祭りの夜、5年ぶりに再会した幼馴染に思い知らされる話。

膝に手をついた。
苦しい。
また雨が強くなって、うまく息が吸えない。
なんでこんなことになったんだ。
真奈美の財布を届けて、まっすぐ帰るつもりだった。
漫画の続きを読んで、母さんの小言を聞いて、それでも夜更しして。
いつもと変わらない夏休みのはずだったのに。
これのせいだ。
恨みがましく空を見上げるけど、またすぐに目を閉じる。
顔に当たる雨粒が、僕の頬を流れた。

太鼓の音も、提灯の明かりも、全部が遠ざかった。
――それなのに。
走るのをやめても息は苦しいし、心臓の音はずっと響いてる。
周也のことも好きなままだ。
ほんと、笑える。
いっそのこと嫌いになれたらいいのに。
死ぬまで想う人生も幸せだなんて、誰が言ったんだよ。
……ああ、僕だったわ。
あほすぎんだろ。

「……み!……拓海!!」

ザーザーと絶え間なく降る雨の中。
水たまりを蹴る足音に気づかなかった。
だって、気づいたら速攻で走り出してた。

「はぁ?!なんで?!」

振り向いたときには熱い手に捕まっていて、目の前に周也の顔。
条件反射的に高鳴る心臓。
マジで自分を殴りたい。

「なんで追いかけてきてんだよ」

「逃げるから」

「逃げてねーし」

「そんな顔すんなよ」

どんな顔だよ!
ていうか、お前こそなんて顔してんだよ。
今さらだろ。
五年間も隠れてた幼馴染なんて、もう友達ですらないから。
……そうだよ。
友達ですらない。
これ以上、失うものなんてないのかもしれない。

「ったく、バカみてー」

「ごめん」

「周也じゃなくて僕」

「拓海が?」

「そうだよ。望みなんてねーって、分かってたのに」

「なんの話?」

口を噤む。
水滴だらけの眼鏡を外すと、周也の顔がさっきよりもはっきり見えた。
この薄い唇、一番好きだったんだよなぁ。
笑ってなくても笑ってるように見えるのが不思議で、いくら見てても飽きなくて。
僕って唇フェチなんかなって思ってたけど、周也だから好きだったんだ。

もう終わりにしたい。
この不毛な片思いも。
幼馴染って立場にすがりつくのも。

「僕が周也のこと、好きだって話」

周也が目を見開く。
握りしめた拳を背中に隠して、僕は笑った。
期待なんて1ミリもしてなかったけど、この反応は正直キツイ。
でも、きっと半年後……いや、一年後にはもう大丈夫になってるだろ。
怒りのピークは七秒って言うし、悲しみにだってピークがあるはずだ。

固まったまま動かない周也に、背を向ける。

「そういうことだから。じゃあな」

大丈夫、大丈夫。
最後はけっこういい顔で笑ってただろ?
雨のおかげで泣いてんのはバレてないし。
いつか笑い話にできる。

「拓海……!」

強い力で肩を引かれた。
僕も周也も、ありえないくらいびしょ濡れで、ガタガタと震えている。
それでも周也は、まっすぐ僕を見ていた。
決してそらすことはなかった。