放課後になると自分のところへやってくる少女。
数学の教科書や参考書を抱えて。
分からない問題を見つけるたびに、いつも聞いてきた。
晴れの日も、雨の日も。
「高瀬くん、これ教えて」
「高瀬くん、ここ分かんない」
「高瀬くん、今日も数学教えて?」
毎日のように。
少しだけ笑みが溢れる。
「昔、毎日俺に数学を聞いてくる子がいたんだ」
「へえ。その子がきっかけ?」
「そうかもしれないな」
答えながら、胸の奥がほんの少しだけ痛んだ。
あの頃は、それが当たり前だと思っていた。
毎日会えることも。
くだらない話をすることも。
一緒に帰ることも。
ずっと続くものだと思っていた。
「どんな子だったの?」
生徒から尋ねられ、窓の外へ視線を向けた。
夕暮れの校庭。
遠くから、部活動をする生徒たちの声が聞こえている。
そして―
あの日の記憶が、静かに蘇った。
「…よく笑う子だったよ」
それだけ言って問題集を指で叩く。
「ほら。テスト前なんだろ。続きやるぞ」
「はーい」
生徒が再びペンを握り直し、自分も黒板へ歩みを進める。
けれど、その胸の奥には、今でも消えることのない少女の笑顔が残っていた。
