4限終了を告げるチャイムが、校内全体に鳴り響く。
「起立、礼」
授業が終了すると、教室の緊張が一気に解け、一足飛びに騒がしくなった。ある生徒は机を移動させ、ある生徒は学食に向かい、三者三様の行動をとる。
僕は学食に向かう生徒を装って教室を出ると、早々に玄関へ向かった。校舎裏のフェンスを越え、急な坂道を一歩一歩、しっかりと進んでいく。誰もいない山道を抜けると、ようやく目的のオアシスへたどり着いた。
まだ4月とはいえ、日差しが強い。建物の陰に入り、ゆっくりとお弁当を広げる。
きっとお母さんは、友達と一緒に食べていると思っているのだろう。彩り豊かなお弁当と、保冷バッグに入っているお菓子が、胸をチクリと刺してくる。
まあ、友達がいないのは1年の時からだし、今更気にしても無駄だ。
気を取り直して昼食をとることにした。学校にいる間、スマホは回収されて手元にない。そのため、いつも本を読みながら昼食をとっている。ここには自分以外誰もいないので、行儀が悪いことには目をつぶっている。
お弁当を食べながら本を読む――いつもと変わらない昼休憩。唯桜にとって、この時間は本当に救いだった。
お弁当を半分ほど食べ進めたところで、突然、山道から足音が聞こえてきた。
誰か来る――
焦った僕は、急いで物陰に隠れた。少しでも動けば、地面に落ちている枯れ葉たちが音を立ててしまう。必死に動かないよう、気配を消して息をひそめた。
しかし、足音はどんどん近づいてくる。身動きが取れないでいると、頭上から声が降ってきた。
「うわ、こんなところで何してるの?」
どこかで聞き覚えのある声に顔を見上げると、そこには 江波戸琳翔が立っていた。彼は唯桜の元クラスメイトで、現在は進学コース理系のトップ。学校で知らない人はいないほどの有名人だ。
なぜそんな有名人……もとい、元クラスメイトがこんなところにいるのか。訳が分からず、唯桜はただただ困惑した。
「……ただ、ご飯食べてただけです」
下を向きながら、答えた。元クラスメイトと言えど、話したことなど片手で数えられる程度。
全く接点のない元クラスメイトという気まずさの塊のような相手に会ってしまい、一刻も早くこの場から消え去りたいという感情が脳を支配した。
「なんで敬語? てか去年クラス一緒だった北村だよな」
「そう、です」
敬語を指摘されても、ほぼ初対面の江波戸に対して急に「タメ口で」と言われても無理な話だ。
「いやだから、なんで敬語なんだよ。同級生だろ」
「……そうだね」
二度目の指摘を受け、しぶしぶタメ口を使うことにしたが、語尾を崩した程度でまったく砕けた感じにはならない。それに、目を合わせられるわけもなく、緊張のあまり制服の胸ポケットについている校章をずっと見つめながら話している。
そんな唯桜の様子を気にも留めず、江波戸は話を進めていく。
「なんでここでお昼食べてるの?」
「それは……静かで、いい場所だからかな」
早くここから去るにはどうすればいい? このまま立ち去るのはさすがに不審者すぎるし、適当に話を切り上げてどこかへ行こう。……いや、どこへ行く? こんなに良いスポット、他にないのに。また僕は居場所を失うのか……
不安が駆け巡り、思考から江波戸の存在が消えかかっていた、その時――。
「確かに。俺も静かな場所探しててさ。英検が近いから昼休みにもリスニングやりたいんだけど、教室は人が多くてあんま集中できなくて」
江波戸の相槌で現実に引き戻された僕は、適当に返事をした。
「なるほど……」
そんな朴の困惑に気づいているのかいないのか、江波戸は爽やかな笑顔で言った。
「俺もここ、使っていい?」
いいわけないだろと心の中で毒づくものの、そもそもここは唯桜の所有地ではないので拒否する権利もない。何より、目の前の男に反抗できるほど強気になれるわけもなく、気づいた時には口が動いていた。
「ど、どうぞ……」
「ありがと、助かる」
「起立、礼」
授業が終了すると、教室の緊張が一気に解け、一足飛びに騒がしくなった。ある生徒は机を移動させ、ある生徒は学食に向かい、三者三様の行動をとる。
僕は学食に向かう生徒を装って教室を出ると、早々に玄関へ向かった。校舎裏のフェンスを越え、急な坂道を一歩一歩、しっかりと進んでいく。誰もいない山道を抜けると、ようやく目的のオアシスへたどり着いた。
まだ4月とはいえ、日差しが強い。建物の陰に入り、ゆっくりとお弁当を広げる。
きっとお母さんは、友達と一緒に食べていると思っているのだろう。彩り豊かなお弁当と、保冷バッグに入っているお菓子が、胸をチクリと刺してくる。
まあ、友達がいないのは1年の時からだし、今更気にしても無駄だ。
気を取り直して昼食をとることにした。学校にいる間、スマホは回収されて手元にない。そのため、いつも本を読みながら昼食をとっている。ここには自分以外誰もいないので、行儀が悪いことには目をつぶっている。
お弁当を食べながら本を読む――いつもと変わらない昼休憩。唯桜にとって、この時間は本当に救いだった。
お弁当を半分ほど食べ進めたところで、突然、山道から足音が聞こえてきた。
誰か来る――
焦った僕は、急いで物陰に隠れた。少しでも動けば、地面に落ちている枯れ葉たちが音を立ててしまう。必死に動かないよう、気配を消して息をひそめた。
しかし、足音はどんどん近づいてくる。身動きが取れないでいると、頭上から声が降ってきた。
「うわ、こんなところで何してるの?」
どこかで聞き覚えのある声に顔を見上げると、そこには 江波戸琳翔が立っていた。彼は唯桜の元クラスメイトで、現在は進学コース理系のトップ。学校で知らない人はいないほどの有名人だ。
なぜそんな有名人……もとい、元クラスメイトがこんなところにいるのか。訳が分からず、唯桜はただただ困惑した。
「……ただ、ご飯食べてただけです」
下を向きながら、答えた。元クラスメイトと言えど、話したことなど片手で数えられる程度。
全く接点のない元クラスメイトという気まずさの塊のような相手に会ってしまい、一刻も早くこの場から消え去りたいという感情が脳を支配した。
「なんで敬語? てか去年クラス一緒だった北村だよな」
「そう、です」
敬語を指摘されても、ほぼ初対面の江波戸に対して急に「タメ口で」と言われても無理な話だ。
「いやだから、なんで敬語なんだよ。同級生だろ」
「……そうだね」
二度目の指摘を受け、しぶしぶタメ口を使うことにしたが、語尾を崩した程度でまったく砕けた感じにはならない。それに、目を合わせられるわけもなく、緊張のあまり制服の胸ポケットについている校章をずっと見つめながら話している。
そんな唯桜の様子を気にも留めず、江波戸は話を進めていく。
「なんでここでお昼食べてるの?」
「それは……静かで、いい場所だからかな」
早くここから去るにはどうすればいい? このまま立ち去るのはさすがに不審者すぎるし、適当に話を切り上げてどこかへ行こう。……いや、どこへ行く? こんなに良いスポット、他にないのに。また僕は居場所を失うのか……
不安が駆け巡り、思考から江波戸の存在が消えかかっていた、その時――。
「確かに。俺も静かな場所探しててさ。英検が近いから昼休みにもリスニングやりたいんだけど、教室は人が多くてあんま集中できなくて」
江波戸の相槌で現実に引き戻された僕は、適当に返事をした。
「なるほど……」
そんな朴の困惑に気づいているのかいないのか、江波戸は爽やかな笑顔で言った。
「俺もここ、使っていい?」
いいわけないだろと心の中で毒づくものの、そもそもここは唯桜の所有地ではないので拒否する権利もない。何より、目の前の男に反抗できるほど強気になれるわけもなく、気づいた時には口が動いていた。
「ど、どうぞ……」
「ありがと、助かる」
