僕の季節はどこまでも青く

その日の帰り道は雨が降っていた。
 
 天気予報はこんな大雨の予報なんて出してなかったはずだ、傘なんて持ってない俺は特に雨に濡れないようにする対策もしないまま、そのまま走り家を目指す。
 体はすぐにびしょびしょになり、シャワーを浴びた後のようになる。というよりバケツの水を頭からかけられたのほうが表現の方が正しいかもしれない。
 学校から家までの距離は歩いて15分くらい。走ったらどのくらいかはわからないけど確実に5分は早く帰れる。俺はとにかく走った。走り続けているといつも馴染みのある公園に1人座る人がいた。その人物が誰かはすぐにわかった。白川だ。そして白川だと気づいた瞬間にさっきの小野川の言葉が脳裏をよぎる。
 それが本当だとしたら...?
 
 俺は白川に駆け寄った。
「お前何してんの?」
 雨のせいでいつもは賑わう公園も今日は誰も人がいない。あたりを見渡しても俺と白川2人きりだ。
「帰ってたら、雨が降り出して、それで公園で雨宿りしてる」
 前髪が濡れていて、いつもは見えないおでこが隙間から見える。制服のボタンは一つはずされ、肌にまとわりつくのを防いでいるようだ。
「雨男か?あーあー俺はお前のせいで濡れちまったよ」
 また白川をからかう発言をしてしまう。
 2人きりだから少しは素直になったり、いいところを見せればいいのに。
 教室で意地悪をしているときとは別の空気が流れる、そりゃそうだ、今この空間には2人しかいない。第三者がいないからだ、ここでは注意をする先生も軽蔑の眼差しを向けてくる女子も隣の席の小野川もいない。
 2人だけの世界だ。でも喜ばしいはずなのに気まずい。話題がない。先に口を開いたのは白川だった。
「なんで俺にいつも意地悪するの...?」
「!!」
 それはお前が好きで近づきたいけど近づき方がわからないからだよなんて言えない。
「それは...」
 でもここでは2人きりだ。嘘をつく必要もない。俺は白川が好きなんだ!そう言えたらどんなにいいだろう。
「ねぇ、田島さ。キスってしたことある?」
「え?」
 白川の言葉が空気をガラリと変えた。
「お前何言ってんの?」
 白川とのキス...それは頭の中で俺が何度も想像したこと。かつては女とするのが当たり前だと思っていたのに、いつのまにか脳内が白川で埋め尽くされていて女と白川がすり替わってるのが当たり前になっていた。男とするなんてきもちわりぃ。男と女のロマンスで溢れかえる世の中、クラスでも誰が告ったとか告られたとかそんなのばっかりなのに、俺はどうして男を好きになった?

 白川の見た目が女みたいに綺麗だから?優しくされたから?それとも俺はホモだったのか?なんで俺は普通じゃないんだ。普通の恋ができないんだ?
 
「キスしてみない?」
 白川の言葉に驚き、ただその場に立ち尽くす。夢にまで見たことだぞ。なのにイエスともノーとも言えない。いや、言わないということはイエスと言っているのと一緒かもしれない。

 白川の顔が近づいてくる、なにこの綺麗な顔...触れたかったと思っていたのに現実になるとうまく対処できない。いつもは馬鹿みたいに騒いで先生を困らせたり、周りに呆れられたりしてるのにこんなにうまく動かないなんて。

 ゆっくりと唇と唇が触れ合う。妄想のなかでは俺と白川は自由なのに、好きにしてるのに、現実ではただただその行為を受け入れるだけだった。
 唇を離すと白川は俺の方をゆっくりと見る。
 
「意地悪って、する方だけじゃなくてされるほうも好きになっちゃうんだよ。田島の意地悪は小さな男の子が好きな子にする意地悪って俺気づいてるから」

完全に見破られていた。馬鹿な俺は今まで白川の手のひらで転がっていただけなのか。でもやっぱり好きだなんて正直に言えない。
「お前、ホモかよ!男同士で好きとかキスとかありえねーよ!」

 思ってもないセリフを言い捨てて、土砂降りの中、再び駆け出した。