「拓海、冷たい」
だからって足乗っけんのはやめろ。
スリスリ、じゃねーんだよ。
肩ひじついて、横向いちゃって……
それで漫画読めてんの?
ちなみに僕は読めてない。
さっきから1ページも進んでないけど、なんで気づかねーの?
「だぁーー!重い!」
「なにが?」
「なにって、お前の足以外になにがあるんだよ」
「うーん。……まぁ、自覚はある」
「あんのかよ!じゃあやめろ」
身をよじって逃れる。
なんだよ、その顔。
拗ねてんじゃねーよ。
可愛いかよ。
今度は手が伸びてくる。
うつ伏せになって漫画を開いてる僕の、額にかかった髪を耳にかける。
なでるように掠める指先。
周也は昔からこういうやつだった。
だから僕もまんまと好きになって……
あっつ……
変な声出そうになるから、マジでやめてほしい。
ていうかやめろ。
パタンと漫画を閉じる。
「周也さ、読む気ある?」
「……ないかも」
「やっぱり」
「拓海読んでていいよ。俺も好きにしてるから」
好きにって……
おい、足!
お前は一体なにがしたいんだよ。
いちいち僕をドキドキさせてくるな!
「……僕、帰ろっかな。服、あとは家で乾かすからいーよ」
これ以上はヤバい。
なにがヤバいって、僕が社会的に終わる。
幼馴染、しかも同性に見せていい顔してない、絶対。
まぁ、もう見られてるんだけど。
いいよ。
今日のことは僕の黒歴史として、たまに思い出しては悶えることにする。
合点して頷いてから、手を突っ張る。
「拓海、なんで俺から離れたの?」
聞いたことないくらい低い声。
金縛りにあったみたいに、瞬きひとつできない。
「……そ、れは」
「……」
えっ、怒ってる?
……そりゃ怒るよな。
毎日のように入り浸ってたのに、あの祭りの日、唐突に気づいてしまった。
こいつの横顔がきれいだってことに。
形のいい唇からこぼれた言葉に、空気が揺れたことに。
「拓海?」
「ごめん」
「ごめんじゃなくて、理由」
シーツを握る。
僕の白くなった関節を、周也はじっと見ていた。
「……周也、告白されたって言ってたじゃん」
「え?」
「あの日!祭りの日!ここで。外、見ながら」
小学生のくせに、散々告白されてた周也。
いつもだったら断ってた。
『拓海といる方が楽しいから』って。
それなのに、あの日は……
胸の痛みとともに、周也の言葉が蘇る。
『告白されてさ、付き合おうかなって思ってる――』
提灯の明かりを反射する瞳。
初めて見る表情。
鼻の奥がつんとして、それなのに目が離せなかった。
「あー、あれ?」
「周也に彼女できたら、僕、邪魔者じゃん」
「なんでだよ。結局断ったし」
「でもさ、いつかはできるわけじゃん?知らねーけど、できたことあるんだろ?」
そしたらやっぱり邪魔になるだろ?
自分のことを好きな男が、周りをウロチョロしてるなんて。
だから、これでよかったんだ。
――それなのに。
「……ないよ」
「は?ないのかよ」
「ていうか、あれは失敗だった」
「失敗って?」
「好きな子振り向かせたくて、小学生なりに考えた作戦だった」
……なんだ。
いたのかよ、好きな子。
僕って結局、周也のなんだったんだよ。
幼馴染で兄弟みたいに育って、なんでも言い合えてると思ってた。
それなのに、好きな子がいたなんて知らなかった。
早く知ってたら、こんな気持ちにならなかったのかもしれないのに。
僕の五年間。
周也への想いに気づいて、勝手に傷ついて、勝手に離れたこの五年間。
周也にとっては、『作戦に失敗した過去』でしかなかった。
腹が立つ。
今すぐ帰りたい。
雨が止んでなくても関係ない。
早くここから離れないと、いつか偶然会ったとき笑えなくなる。
今度こそ体を起こす。
ベッドが軋む。
黙ってドアに向かい、手をかけた。
「拓海、どうした?」
「……帰る。服はあとで届ける。僕のは捨てていいから」
振り向かなかった。
最後に見たのが泣き顔なんて、後味悪いだろ?
変なところで、周也の記憶に残りたくない。
やみくもに階段を駆け下りる。
廊下を突っ切る。
「待って!」
バタバタという足音。
止まるつもりなんてなかったのに。
一瞬もつれた足に、拳をぶつける。
動け!ちゃんと動け!
靴、びっちょびちょだけど、今はそんなのどうでもいい。
踵を踏んづけたままだって、走れるだろ。
早く人混みにまぎれるんだ。
ただそれだけを考えて、蹴るようにドアを開けた。
だからって足乗っけんのはやめろ。
スリスリ、じゃねーんだよ。
肩ひじついて、横向いちゃって……
それで漫画読めてんの?
ちなみに僕は読めてない。
さっきから1ページも進んでないけど、なんで気づかねーの?
「だぁーー!重い!」
「なにが?」
「なにって、お前の足以外になにがあるんだよ」
「うーん。……まぁ、自覚はある」
「あんのかよ!じゃあやめろ」
身をよじって逃れる。
なんだよ、その顔。
拗ねてんじゃねーよ。
可愛いかよ。
今度は手が伸びてくる。
うつ伏せになって漫画を開いてる僕の、額にかかった髪を耳にかける。
なでるように掠める指先。
周也は昔からこういうやつだった。
だから僕もまんまと好きになって……
あっつ……
変な声出そうになるから、マジでやめてほしい。
ていうかやめろ。
パタンと漫画を閉じる。
「周也さ、読む気ある?」
「……ないかも」
「やっぱり」
「拓海読んでていいよ。俺も好きにしてるから」
好きにって……
おい、足!
お前は一体なにがしたいんだよ。
いちいち僕をドキドキさせてくるな!
「……僕、帰ろっかな。服、あとは家で乾かすからいーよ」
これ以上はヤバい。
なにがヤバいって、僕が社会的に終わる。
幼馴染、しかも同性に見せていい顔してない、絶対。
まぁ、もう見られてるんだけど。
いいよ。
今日のことは僕の黒歴史として、たまに思い出しては悶えることにする。
合点して頷いてから、手を突っ張る。
「拓海、なんで俺から離れたの?」
聞いたことないくらい低い声。
金縛りにあったみたいに、瞬きひとつできない。
「……そ、れは」
「……」
えっ、怒ってる?
……そりゃ怒るよな。
毎日のように入り浸ってたのに、あの祭りの日、唐突に気づいてしまった。
こいつの横顔がきれいだってことに。
形のいい唇からこぼれた言葉に、空気が揺れたことに。
「拓海?」
「ごめん」
「ごめんじゃなくて、理由」
シーツを握る。
僕の白くなった関節を、周也はじっと見ていた。
「……周也、告白されたって言ってたじゃん」
「え?」
「あの日!祭りの日!ここで。外、見ながら」
小学生のくせに、散々告白されてた周也。
いつもだったら断ってた。
『拓海といる方が楽しいから』って。
それなのに、あの日は……
胸の痛みとともに、周也の言葉が蘇る。
『告白されてさ、付き合おうかなって思ってる――』
提灯の明かりを反射する瞳。
初めて見る表情。
鼻の奥がつんとして、それなのに目が離せなかった。
「あー、あれ?」
「周也に彼女できたら、僕、邪魔者じゃん」
「なんでだよ。結局断ったし」
「でもさ、いつかはできるわけじゃん?知らねーけど、できたことあるんだろ?」
そしたらやっぱり邪魔になるだろ?
自分のことを好きな男が、周りをウロチョロしてるなんて。
だから、これでよかったんだ。
――それなのに。
「……ないよ」
「は?ないのかよ」
「ていうか、あれは失敗だった」
「失敗って?」
「好きな子振り向かせたくて、小学生なりに考えた作戦だった」
……なんだ。
いたのかよ、好きな子。
僕って結局、周也のなんだったんだよ。
幼馴染で兄弟みたいに育って、なんでも言い合えてると思ってた。
それなのに、好きな子がいたなんて知らなかった。
早く知ってたら、こんな気持ちにならなかったのかもしれないのに。
僕の五年間。
周也への想いに気づいて、勝手に傷ついて、勝手に離れたこの五年間。
周也にとっては、『作戦に失敗した過去』でしかなかった。
腹が立つ。
今すぐ帰りたい。
雨が止んでなくても関係ない。
早くここから離れないと、いつか偶然会ったとき笑えなくなる。
今度こそ体を起こす。
ベッドが軋む。
黙ってドアに向かい、手をかけた。
「拓海、どうした?」
「……帰る。服はあとで届ける。僕のは捨てていいから」
振り向かなかった。
最後に見たのが泣き顔なんて、後味悪いだろ?
変なところで、周也の記憶に残りたくない。
やみくもに階段を駆け下りる。
廊下を突っ切る。
「待って!」
バタバタという足音。
止まるつもりなんてなかったのに。
一瞬もつれた足に、拳をぶつける。
動け!ちゃんと動け!
靴、びっちょびちょだけど、今はそんなのどうでもいい。
踵を踏んづけたままだって、走れるだろ。
早く人混みにまぎれるんだ。
ただそれだけを考えて、蹴るようにドアを開けた。



