今日も4限のチャイムが鳴り、昼休みがやってきた。
昨日のように葛藤する時間はなく、心なしか足取りは軽い。誰もいない山道登り、オアシスに到着した。周りを見渡しても、江波戸はまだ来ていなかった。
今日は来ないのかもという期待に胸を膨らませ、ウキウキしながら昼食を保冷バッグから取り出す。蓋を開けると、いつも通りのお弁当。平穏が戻ってきたと実感した。
――その3分後。
山道から音が聞こえて目をやると、そこには江波戸がいた。
昨日のように悶々とする時間がなかったから、僕が早く着いただけだったか……。がっかりしつつも、会釈だけして食事を続ける。
「なんでそんなに他人行儀なん?」
「別に……」
なんで他人行儀なのかと言われても、別に友達というわけでもないし、元クラスメイトなんてこんなもんだろ。
「友達なのにそんな反応されたら傷つくじゃん」
「……ごめん」
僕らは友達であるという新事に驚きながら、表情には出さないようにして、何となく謝っておいた。
「まあいいけど。昨日は結局間に合った?」
「何とか」
「よかった。俺、ずっと気になってたんだよね」
「……もう少し考えるべき大切なことあるだろ」
「それはそうだけど、北村が俺のせいで先生に怒られたら嫌じゃん」
少し気を許したような口調で話しかけたことを後悔する間もなく、会話が進んでいく。
そこで僕はふと思った。こいつ、リスニングやらなくていいのか。そのためにこんな山奥まで来たんだろうに。
「勉強、しなくていいの?」
「おっと、そうだった」
江波戸は首にかけていたヘッドホンを耳に付け直し、黙々と勉強を始めた。
やっと静かな食事空間に戻り、僕は安堵した。
江波戸が悪いやつではないのは分かるが、誰かとコミュニケーションを取りながら食事をするというのは、かなり負担を感じる。なぜならば僕にとって、食事はこのつまらない学園生活の中で唯一の楽しみであり、息抜きの場だからだ。そこに他人が入る余地などない。
僕は弁当を余すことなく堪能し、昨日の読みかけの本を開いた。5ページほど読んだところで、リスニングを終えた江波戸から話しかけられた。
「今、体育って何やってるの?」
この本を読み終わるのはいつになるのだろう……
まあ、電車や家で読めばいいのだが、僕は
デジタルに浸ることができる時はデジタルに浸っていたいのだ。僕にとっての本はスマホが使えない中での娯楽であり、昼休みにしか訪れない特殊な状況でのお供なのだ。
そんな僕の気持ちを知るはずもない江波戸を無視する勇気もなければ、そこまで人間として落ちぶれたくもないと思い、僕は答えた。
「ソフト」
「へえ、俺らはバスケなんだけど。ソフト羨ましい」
「バスケの方が楽だろ。グラウンドより体育館の方が近いし」
「ソフトなら第一グラウンドだろ? 4棟から近いじゃん」
4棟というのは、総合コースの2年生が使っている校舎の名前だ。
「いや、他のクラスの関係で、第四使ってる」
「それはきついな」
第四グラウンドはグラウンドの中でも一番上に位置し、勾配もかなり急だ。そして僕の体育担当の先生は、体育教師の中で一番の下っ端である。
私立なので教師の入れ替わりもそこまでなく、4年間ずっと他の体育教師には敵わず、権力があまりない。そのため他のクラスと授業が重なると、一番遠いグラウンドしか取れないと以前嘆いていた。
「園崎だっけ、北村のクラス」
「いや、猿田」
「猿田って陸上部の顧問だよな」
「え、知らん」
林田先生以外の教師に興味が全くなく、正直誰がどこの顧問なのかすら僕は理解できていない。
「知らんて……って、もうこんな時間か」
「そろそろ戻ろうぜ」
「おう」
一緒に山を下りることになり、絶妙に気まずい。
「北村、そっちから下りるのか?」
「4棟はこっちからの方が近いから。1棟はそっちの道の方が近いと思うけど」
「そういうことか」
「じゃ」
何となく気まずくて、僕は足早に山を下りる。
「おう、またな!」
後ろから江波戸が手を振っている気がするが、気にせず僕は山を下りた。
昨日のように葛藤する時間はなく、心なしか足取りは軽い。誰もいない山道登り、オアシスに到着した。周りを見渡しても、江波戸はまだ来ていなかった。
今日は来ないのかもという期待に胸を膨らませ、ウキウキしながら昼食を保冷バッグから取り出す。蓋を開けると、いつも通りのお弁当。平穏が戻ってきたと実感した。
――その3分後。
山道から音が聞こえて目をやると、そこには江波戸がいた。
昨日のように悶々とする時間がなかったから、僕が早く着いただけだったか……。がっかりしつつも、会釈だけして食事を続ける。
「なんでそんなに他人行儀なん?」
「別に……」
なんで他人行儀なのかと言われても、別に友達というわけでもないし、元クラスメイトなんてこんなもんだろ。
「友達なのにそんな反応されたら傷つくじゃん」
「……ごめん」
僕らは友達であるという新事に驚きながら、表情には出さないようにして、何となく謝っておいた。
「まあいいけど。昨日は結局間に合った?」
「何とか」
「よかった。俺、ずっと気になってたんだよね」
「……もう少し考えるべき大切なことあるだろ」
「それはそうだけど、北村が俺のせいで先生に怒られたら嫌じゃん」
少し気を許したような口調で話しかけたことを後悔する間もなく、会話が進んでいく。
そこで僕はふと思った。こいつ、リスニングやらなくていいのか。そのためにこんな山奥まで来たんだろうに。
「勉強、しなくていいの?」
「おっと、そうだった」
江波戸は首にかけていたヘッドホンを耳に付け直し、黙々と勉強を始めた。
やっと静かな食事空間に戻り、僕は安堵した。
江波戸が悪いやつではないのは分かるが、誰かとコミュニケーションを取りながら食事をするというのは、かなり負担を感じる。なぜならば僕にとって、食事はこのつまらない学園生活の中で唯一の楽しみであり、息抜きの場だからだ。そこに他人が入る余地などない。
僕は弁当を余すことなく堪能し、昨日の読みかけの本を開いた。5ページほど読んだところで、リスニングを終えた江波戸から話しかけられた。
「今、体育って何やってるの?」
この本を読み終わるのはいつになるのだろう……
まあ、電車や家で読めばいいのだが、僕は
デジタルに浸ることができる時はデジタルに浸っていたいのだ。僕にとっての本はスマホが使えない中での娯楽であり、昼休みにしか訪れない特殊な状況でのお供なのだ。
そんな僕の気持ちを知るはずもない江波戸を無視する勇気もなければ、そこまで人間として落ちぶれたくもないと思い、僕は答えた。
「ソフト」
「へえ、俺らはバスケなんだけど。ソフト羨ましい」
「バスケの方が楽だろ。グラウンドより体育館の方が近いし」
「ソフトなら第一グラウンドだろ? 4棟から近いじゃん」
4棟というのは、総合コースの2年生が使っている校舎の名前だ。
「いや、他のクラスの関係で、第四使ってる」
「それはきついな」
第四グラウンドはグラウンドの中でも一番上に位置し、勾配もかなり急だ。そして僕の体育担当の先生は、体育教師の中で一番の下っ端である。
私立なので教師の入れ替わりもそこまでなく、4年間ずっと他の体育教師には敵わず、権力があまりない。そのため他のクラスと授業が重なると、一番遠いグラウンドしか取れないと以前嘆いていた。
「園崎だっけ、北村のクラス」
「いや、猿田」
「猿田って陸上部の顧問だよな」
「え、知らん」
林田先生以外の教師に興味が全くなく、正直誰がどこの顧問なのかすら僕は理解できていない。
「知らんて……って、もうこんな時間か」
「そろそろ戻ろうぜ」
「おう」
一緒に山を下りることになり、絶妙に気まずい。
「北村、そっちから下りるのか?」
「4棟はこっちからの方が近いから。1棟はそっちの道の方が近いと思うけど」
「そういうことか」
「じゃ」
何となく気まずくて、僕は足早に山を下りる。
「おう、またな!」
後ろから江波戸が手を振っている気がするが、気にせず僕は山を下りた。
