新たな恋は意外な場所からやってくる

二人並んで山道を下る。いつもは途中で別の道に分かれるのに、今日は同じ道だ。いつも一人で通っているはずの道に江波戸がいることは、不思議で仕方なかった。

「こっちの道、新鮮だな」
「江波戸はいつも1棟通り使うもんね」
「俺がいつも使ってたあの道って、そんな名前だったの!?」
「いや、僕が勝手にそう呼んでるだけ」
「まあでも実際あの道、1棟の玄関前にピンポイントで着くし、あながち間違いでもないよな」
 
他愛もない話を続けながら順調に下山し、4棟前に到着した。
 本来なら一棟のほうに向かって降りるのが普通の帰り方だが、1棟前を通ると江波戸のサボりがバレてしまうかもしれない。

一棟のほうから降りるのではなく、4棟方面から少し坂を上って大学まで行き、大学正門から帰宅する作戦にした。

 そして僕は気づいた。この学校に入ってからはじめて誰かと一緒に帰宅するという行為をしていることに。一年の時にも大して友達がいなかった。

「俺、何気にこっちの道来るのはじめてかも」
「僕もいつもは一棟のほうから帰ってるよ。あんまりこっち使う高校生はいないと思うけど」
「意外と運動部はいつも大学側から帰ってるらしいよ」

 大学のほうまで坂を登り、裏門から大学に入っていく。大学に用事はないのでめったに行かないが、1年の時にオープンキャンパスに行かされたことがあったので、何となくの道は覚えている。建物の間を潜り抜け、僕たちは大学正門から抜けた。

「北村って上り方面?」
「いや、下り」
「俺と逆か。下りだと電車何時?」
 乗ろうとしていた16時37分発の電車は、江波戸とオアシスで話しているうちにとっくに発車してしまったことに今気がついた。次の電車は17分発。
 
そしてスマホを見ると、今17時13分。
ここからでは走っても駅まで7分はかかる。僕は2本も電車を逃してしまった事実に、霧山大学付属高校帰宅部として悔しく思った。

「37分発かな」
「なら、ちょっとコンビニ寄ってく?」
「いいよ」
 
どうせ時間は有り余っているのだから、素直にコンビニに行くことにした。
「北村ってこのコンビニよく使うの?」
「そんなにかな」
「マジで? 俺ほぼ毎日ここにきてるよ」
「そんな奴いるんだ」
 このコンビニは霧山付属の生徒が多いので、あまり近寄らないようにしていた。それは正しい判断であったようだ。これからもここを使うのは避けよう。
 
中途半端な時間だから、今日行くくらいなら大丈夫だろうけれど。
 
適当にお茶とアイスを買い、外のベンチに座る。江波戸はチキンを買っていた。
「何にしたん?」
「チョコバナナ味」
「うまそ。そう言えばチョコで思い出したんだけど、担任の林田最近やばくて」
 

思わぬところからまた槍が飛んできた。唐突な林田先生の登場に動揺を隠せない。ただ、声が上ずらないよう必死に落ち着かせる。
「何が?」
「最近子供生まれたみたいでさ、もうノロケが止まらないんだよね」
「へえ」
「なんか女の子が生まれて、大フィーバー。後ろの黒板に写真貼って自慢してるんよ。その中にバナナの着ぐるみ着せてあるやつがあったなって思って」
 僕は今日ほど進学コースを辞めたことを正しい選択だと思ったことはない、というほど安堵した。きっとこのまま進学コースに残っていたら、2年から不登校になっていたことは間違いない。
 
ただ、これ以上この話題が広がるのは僕の精神衛生上良くない。また江波戸に当たってしまいかねない。
「そうなんだ。そういえば、江波戸の英検の結果はどうだった?」
 
必死に考え抜いた結果、直近であった会話の記憶を頼りに、なんとか話題を提供できた。
「まだ出てないけど、自己採点は8.5割取れてたから多分筆記は受かったと思う。面接はわからん」
「CBTで受けたの?」
「そうそう。だから面接まであったんだけど……あれ普通に考えて面倒よな。一気に面接対策までしないといけないなんて」
「僕はそれが嫌だったから対面しか受けてない」
「俺も対面にすればよかったって思ったけど、会場遠いとだるいなって」
「なるほど」
「ってもうこんな時間!北村電車間に合いそ?」
 
会話が弾み時間をあまり気にしていなかったが、そろそろ駅に向かわないと電車に乗れない時間になっていた。
「なんとか、先帰るね」
「おう、また来週」