祭りの夜、五年ぶりに再会した幼馴染に思い知らされる話。

「僕、だめなんだと思ってた。周也から離れて、ずっと一人で生きていくんだと思ってた」

あの日と同じ窓際。
二人並んで、通りを見下ろす。
祭りは終わったけれど、撤収作業が続いている。
あのときの気持ち、離れた理由、これまでのこと。
答え合わせみたいな話をたくさんした。

目元を押さえる周也が、黒い窓に映る。
それを見ていると、僕の視界がまた滲んだ。

「……それはない。諦めるつもりなかったし」

「でも、ここに戻らないで家に帰ってたら、それきりだっただろ?」

「一回は手離しても、またなんとかしてチャンス作るし」

「……そうかよ」

情けない顔して涙拭いてるくせに、言うことは相変わらず男前だ。
でも、こういう顔がもっと見たい。
五年間の空白の分、一生かけて見ていきたい。
いつの間にか窓越しじゃなく、周也と顔を見合わせていた。

「雨、やんだな」

「うん」

周也の長い指が、カーテンを引き寄せる。
たったそれだけで、二人きりの世界が完成した。
顔が近づいてくる。
こういうときって、どうするのが正解?
目はつぶる?
でも、周也の顔が見れなくなるじゃんか。
よし、ギリギリまで開けてよう。
あ、やっぱり恥ずかしい。
……ん。
……うわぁ。
なんだこれ。
キスってふわふわしてるんだな。
いつも見てた唇が、僕のに重なってる。
めちゃくちゃ気持ちいい……
って、息はどうすれば?

「拓海、なに考えてる?」

「ふぁ?!」

触れるか触れないかのところで囁かれて、口の中にまで振動が伝わる。
思わず吐き出した息と混ざり合う。
そのまま離れると、周也が僕の腕を引いた。

「拓海、こっち」

「……ん?うん」

僕が畳に放り出した漫画。
周也が腰をかがめて拾う。
と思ったら、ゴロンとベッドに寝転んだ。

「は?読むの?今?」

「俺、まだ途中だし」

「はぁ……分かったよ。そっち詰めろ」

周也に背中を向けて横になると、僕に漫画を渡してくる。
そのまま腕が僕の腰に回って、隙間がないくらいすっぽりと抱え込まれた。
二人で一冊の漫画を読む。
それは、あのころと変わらない。
でも、伝わってくる熱も、胸の苦しさも、段違いに甘い。

漫画を開いたけど、どこまで読んだかなんて覚えてない。
これ、周也から見えてんのか?
ちょっと上向きにすればいけるか。
って、重っ!足!
暑いし。
もぞもぞ動くと、周也の息で僕の髪が揺れた。

「この漫画、拓海が好きそうだと思って買ったんだ」

「まじで?!ていうか、僕もなんだけど」

「僕もって?」

「周也が好きそうだから買ってた」

「……俺らって、盛大にすれ違ってたんだな」

「いや、そこは以心伝心ってやつだろ」

しばらくパラパラとページをめくる。
文字なんて頭に入らない。
絵を眺めてるだけ。
周也も同じらしく、僕がページを飛ばしても何も言わなかった。

「拓海ってさ、まじで無防備だよな」

「そうか?だめ?」

「俺の前だけだったらいいよ」

「……当たり前じゃん」

周也のため息が僕の首にかかる。
じわっと汗が出てくる。

「あとさ、俺が我慢してるの、ちゃんと分かって」

「それは……僕も同じだし」

パタン。
あ、漫画、落ちたな。
ページ折れちゃったかもな。
でも、周也のせいだからしかたない。
いきなり肩を掴んできて、上を向かせて、僕の視界が周也だけになって。
「は?」って呟いた言葉ごと、周也の口の中に吸い込まれて。
そのせいで、僕の手から力が抜けて、漫画が落ちたんだから。

周也が手探りで照明のリモコンを操作する。
たぶん常夜灯。
真っ暗はいろいろと不便だし。
どこからか犬の遠吠えが聞こえる。

「僕……泊まるって……言ってない……」

「おばさんに連絡したから大丈夫」

「え、そうなの?……っ」

唇を塞がれて、反論さえさせてもらえない。
代わりに、自分でも聞いたことがないような、なんとも情けない声が出る。
周也が髪をなでる手が、あまりにも優しくて。

「あとで、まなちゃんにお礼しないと」

「え?なに?なんて?……ん」

Tシャツの下に潜り込んできた熱い手のせいで、なんて言ったのか聞き取れなかった。
だめだ。
もうなにも考えられない。
周也の手と唇に、意識が持っていかれる。

「拓海、好きだよ」

……なんだよ。
一回しか言わないって言ってたのに。
嘘つき。

「僕も、好き」

周也がぎゅっと抱きしめてくる。
苦しくて、ホッとして、泣きたいくらい嬉しくて。
ありえないくらい早くなった鼓動。
Tシャツを脱いだ周也の胸と、直に重なった。

五年ぶりに再会した幼馴染は、もう二度と僕を離すつもりはないらしい。