやく脳が完全に覚醒していくのを感じた。
外の雨風は、さらに勢いを増している。
まるで、これから始まる血生臭い復讐劇を歓迎するかのように、夜空に一筋の稲妻が鋭く走った。
明日、私は月島学園の生徒会へ潜入する。
そして――KINGへと繋がる奴らを暴き薙ぎ倒す。
グラスを強く握りしめ、華恋は暗闇の中で、鋭く美しい瞳をギラリと光らせた。



