何も楽しむことができないまま、バレー大会の全日程が終了した。
見事、同じクラスのB班が優勝した。それ以外の班も初戦敗退などしておらず、皆準決勝や準々決勝まで勝ち残っていた。初戦敗退したのは僕たちのチームだけだ。高橋はみんなからの人望が厚く、田中君も同じように好感度が高い。一方で女子ふたりの仲が悪いのは周囲にもなんとなく伝わっており、僕がぼっちなのも明白だった。つまり今回のバレー大会で一番足を引っ張ったのは、班の女子と僕という結論になる。あの時からずっと、クラスからの痛い視線を感じ続けていた。
そして夕飯の準備が始まった。今夜は飯盒でご飯を炊き、カレーを作るらしい。火起こしが必要な飯盒炊爨は男子、カレー作りは女子と学校側で役割が決められていた。
「私、ご飯炊くほうに行くよ。ほら、マネージャーやってるから水加減とか分かるし」
女子のひとりである中村さんが飯盒班に加わると言い出した。
「じゃあ俺らはカレー行こうか」
そう言って、田中と高橋が気を遣ってカレー作りのほうへ回ってくれた。
気まずい空気の中、無言でご飯を炊く作業を始めた。
中村さんはマネージャー経験があってご飯を炊くのが得意だと言っていたが、おそらく嘘だ。正直、米の研ぎ方からして怪しかった。ただ、僕も人生で数回しか米を炊いたことがないため、他人に指図できる立場ではない。
僕はとりあえず火起こしに専念し、うちわで火種を扇ぎ続けた。そうしているうちに、なんとか分量を量り終えた飯盒を中村さんが持ってきた。
「はい、これでよろしく」
そう言い残すと、中村さんはどこかへ消えてしまった。
やはり宮野さんと一緒にいたくなかっただけで、こちらを手伝うつもりは毛頭なかったらしい。僕は不安を覚えながらも、マニュアルの手順に従ってご飯を炊いていった。
しかし、しばらく経ってもマニュアルにあるような水蒸気が出てこない。同じくらいのタイミングで火にかけた隣の班からは、すでにモクモクと蒸気が上がり、炊きたての香ばしい匂いが漂っている。それに対し、僕たちの飯盒からはどこか焦げ臭い匂いしかしなかった。
不審に思った僕は、恐る恐る飯盒のフタを開けてみた。
現れたのは、真っ黒に焦げついた生米だった。み、水が入ってない!
信じられず、自分の目を疑った。完全に駄目になってしまったお米を見て、頭が真っ白になった。火元から離れるわけにもいかず慌てふためいていると、ちょうど高橋が様子を見に戻ってきた。
「どうした?…って、これ何があったの」
「僕、中身を確認せずに飯盒を火にかけちゃって……お米を真っ黒にしちゃった。ど、どうしよう」
「慌てすぎだって。俺、先生にお米もらってくるわ。火は消さないでそのままにしといて」
そう言われ、僕は火が消えてしまわないよう必死で見守った。すぐに高橋は新しい飯盒と先生を連れて戻ってきた。
「おい北村ー、飯の炊き方も知らないのか。そんなんじゃ今の時代やっていけないぞ。先生が予備を用意しててよかったな!」
僕は先生に平謝りした。軽くからかわれはしたものの、無事にお米を分けてもらうことができた。先生はすぐに他の班の様子を見に去っていった。
「そういえば、中村さんは?」
「分からない。飯盒を持ってきてくれたあと、どこかに行っちゃって」
「は? 信じらんねー。水も入れずに放置していったのかよ」
「いや、中身を確認せずに火にかけた僕のミスだよ。それより、カレーのほうは大丈夫なの?」
「もう終わったから、こっち手伝うわ」
「ありがとう」
こうして、他の班から10分ほど遅れてようやく炊飯をやり直すことができた。火加減を見張りながら炊き続けること20分。周囲の班はすでに食事を始めていたが、なんとか僕たちも準備を整えることができた。
そこへ、どこからか戻ってきた中村さんが不満げな声を上げた。
「他の班はもう食べてるんだけど。うちらの班、遅くない?」
「ごめん、ご飯炊くの失敗しちゃってさ」
「あっそ。どうでもいいけど、早くしてくんない?」
普通に遅れてるのはお前のせいやろ。
心の中ではそう悪態をつきつつも、面と向かって言い返せるほどの度胸はない。これ以上、班の空気を悪くしたくもなかった。全員が喉まで出かかった言葉を飲み込みながら、重苦しい空気の中で食事が始まった。
見事、同じクラスのB班が優勝した。それ以外の班も初戦敗退などしておらず、皆準決勝や準々決勝まで勝ち残っていた。初戦敗退したのは僕たちのチームだけだ。高橋はみんなからの人望が厚く、田中君も同じように好感度が高い。一方で女子ふたりの仲が悪いのは周囲にもなんとなく伝わっており、僕がぼっちなのも明白だった。つまり今回のバレー大会で一番足を引っ張ったのは、班の女子と僕という結論になる。あの時からずっと、クラスからの痛い視線を感じ続けていた。
そして夕飯の準備が始まった。今夜は飯盒でご飯を炊き、カレーを作るらしい。火起こしが必要な飯盒炊爨は男子、カレー作りは女子と学校側で役割が決められていた。
「私、ご飯炊くほうに行くよ。ほら、マネージャーやってるから水加減とか分かるし」
女子のひとりである中村さんが飯盒班に加わると言い出した。
「じゃあ俺らはカレー行こうか」
そう言って、田中と高橋が気を遣ってカレー作りのほうへ回ってくれた。
気まずい空気の中、無言でご飯を炊く作業を始めた。
中村さんはマネージャー経験があってご飯を炊くのが得意だと言っていたが、おそらく嘘だ。正直、米の研ぎ方からして怪しかった。ただ、僕も人生で数回しか米を炊いたことがないため、他人に指図できる立場ではない。
僕はとりあえず火起こしに専念し、うちわで火種を扇ぎ続けた。そうしているうちに、なんとか分量を量り終えた飯盒を中村さんが持ってきた。
「はい、これでよろしく」
そう言い残すと、中村さんはどこかへ消えてしまった。
やはり宮野さんと一緒にいたくなかっただけで、こちらを手伝うつもりは毛頭なかったらしい。僕は不安を覚えながらも、マニュアルの手順に従ってご飯を炊いていった。
しかし、しばらく経ってもマニュアルにあるような水蒸気が出てこない。同じくらいのタイミングで火にかけた隣の班からは、すでにモクモクと蒸気が上がり、炊きたての香ばしい匂いが漂っている。それに対し、僕たちの飯盒からはどこか焦げ臭い匂いしかしなかった。
不審に思った僕は、恐る恐る飯盒のフタを開けてみた。
現れたのは、真っ黒に焦げついた生米だった。み、水が入ってない!
信じられず、自分の目を疑った。完全に駄目になってしまったお米を見て、頭が真っ白になった。火元から離れるわけにもいかず慌てふためいていると、ちょうど高橋が様子を見に戻ってきた。
「どうした?…って、これ何があったの」
「僕、中身を確認せずに飯盒を火にかけちゃって……お米を真っ黒にしちゃった。ど、どうしよう」
「慌てすぎだって。俺、先生にお米もらってくるわ。火は消さないでそのままにしといて」
そう言われ、僕は火が消えてしまわないよう必死で見守った。すぐに高橋は新しい飯盒と先生を連れて戻ってきた。
「おい北村ー、飯の炊き方も知らないのか。そんなんじゃ今の時代やっていけないぞ。先生が予備を用意しててよかったな!」
僕は先生に平謝りした。軽くからかわれはしたものの、無事にお米を分けてもらうことができた。先生はすぐに他の班の様子を見に去っていった。
「そういえば、中村さんは?」
「分からない。飯盒を持ってきてくれたあと、どこかに行っちゃって」
「は? 信じらんねー。水も入れずに放置していったのかよ」
「いや、中身を確認せずに火にかけた僕のミスだよ。それより、カレーのほうは大丈夫なの?」
「もう終わったから、こっち手伝うわ」
「ありがとう」
こうして、他の班から10分ほど遅れてようやく炊飯をやり直すことができた。火加減を見張りながら炊き続けること20分。周囲の班はすでに食事を始めていたが、なんとか僕たちも準備を整えることができた。
そこへ、どこからか戻ってきた中村さんが不満げな声を上げた。
「他の班はもう食べてるんだけど。うちらの班、遅くない?」
「ごめん、ご飯炊くの失敗しちゃってさ」
「あっそ。どうでもいいけど、早くしてくんない?」
普通に遅れてるのはお前のせいやろ。
心の中ではそう悪態をつきつつも、面と向かって言い返せるほどの度胸はない。これ以上、班の空気を悪くしたくもなかった。全員が喉まで出かかった言葉を飲み込みながら、重苦しい空気の中で食事が始まった。
