お仕置き舞宮くん



次の日は起きてから学校につくまで俺の心臓はバカみたいにバクバクしてて、教室のドアを開ける時は手が震えるくらいだった。直人は先に来ていて友達の群れの中から「おー、おはよ」と声をかけてくる。
それを皮切りに直人の友達たちも俺に声をかけてきてなんでもない話で盛り上がったけど、全部俺の耳を右から左に通り抜けていった。話を聞いてるふりしながらぼんやりしてたらスマホが振動して、確認したら直人からのLINEだった。

「昼休み、A棟の裏きて。あそこなら誰もいないから」


昼休みまで生きた心地がしなかった。昼休み開始のチャイムが鳴ると同時に直人は席を立って教室を出て行った。あ、本当に行くんだ。俺はよろよろと立ち上がって、なんとなく直人とは3分くらい間隔をあけてから指定された場所に向かった。
A棟の裏は隣のB棟との間にできた隙間って感じで閉塞感があった。棟の1階にはどの窓にもカーテンがかかっていて、教室の中は見えない。直人は先に来ていて壁にもたれかかり、相変わらず優雅な大型動物みたいにくつろいでいた。一方の俺は捕獲されるとわかって罠に飛び込んできたカエルのような気持ち。

「来た」

俺を見つけて嬉しそうに、危険に輝く直人の目。俺が何か言う前に、直人は手慣れた動きで俺を壁に押し付けた。建物と建物の間にできた小さな隙間は、まさに直人が俺を閉じ込めるのに絶好の檻。直人が俺の首筋に鼻先を擦り付けてくる。くすぐったくて身を捩ったら深く潜り込むみたいにますます強く擦り付けてきた。直人は動物が獲物を食べる前ににおいを確かめるように息を吸い込んでから、空いた右手を俺の顔に持ってきて親指で俺の口元を探り当てた。蛇が巣穴に潜り込むみたいに、直人の親指が俺の口の中に侵入してきた感覚に背中にしびれが走る。直人の親指が俺の口の中を動き回ると圧迫感が凄くて、俺は指を追い出そうと舌で押し返したけどえずきそうになるだけだった。誰かに口の中を触られるなんて歯医者でしかされたことがない。歯医者でも長時間口を開けてるのが苦手なのに、直人の親指が俺の舌をなぞったり好き勝手に暴れ回るから、苦しさで涙が滲んでくる。だけど同時に胃の奥から湧き上がってくるのは吐き気じゃなくてあの甘いしびれ、でもそれは抱きしめられた時のものとはちょっと違う、このままずっとこうされていたいという甘やかしを含んだ怯えだ。

「ぅえっ」

とうとう俺がえずいたので直人は慌てて俺の口から指を引き抜いた。俺を壁と自分の間に挟んだまま、俺のおでこに自分のおでこを当てて目を覗き込んでくる。若干息が荒くなっている直人の目は興奮で濡れていた。

「大丈夫?」

唇の端っこが意地悪に上がって、笑ってるんだと分かった。びっくりするだろ、とか実は歯医者目指してるの?とか、なんでもいいから言ってエロいことした後特有の後ろめたい空気を和ませたいのに、俺は壁に背中を押し付けながら直人の両肩を支えにして立っているのがやっとだった。水が飲みたい。喉じゃなくて体のどこかがたまらなく渇いてる感じ。

「嫌だった?」

耳元で囁く直人の熱を帯びた声。俺は小さく首を横に振って直人の背中に手を回してしがみついた。