お仕置き舞宮くん


「今日から付き合おっか」って告白してからお付き合いがスタートする国は少数派で、日本以外の国では割と何回かデートしているうちにいつの間にか真剣な関係に落ちて行ってることが多いらしい。直人と俺は毎日LINEのやりとりして、直人が誘ってきたら屋上で昼飯食って、同じく誘われれば一緒に帰って、という日々を続けていた。
志帆にはなんとなく避けられてる気がして近づきづらかった。だけど直人の友達は、最近直人とよく一緒にいる俺に興味を持ったみたいでよく話しかけてくれるようになり、そうしているうちに俺の周りにいるのは直人の友達だらけになり、そのまま直人のいる華やかグループに溶け込んでいった。クッキー型に流し込まれるみたいに直人周りの人間関係に固定されてしまった。

直人は相変わらず油断すると俺に仄暗い欲望をチラ見せしてくるけどあとは普通だ。
友達と一緒にいる時は相変わらず「物静かでかっこいい舞宮様」のままで、肉食動物直人は気配すら覗かせない。だけどさりげなく俺の隣に来る時指先で手に軽く触れたり、ホコリついてると言い訳して俺の髪に触れたりするので俺は忘れることなく毎日直人を意識していた。友達の方を向いて喋っている時浮き上がる直人の首筋や、もたれかかりたくなるような安心感のある肩にいちいちどきどきしてしまい、ひょっとして俺って直人のこと好き?と自分を疑ってしまう。好きか嫌いかで言えば嫌いじゃないけど、いじめられたいかというとそれは絶対に違う。俺が欲しいのは直人が初めて窓際で俺を抱きしめた時のあの体温としびれ。野原を走ってる時に直人に捕獲されて檻に入れられたくはない。でも直人が俺に向けてるのはそういう感情だ。

「せつない🥺」

もはや日課になったLINEのやりとりで、俺はつい口を滑らせてしまった。LINEでは「宿題どこからどこ」とか「隣のクラスの高橋がうんこ漏らしたらしい」とか俺が一方的にしょうもないことを呟き続けてるけど、直人はそれがばかおもろいらしくて会話が途切れても絶対にLINEを送ってくる。

「どうしたの?」
「気持ちのすれ違い」

しばらく返事が止まった。いつも速攻で返事来るのに、スマホ壊れた?と思って15分くらい放置してたらやっと返事が来た。

「好きなやついんの?誰」

直人は普段から絵文字を使わない。なのにこの15分もかかって送られてきたシンプルな文章には、なんとなく不機嫌さが滲み出ていた。

「人間ってわかりあうの難しくない?🥺」
「だから誰」

え、なんか怖い。俺がスマホの上で指をもたつかせていたら

「志帆ちゃん?」

と追撃が来た。志帆のことはそりゃいいなと思ってたけど、最近志帆に抱いているのはもっぱら恋心ではなく罪悪感だ。志帆の大好きな舞宮様と毎日LINEして一緒に昼飯食って、最近は同じグループにまで入れてもらってる。そういうつもりじゃなかったのに、俺は今も志帆に黙って抜け駆けし続けている。

「違うよ。今俺好きなやつの話しようとしたんじゃなくて、直人とわかりあうの難しいってはなし」
「どういうこと?」
「直人って俺のこといじめたいんだろ。俺はよくわからん🥺」

またしばらく返事が止まって、なんだか画面から目を離せなくてそのままで待った。自分でも何が何だか分からないまま直人と話してる気がする。

「俺がお前をいじめたいの意味、全然伝わってない気がする。涼太、バカだから」
「バカって言うな」
「明日改めて伝えるわ!」

!に変な興奮がつめこまれてる感じがして、俺は何か言う気にも「おやちゅみ!」スタンプ返す気にもなれずベッドに潜り込んだ。そして全然眠れなかった。昂る期待が熱になって体の中で燃えている。明日改めて、何をどうやって伝えられるわけ。