君がいる夜



「高っち〜! またねー!」

ひとりの少女が、渡り廊下の上にいる自分に向かって大きく手を振った。

「高瀬先生さようなら、だろ?」

すかさず注意すると、

「キャー! 怒られちゃった!!」

そう言いながら、少女は友達と顔を見合わせて笑い合う。

怒られたにしては、まったく反省していない。

セーラー服の少女たちは、笑い声を残しながら校舎の向こうへ消えていくその後ろ姿を見送り、小さく息を吐いた。

「まったく、」

教師になってもう何年になるだろうか。
先生だ、という覇気はいつになったら出るのだろう。

そんなことを考えながら職員室へ戻ろうとした、そのとき。

「先生!」

背後から声をかけられ、振り返ると、男子生徒が立っていた。

「どうした?」

「数学、ちょっと教えてほしいんだけど」

「今からか?」

「うん。来週のテスト、やばくて」

「…仕方ないな」

苦笑して、近くの空き教室へ向かった。

どうして生徒は、いつもギリギリにならないと質問に来ないのだろうか。

机を挟んで向かい合い、問題集を開く。

「ここ、なんでこうなるの?」

「まず、この式を整理して―」

説明を始めると、生徒は真剣な顔でノートに書き込んでいく。

しばらくして、ふとその手が止まった。

「ねえ、先生」

「ん?」

「先生って、どうして先生になろうと思ったの?」

突然の質問だった。

どうして教師になったのか。


改めて聞かれると、言葉が上手く出てこない。

けれど―。
頭の片隅に、ひとりの少女の姿が浮かんだ。