周也の部屋。
家具はあんまり、というか、一つも変わってなかった。
畳の上に置かれた重そうなタンス。
僕が適当に貼った、お菓子のおまけのシールがまだ残ってる。
学習デスクもそのまま。
彫刻刀で遊んだ傷の上に、透明のカバーがかけられている。
あ、僕が彫った『バーカ』
ヤバいじゃん、懐かしすぎる。
セミダブルのベッドに寝転んで、二人で一冊の漫画を読んだっけ。
あのころはもっと大きく見えたけど。
「なにやってんの?早く脱いで」
「あー、うん」
当たり前だけど、意識してんのは僕だけで……
ここで変に躊躇うのもおかしな話で……
襟にかかってた眼鏡。
周也の持ち上げた手のひらに乗せる。
って、脱ぎづらい!
重いし、張りつくし。
もたもたしてたら、周也が背中の方をめくってくれた。
「あ、悪ぃ」
「拓海、眼鏡になったの?」
「あぁ、受験で視力落ちた」
そのまま僕の横を通り過ぎた。
眼鏡を机に置いて、タンスの引き出しを開ける。
その間に、ハーフパンツも脱いで、パンツ一丁になった。
ドヤッ!
全然平気だし。
なんだったらパンツも脱ぎましょうか?
そこまで濡れてないから脱がねーけどな。
「これ、着て」
腰に手を当ててる僕に、着替えを突き出す。
おや?こっち見ない。
大人の配慮ってやつ?
昔は一緒にお風呂入ってたのに。
そんな気遣いできるような男に成長したわけ?
ま、そりゃそうか。
変わらないはずない。
僕も周也も。
「ありがとう。……デカくね?」
「俺のだからね」
「なに一人だけデカくなってんだよ」
「拓海がちっちゃいんだろ」
「いや、僕は平均的だからな?なんだったら僕の学校じゃ、デカい方だからな?」
「へぇ」
「うーわ、興味な!」
軽口をたたいてる間にさっと着る。
よかった。
僕、ちゃんと笑えてるっぽい。
ていうか、周也の笑顔の破壊力ヤバい。
語彙消える。
「脱いだの持ってくよ。乾燥機かけるから」
「おう」
「このTシャツだってデカいじゃん。拓海のじゃないだろ?……誰の?」
「兄貴のお下がりだよ。真奈美に財布届けるだけだったから、着替えないで出てきた」
「ああ、雅臣くんの?なんだ。雅臣くん、元気?」
「元気元気。大学生って暇なんだな。バイトばっかしてるよ」
「ははっ」
パタパタと階段を降りていく音に耳を澄ませた。
眼鏡をかけ直して、改めて部屋の中を見回す。
家具も配置も変わってないけど、置いてあるものは違う。
漫画がしまわれてた本棚は教科書になってる。
そういや、母さんが言ってた。
隣町の、偏差値の高い高校に進学したって。
勉強、がんばってんだな。
机の上にあったフィギュアも、コマのおもちゃも、百枚以上集めたカードも。
きれいになくなっていて、おしゃれな電気スタンドに変わってる。
これは……リボンがかけられた小箱。
チョコかな。
大事にとってあるっぽい。
なんで痛くなるんだよ。
やめてくれよ。
「拓海?」
いつの間にか周也が戻ってきていた。
びっくりした。
そのせいだ。
考えてたことがそのまま口から出る。
「周也、彼女いるだろ」
「え?いないけど」
「嘘だ。だってこれ」
小箱を指差す。
周也の目が見開かれる。
なんだよ、その顔。
なに赤くなってんだよ。
隠す必要ねーじゃん。
こっちは必死に痛いの我慢してんのに。
「ちげーし。それ、自分で買ったやつ」
「あっそ」
「いや、マジだから」
「別に関係ねぇけど」
鼻がずずっと鳴ったのは、さっきくしゃみをしたからだ。
窓から通りを見下ろす。
雨、弱くなったな。
また人が増えてる。
傘を手に持って歩いてる人もいるし、これなら帰れそう。
隣、来るんじゃねーよ。
いろいろ思い出すだろ?
あのときの横顔とか、閉じ込めた気持ちとか。
「なんか懐かしいな」
「……」
「あのときのカード、どうした?」
「……捨てた」
なんて嘘。
捨てられるわけない。
周也と集めたカード。
たいした思い出じゃないけど。
「俺はまだとってあるよ」
「え?どこに?」
「こっち」
周也が押し入れを開ける。
うわ、なんだこれ。
こんなとこにしまってたのかよ。
カードもコマもフィギュアも。
僕と周也がただの幼馴染だったころが、全部詰め込まれてる。
あ、この漫画……
「これ、周也も買ってるんだな」
「……うん、まあ」
「なぁ、読んでいい?帰ったら読もうと思ってたんだよ」
「いいよ。最新巻でいい?」
「おう」
周也の長い指が漫画をとった。
渡してくれんのかと思ったら、ベッドに寝転がって端に寄る。
えっと、どういう意味ですか?
僕はどうしたらいいわけ?
「ほら、来なよ」
「……は?」
「俺もまだ読んでないし」
ここで変に躊躇うのもおかしな話で……ってこれ思うの二回目。
まぁ、いっか。
くっつきたいか、くっつきたくないかで言ったら前者だ。
これはチャンスだ。
心残りなく諦められるか、また何年も不毛な片思いを続けるか。
ある意味、賭け?
答えは出かかってるけど、どうせ他に好きなやつなんてできない。
死ぬまで周也を想う人生も、幸せかもしれない。
近くで見届けたくはないけど。
「せっま!もっと詰めろよ」
肩、くっつけてやろ。
こいつ、なんでもない顔しやがって。
俺の顔は見られないようにしねーと。
少しだけ体を足の方にずらした。
家具はあんまり、というか、一つも変わってなかった。
畳の上に置かれた重そうなタンス。
僕が適当に貼った、お菓子のおまけのシールがまだ残ってる。
学習デスクもそのまま。
彫刻刀で遊んだ傷の上に、透明のカバーがかけられている。
あ、僕が彫った『バーカ』
ヤバいじゃん、懐かしすぎる。
セミダブルのベッドに寝転んで、二人で一冊の漫画を読んだっけ。
あのころはもっと大きく見えたけど。
「なにやってんの?早く脱いで」
「あー、うん」
当たり前だけど、意識してんのは僕だけで……
ここで変に躊躇うのもおかしな話で……
襟にかかってた眼鏡。
周也の持ち上げた手のひらに乗せる。
って、脱ぎづらい!
重いし、張りつくし。
もたもたしてたら、周也が背中の方をめくってくれた。
「あ、悪ぃ」
「拓海、眼鏡になったの?」
「あぁ、受験で視力落ちた」
そのまま僕の横を通り過ぎた。
眼鏡を机に置いて、タンスの引き出しを開ける。
その間に、ハーフパンツも脱いで、パンツ一丁になった。
ドヤッ!
全然平気だし。
なんだったらパンツも脱ぎましょうか?
そこまで濡れてないから脱がねーけどな。
「これ、着て」
腰に手を当ててる僕に、着替えを突き出す。
おや?こっち見ない。
大人の配慮ってやつ?
昔は一緒にお風呂入ってたのに。
そんな気遣いできるような男に成長したわけ?
ま、そりゃそうか。
変わらないはずない。
僕も周也も。
「ありがとう。……デカくね?」
「俺のだからね」
「なに一人だけデカくなってんだよ」
「拓海がちっちゃいんだろ」
「いや、僕は平均的だからな?なんだったら僕の学校じゃ、デカい方だからな?」
「へぇ」
「うーわ、興味な!」
軽口をたたいてる間にさっと着る。
よかった。
僕、ちゃんと笑えてるっぽい。
ていうか、周也の笑顔の破壊力ヤバい。
語彙消える。
「脱いだの持ってくよ。乾燥機かけるから」
「おう」
「このTシャツだってデカいじゃん。拓海のじゃないだろ?……誰の?」
「兄貴のお下がりだよ。真奈美に財布届けるだけだったから、着替えないで出てきた」
「ああ、雅臣くんの?なんだ。雅臣くん、元気?」
「元気元気。大学生って暇なんだな。バイトばっかしてるよ」
「ははっ」
パタパタと階段を降りていく音に耳を澄ませた。
眼鏡をかけ直して、改めて部屋の中を見回す。
家具も配置も変わってないけど、置いてあるものは違う。
漫画がしまわれてた本棚は教科書になってる。
そういや、母さんが言ってた。
隣町の、偏差値の高い高校に進学したって。
勉強、がんばってんだな。
机の上にあったフィギュアも、コマのおもちゃも、百枚以上集めたカードも。
きれいになくなっていて、おしゃれな電気スタンドに変わってる。
これは……リボンがかけられた小箱。
チョコかな。
大事にとってあるっぽい。
なんで痛くなるんだよ。
やめてくれよ。
「拓海?」
いつの間にか周也が戻ってきていた。
びっくりした。
そのせいだ。
考えてたことがそのまま口から出る。
「周也、彼女いるだろ」
「え?いないけど」
「嘘だ。だってこれ」
小箱を指差す。
周也の目が見開かれる。
なんだよ、その顔。
なに赤くなってんだよ。
隠す必要ねーじゃん。
こっちは必死に痛いの我慢してんのに。
「ちげーし。それ、自分で買ったやつ」
「あっそ」
「いや、マジだから」
「別に関係ねぇけど」
鼻がずずっと鳴ったのは、さっきくしゃみをしたからだ。
窓から通りを見下ろす。
雨、弱くなったな。
また人が増えてる。
傘を手に持って歩いてる人もいるし、これなら帰れそう。
隣、来るんじゃねーよ。
いろいろ思い出すだろ?
あのときの横顔とか、閉じ込めた気持ちとか。
「なんか懐かしいな」
「……」
「あのときのカード、どうした?」
「……捨てた」
なんて嘘。
捨てられるわけない。
周也と集めたカード。
たいした思い出じゃないけど。
「俺はまだとってあるよ」
「え?どこに?」
「こっち」
周也が押し入れを開ける。
うわ、なんだこれ。
こんなとこにしまってたのかよ。
カードもコマもフィギュアも。
僕と周也がただの幼馴染だったころが、全部詰め込まれてる。
あ、この漫画……
「これ、周也も買ってるんだな」
「……うん、まあ」
「なぁ、読んでいい?帰ったら読もうと思ってたんだよ」
「いいよ。最新巻でいい?」
「おう」
周也の長い指が漫画をとった。
渡してくれんのかと思ったら、ベッドに寝転がって端に寄る。
えっと、どういう意味ですか?
僕はどうしたらいいわけ?
「ほら、来なよ」
「……は?」
「俺もまだ読んでないし」
ここで変に躊躇うのもおかしな話で……ってこれ思うの二回目。
まぁ、いっか。
くっつきたいか、くっつきたくないかで言ったら前者だ。
これはチャンスだ。
心残りなく諦められるか、また何年も不毛な片思いを続けるか。
ある意味、賭け?
答えは出かかってるけど、どうせ他に好きなやつなんてできない。
死ぬまで周也を想う人生も、幸せかもしれない。
近くで見届けたくはないけど。
「せっま!もっと詰めろよ」
肩、くっつけてやろ。
こいつ、なんでもない顔しやがって。
俺の顔は見られないようにしねーと。
少しだけ体を足の方にずらした。



