お仕置き舞宮くん


家で風呂に入ってる時に突然A棟直人歯医者事件がフラッシュバックしてきて俺は「うわー!!」と雄叫びを上げながらお湯に沈んだ。派手にしぶきが舞って浴室を濡らす。結局あの後俺は直人とチャイムが鳴るまで無言で抱き合っていて、その間も直人の手は俺の髪を撫で続けていた。教室のちょっと手前まで直人は俺の手を握り、俺もその手を力なく握り返していた。夢遊病患者みたいにゆらゆら揺れながら歩いてる俺を見て、直人が満足そうに笑っていたあの顔が頭から離れない。麻痺したみたいな状態だったから、どんな風に学校で午後を過ごして家に帰ってきたのかもほとんど思い出せない。直人からLINEが来てたけど、開くのが怖かった。

どうしよう。
いてもたってもいられなくて誰かに聞いて欲しいのに、誰に相談するべきなのか検討もつかなかった。
直人の友達はダメ。俺が相談したらどうせすぐに直人に貫通する。
志帆は…もっとダメ。今日の出来事を打ち明けようものなら、本格的に俺と志帆の友情は終わりを迎えるだろう。

一体どうして、こうも普通に行かないんだろう。俺の数少ない恋愛経験では、俺がいいなと思った女の子にちらちら声をかけるところから始めて、さりげなく言葉の端に好意があることを滲ませながら思い切ってデートに誘い、そこで告白して順調だったらその日に初キスしてハッピーお付き合いの始まりだ。だけど俺と直人は最初から何もかも普通通りに行ってない。直人は俺を檻に閉じ込めてぷちゅって潰したいなと思いながら後ろの席から見てて、最近ようやくその事実に気づいた俺が見事罠にハマって陥落した。こんなの全然ハッピーお付き合いの始まりじゃない。不健全なチキンレースの始まりだ。

風呂から上がって髪乾かしながらスマホを見てたらLINEの通知が入って、直人かとびびったけど志帆だった。

「この前は変なこと言ってごめん。また話そうね🥹🤍」

志帆のアイコンは俺とのお揃いのプリクラじゃなくて、友達とディズニーで撮った後ろ姿になっていた。鳩尾のあたりにひゅっと寒気が走る。ああもう俺は志帆と前みたいに話せないんだな。後戻りできないところまで来てしまった実感がじわじわ沸騰してくる。志帆に嫌な思いをさせるつもりなんて、これっぽっちもなかったのに。志帆のメッセージの下に並んでいるのが直人のもので、珍しく長文を送ってきてるらしく既読をつけなくても冒頭だけ見えた。「今日はびっくりさせてごめん。許してほしい。涼太と話せなくなるのは絶対嫌…」

画面から飛び出して直接喋りかけてきそうな必死な文面。恐る恐るメッセージを開いてしまう。

「今日はびっくりさせてごめん。許してほしい。涼太と話せなくなるのは絶対嫌。でももうこれ以上平気なふりしてるのも辛い。俺、どうしたらいい?」


こいつ普段は二行以上喋るのかったるいです風なのに、こういう時はよく喋るんだよな。そう考えてからふと思った。俺が余裕たっぷり舞宮様というフィルター越しに見ていたから気づかなかっただけで、直人はずっと必死だったのかもしれない。フィルターを除去してみたらそこに現れたのは他よりちょっと顔のいい男子高校生。将来の夢、俺をぷっちゅん潰して可愛がること。俺が前の席で直人の視線にも気づかず煽るようにぐーすか寝てたから、直人は目の前に吊り下げられた肉に今にも牙が届くという場所で永遠に焦らされていた。獲物の俺が自分を狙う捕食者の目に1ミリも気づかずぽえーっとしてるもんだから、直人はたいそう苛ついていたに違いない。今や直人の時間をかけて発酵した俺への加虐心は、理性で制御できないところまで来ている。それが俺の「せつない🥺いじめたいってどゆこと🥺」でいい加減にしろやと爆発したんだ。ごめん直人。俺の方こそ、バカすぎた。

「俺の方こそごめん。びっくりしたけど嫌じゃなかった」

いじめられたいかと言われると今でも答えはNOだ。でもあの甘いしびれの先に、秘密にしておきたい身体中が麻痺するくらいのしびれが待っているなら、思い切って飛び込んでみるのも悪くないなと思ってる。それって結局、直人にいじめられたいってことになるのかな?でも直人が俺をむにむにしたり突っついたりしてる時のあの暗い欲望に濡れた目は、不思議と嫌いじゃない。

「待って。俺って変態なのかな!?🥺」

自分ではわからないので直人に聞いてみたら、珍しく直人が送ってきたのは俺のハマってるゆるキャラが笑い転げてるスタンプと、

「バカすぎる。かわいい」の一言だった。