新たな恋は意外な場所からやってくる

朝、目が覚めてここまで憂鬱なのは久しぶりであった。
毎日明るい気持ちでいられるわけではないが、ここまで気持ちが沈んでいるのは、林田先生が結婚を発表した時以来だろう。

カーテンを開けて、今が本当に朝なのか今一度確認をする。
カーテンを開けた途端、春にふさわしい気持ちの良い日差しが部屋に差し込み、今一度朝という現実を押し付けてきた。

何度カーテンを開けても朝だし、日付も4月17日。普通に日付が変わっていることに絶望して、もう一度ベッドに潜り込む。

「いお、起きて! 起きて!」

いつの間にか部屋に入ってきていた母親に起こされた。
思春期の息子の部屋に勝手に入ってくるなよと思いつつ時計に目をやると、針は家を出る5分前を指していた。

一気に飛び起き、母親が部屋にいるのも構わず制服に着替える。どれだけ憂鬱で学校へ行きたくなかったとしても、結局のところ学校を仮病で休む勇気はない。急いで準備をして家を飛び出した。

何とか電車に間に合った唯桜は、電車に揺られながらお昼のことを考えていた。

もういっそのこと、別の隠れ家を探すか……? ただ、こっちの校舎は詳しくないからな

ここ「霧山大学付属高校」には、特進校舎と一般校舎の2つの校舎が存在する。
唯桜は2年から一般校舎に移ったため、人が来ない穴場スポットを見つけ切れてはいない。
いっそのこと図書館にでも行こうかと思ったのだが、図書館は一般校舎にしかなく、進学校舎の人たちもかなりの頻度で使っているため昼休みは人が多い。これ以上、元クラスメイトと顔を合わせたくはなかった。

現在12時30分。
あと20分で4限が終了してしまう。
1、2、3限とお昼をどうするべきか考え続けたが、答えは出なかった。ここまで現代社会の授業が終わってほしくないと思ったのは、人生で初めてかもしれない。

色々な考えが駆け巡った結果、適当な部活にでも入っていれば部室に逃げられたのにと、意味不明な現実逃避にまで思考が飛躍した。これまで全くと言っていいほど入る気がなかった部活への加入を悩ませるなんて、江波戸はすごいやつだ。……って、感心している場合か。

結局答えが出ないまま、授業終了のチャイムが鳴り響いた。

ただ、この教室でお昼を食べる気持ちにもなれず、結局、僕はあの山へ向かうことにした。

坂道を登り切り、見えた先の建物の陰には、すでに江波戸がいた。
ただ、昨日話していたようにリスニングをやっているようで、僕の存在には気がついていない。

これなら、僕もゆっくりと食事ができる

江波戸に近づかないように建物の裏へ回り、いつも通りの食事を始めた。今日一日の心配は何だったのだろうと思うほど穏やかな昼休み。お弁当の最後の一口を頬張り、昨日の本の続きを読もうとしたその時――。

「こんなところにいたんだ。今日は来ないのかと思った」

背後から声がした。
振り向くと、そこにはリスニングを終えた江波戸が立っていた。

「じ、邪魔したら悪いかなって……」
本音を言えば「あまり関わりたくないからです」とは口が裂けても言えず、当たり障りのない回答をした。

「気をつかわせちゃったようで、すまん」
ナチュラルに隣へ座られ、喋るしかない空気を作られた。

本読めねーよ……

「北村って、いつからここ使ってるの?」
「2年に上がってからかな」
「最近じゃん」
「そうだよ」
「いやだって、ここに昔からいましたみたいな貫禄出てたから、びっくりして」

何だよ貫禄って。根暗だからこんな山奥が似合うってか

「そっか……」

そこから他愛もない会話を繰り広げられ、結局、持ってきた本はあまり読み進められなかった。
そしてふと腕時計に目を移すと、昼休みの終了10分前になっていた。しかも次の授業は体育。急いで戻らないと授業に間に合わない。

「ごめ、時間。僕、次体育だから」
唯桜は江波戸との話をぶった切って、急いで校舎に戻ろうとする。

「すまん! こんな時間だなんて気がつかなくて。また明日!」
急いで下山する唯桜の背中に、江波戸はそう声を投げかけた。

また明日って……また来るのかよ!