祭りの夜、5年ぶりに再会した幼馴染に思い知らされる話。

最後に祭りに行ったのはいつだろう?
……あぁ、そうだ。
あのころ流行っていたカードゲーム。
レアキャラが欲しくて、祭り用にもらったお小遣いつぎこんで、周也の部屋で開けたんだよな。
結局全部ハズレで、『止まねーな』って言いながら、二階の窓から外を眺めて。
屋台の下でひしめきあっている人達を見て、あいつはなんて言ってたんだっけ。
ひたすら横顔を見つめていたから、よく覚えてない。

久しぶりすぎて忘れてた。
祭りの日って絶対降るんだよな、雨。
前が見えない。
こういうとき眼鏡って不便だ。
しかたなく外して、襟に引っかける。
靴の中はぐしょぐしょ。
Tシャツは濡れて重い。
よりによって兄貴のお下がりを着てくるなんて。
ぶかぶかなのが逆に楽で、いつも部屋着にしてたから。
ふるっと肩を震わせると、ハーフパンツのポケットからスマホを出す。
とにかく合流しないと。
真奈美が僕……じゃなくて、財布を待ってる。

「もしもし、今どこ?」

『しゅーちゃんちの前で雨宿りしてる。おにぃ、もう着く?』

「………」

『おにぃ?』

よりによって周也。
もう何年も顔を合わせてない。
きまずいんだけど……
いや、あいつのことだ。
彼女とでも行ってるか。
そうじゃなきゃ、学校の女子にでも誘われてるだろう。
家にはいない気がする。
たぶんだけど。
スマホをぎゅっと握る。

「あと五分くらい。そこで待ってて」

『うん、よろしく〜』

まったく。
我が妹ながら、うっかりが過ぎる。
おかげで思い出しちゃったよ。
なんて、本当は忘れたことなんてないけど。
僕って意外と一途なんだよな。
不毛すぎて草生えるわ。
太鼓の音がやけに寂しそうに響く中、提灯の間を走る。

「真奈美!」

明かりのついたひさしの下。
おーおー、ピンクの浴衣が似合ってますねぇ。
お兄ちゃんはちょっと心配ですよ。

「まじでありがと〜」

「財布忘れるとかさぁ、ありえんだろ」

「えへへ、ごめんごめん」

「えへへじゃねーよ」

「おにぃ、ビショビショじゃん」

「誰のせいだよ」

あ、出そう。
ムズムズする鼻にシワが寄る。

「ハックシュン!」

あー、最悪だ。
早く家に帰りたい。
シャワー浴びて、漫画の続きが読みたい。
祭りなんて、人は多いし、雨は降るし、昔のこと思い出すし。
いいことなんて一つもない。

「じゃあな!気をつけろ……」

「――拓海?」

息が止まる。
上げかけた右手が止まる。
声は違うけど、僕を呼び捨てにするのはあいつしかいない。
うそだろ?
タイミング悪すぎ……
ていうか、後ろ向けない。

「しゅーちゃん!」

「まなちゃん!浴衣、可愛いね」

「えへへ。……あ、そうだ。おにぃに着替え貸してくれない?」

待て待て、真奈美。
優しく育ったことは素晴らしいが、今はそれを発揮するときじゃない。
日本にはおせっかいという言葉があってだな――

「もちろんいいよ。拓海、入って」

バサバサという音がする。
たぶん傘。

「大丈夫!すぐ帰るから」

うわー、声が裏返った。
久しぶりの再会にしちゃあまりにも情けない。
なんとなく視線を感じる。
いや、僕の首が熱くなってるせいだ。

「いいから」

僕の肩に手が……
やばい。
心臓痛くなってきた。
しかも、けっこう力強いし。

「まなちゃん、傘持っていって。気をつけてね」

「うん!ありがと、しゅーちゃん」

周也の腕が後ろから伸びてきて、ガチャリとドアを開ける。
なにときめいてんだよ、ばかやろー。

またガチャリ。
喧騒が遠くなった。
玄関のたたきに、ポタポタと水滴が落ちる。

「ちょっと待ってて」

周也は靴を脱いで、廊下をまっすぐ進んだ。
まだ、顔見れてない。
あいつだって、僕の顔見てない。
小学校を卒業する年だった。
もう、ずいぶん変わってるだろう。
お互いに。
見たいような、見たくないような……
頭を下げる。
戻ってきた手にタオルが握られているのを、水が伝う前髪の隙間から見る。

「拭いて」

「あ、うん……うわ!ちょっと!」

頭にタオルをかぶせてきて、わしゃわしゃと拭かれる。
優しいー。
……じゃなくて、自分でやるってば。
手を伸ばすけど、さっと避けられてしまった。

「拓海、久しぶりだね」

「……うん」

周也が僕の首にタオルをかけて、そのまま両端を握る。
手がデカくなってる。
関節と、浮いた血管。
腕も。
なにかスポーツやってんのかな。
細くてしなやかな筋肉だ。
相変わらず線は細いし、なで肩気味だけど、昔と違う。
僕より白くて華奢だったのに。

「ほら、上がって」

「おう」

慌てて靴と靴下を脱いだ。
タオルを軽く引っ張られて、周也と同じ場所に上がる。
背、ずいぶん伸びたんだな。
あのころは目線の高さが一緒だった。
あ、顎の形は変わらない。
口も。
薄くて、笑ってなくても上がった口角。
いつも見てたな。
羨ましかった高い鼻。
それから、目……

「あ、やっとこっち見た」

五年ぶりのアーモンドアイが柔らかく細められる。
かっこいい……
昔からモテてたけど、オトナっぽくなって、ますますかっこよくなってる。
これは女子がほっとかないだろ。
やっぱり離れて正解だった。
それなのに――
あーあ、もう手遅れだ。

「ハ、ハ……ハックシュン!」

寒い。
でも、肩と顔だけ熱い。
鳥肌の立つ腕を引っ張られて、僕たちは階段を上がった。