新たな恋は意外な場所からやってくる

結局僕は足を折ることも風邪を引くことも叶わず、当日を迎えてしまった。
 僕は人生で初めて起きてから5回熱を測った。しかし全て36.3度を示していた。人間の平熱が、34度に今日からならないかなという考えが頭を占める。
 そんな天変地異が起こるはずもなく、僕は憂鬱な気持ちのまま学校に向かった。

 集合場所に到着すると、すでに多くの生徒が集まっていた。何とか人の波を掻き分け、僕は自分のクラスを見つけ、班の元へ向かった。これから2泊3日このメンバーで過ごすと思うと、僕の下降気味な気持ちがよりどん底に落ちていく。
 そしてここ2週間ずっと観察してきたが、結局女子たちの仲は悪いままだ。むしろ日に日に悪化していた。
 この3日間をどう乗り越えるべきか、考えはまとまらない。
 考えても仕方ない。そんな思考に至った僕はおとなしくしおりに目を落とした。ここからセミナーハウスまでは、バスでおよそ3時間半。かなり時間がかかるようだ。
 バスの隣の席の人はクラスメイトだが、そこまで積極的に話す必要もないだろう。僕はバス酔いする覚悟で文庫本を3冊持参した。これで結界を張れば、きっと話しかけてはこないはずだ。
「みんな揃ったな、これから……」
 担任が話し始めた。地獄の始まりを宣言され、担任の話など聞く気にもならない。僕はなんとなく進学コースのほうに目をやった。林田先生が江波戸に話しかけていた。
 それを見て気分が暗くなった僕は目をそらし、結局自分の担任の方を向いた。
「以上で注意事項は終わりだ。これからくる5号車でセミナーハウスに向かうぞ」
 バスが何台もやってきて、僕らの前に止まる。1号車から順番に進学コースの生徒が乗っていく。
 やっと5号車がやってきて荷物を預け、バスに乗り込む。
 僕は出発する前から文庫本を開き、話しかけるなオーラを全開にする。案の定、隣のやつは僕のATフィールドに恐れ慄いたのか話しかけてこない。完璧完璧。
「今からスマホの回収するぞー」
 担任の間延びした声に、全員からブーイングが巻き起こった。
「これは課外活動で、立派な学校行事だ。だから林間学校中も校則は守ってもらう。3日目に、学校へ到着した後、スマホは返却される。わかったな」
 案の定スマホを回収されてしまい、娯楽を失ったクラスメイトたちは、その鬱憤でも晴らすかのように皆バスで騒ぐ。だがその中でも僕は静かに本を読み続けた。
 バスが出発して1時間ほどで全体が静かになり、僕は本の内容に集中する。今まで江波戸のせいで読めていなかった本を1冊読み切ることができ、少し達成感を覚えたところで、バスはセミナーハウスへ到着した。
 
 荷物を置くため、割り当てられた部屋へ向かう。道中、クラスメイトたちは檻から解放された猿のように騒いでいた。どうやら林間学校が楽しみで仕方ないようだ。どの女子に告白するかで盛り上がっている男子を横目に、僕は急な坂道で息を上げていた。なんとか息を整え、建物に到着する。
「これが館内地図だ。迷子になるなよ」
 玄関で地図をもらい、やっとこさ部屋に到着した。班の男子2人との3人部屋だった。
「女子たちどうする?」
「まぁ俺らがどうにかできるもんでもないだろ」
「そりゃそうだけど、このままだと全部の行事めちゃくちゃになるぞ」
 2人で会話を進めているのを、僕は微妙な顔をしながらうなずいて聞くだけだ。正直行事がどうなろうと知ったことではないし、心底どうでもいい。早く終われと心の中で唱えるのみだ。
 
「まぁあの2人、口聞かないだけだし、派手に喧嘩って事にはならないと思うけど」
「そうだよな」
「って、もう時間じゃん。早く総合ホールに行かないと。おい、北村もぼーっとしてないで行くぞ」
「ご、ごめん」
 本当にこの先が思いやられる。