新たな恋は意外な場所からやってくる

江波戸が山に来るようになってから、2週間が経った。
毎日来る江波戸に最初は辟易していたが、2週間を過ぎたあたりから特に何も感じなくなった。きっと、人と過ごす昼休みに慣れてきたのだろう。

お互い山に来て、僕は食事、江波戸は勉強をし、そのあと二人でちょろっと話して解散する。
お互いの連絡先も知らないし、校舎が違うので学校で会うこともない。昼休みを一緒に過ごすだけの関係。

今まで友達がいなかった僕にとって、これくらいドライな方が過ごしやすかった。

そして、僕はいつも通り今日の昼休みも山に向かった。
建物の前に到着すると、珍しく江波戸が先に来ていた。先に来ている時はすでに勉強をしていることが多いのに、今日は勉強もせずパンを頬張っている。それに、いつもリスニングに使っているヘッドホンも持ってきていなかった。

「今日はリスニングやらないの?」
隣に座りながら聞いてみた。

「英検、日曜で終わったからさ。しばらくはお休み」
「おつかれ」

そういえば先週、そんな話をしていただろうか。
いつも江波戸が開いていたリスニングの参考書には「英検準1級」と書かれていた。江波戸は去年2級を取って表彰されていたはずだ。

進学コースでは「1年で最低準2級、3年に上がる前までに準1級まで到達しろ」と言われていたな……と思い出す。
以前の僕は、進学実績や検定の取得率で担任の評価が上がると聞いて、「先生の実績作りに貢献したい」と健気に頑張り、1学期に準2級を取ったのだ。まあ、先生が結婚してからはそんな気持ちになれず、一気に何もしなくなったわけだが。

「ありがと」

勉強をしていない江波戸の横でお昼を食べるのは、なぜか緊張した。
普段、江波戸と話す時間は長くても15分ほどだったのに、今日は30分もある。

「俺ら、1年の時って本当に同じクラスだった?ってくらい接点ないよな」
「そうだね」
「北村って、なんでコース変えたの?」

思いもよらない質問に、僕は普通に動揺した。
どうしてそんなことを急に聞いてくるのか、訳が分からない。ずっと触れずにいられたから、これからも聞かれることはないのだろうと勝手に思い込んでいた。

「……普通に成績が下がったから」
親に話した理由を、そのまま伝えることにした。

「でも、進学に残れるくらいの内申はあっただろ。わざわざ総合に行かなくてもよかったのに」

(担任が結婚して、ずっとそばにいるのが辛くなって、勉強にも身が入らなくなって、離れたかったから……)
なんて馬鹿げた理由を話せるわけもない。

「……別に、俺の勝手だろ」
「でも、大学進学を目指してこの高校に入学したんだろ? だったら進学コースの方が――」
「うるさい!」

気づいた時には、もう声に出ていた。
深掘りされたくないのに、今までまともに人と接してこなかったから、どう話を切り上げたらいいのか全く見当もつかない。結果として、一番最悪な形で会話を打ち切ってしまった。

「ごめん、俺、そんなつもりじゃ……」

今、この山で江波戸と過ごす中で感じていた心地よさは、どこにもない。
触れられたくない部分に触れられ、意図しない形で逆切れしてしまった。江波戸の方を見ると、焦った顔で何かを言っている。

「……こっちこそ、急に怒ってごめん。僕、次体育だからもう行かなくちゃ」

とにかくその場から離れたくて、江波戸が何か言おうとするのを遮り、僕は嘘をついて全力で山を駆け下りた。