新たな恋は意外な場所からやってくる

5限中、どうにか林間学校に行かなくてよくならないかなということ以外、何も考えられなくなっていた。
 風邪をひくにはどうすればいいんだろうか。例えば雨の中わざと傘を差さずに帰るとか。これはないか。5月に都合よく雨が降るなんてこともないだろうし。
 じゃあ階段から落ちて足でも骨折すれば、山へ行く林間学校に無理に参加させられることはないのでは。万が一参加させられても一番の懸念点であるバレーボールはやらなくて済むわけだし。
この作戦に問題があるとすれば、僕に絶望的なまでに勇気がないということくらいだろう。
まともな対策が浮かぶこともなく、時間だけが過ぎ去っていく。

一瞬で終了した5限の後は、林間学校の説明会だ。2年生全員が説明を受けるこの会は全校集会と同じ語りで行われる。
この学校の集会は、基本的に放送室からのテレビ中継だ。そのためこの会も教室移動をする必要がないのは助かる。

 ただ、担任の「班ごとに固まって話を聞けよ」という言葉によって、ぼーっとしていればいいやと思っていた僕の浅はかな考えは打ち砕かれた。
しぶしぶ机ごと移動し、班のもとへ向かう。
「よろしく」
一言呟いて、すでにできあがっていた机の塊のお誕生日席へ、不本意ながら机をくっつけようとした。そこで僕は、あることに気づいた。どうやら班の女子二人はあまり折り合いが良くないらしいということに。なぜか対角線上に席を取っていた。友達がいたことのない僕にさえ伝わってくるほど、仲が良くない。どうしてこうなった。前の班発表のときには、そんな素振りはなかったのに。林間学校への憂鬱な気持ちがさらに膨らんでいく。
女子の険悪な空気を感じ取った他の男子メンバーたちの間にも、気まずい雰囲気が流れた。この場をどうやり過ごすべきか、きっと全員が考えているのだろう。誰かが口を開くより先に、テレビから音声が流れ始めた。

雑談をしていた他の班も静かになり、クラス全体が話を聞く空気になった。集会が始まったことに救われ、僕も教室のテレビに目を向ける。

ただ、視界にはどうしても険悪な雰囲気の女子二人が入ってくる。何をどうしたらこの短期間でそこまで険悪になれるのか、いっそ聞いてみたい。林間学校までに修復できそうにも思えないので、「班長の高橋がどうにかしてくれ」と心の中で丸投げした。

セミナーハウスの使い方や禁止事項の説明で一時間まるまる使われた。どう考えても班の形になって聞く必要のない話で、授業時間は終わった。

元の席に戻り、帰りの準備を始める。
なんとかうまく足だけ折れるように、階段から落ちる方法を本格的に考えなければと思い始めた。階段は厳しいか。山から滑り落ちるくらいがちょうどいいのでは、などという思考が頭をよぎる。

いつもならまっすぐ家に帰るのに、帰りの会が終わってすぐ、僕はオアシスに向かった。
ただ、山道を登れば登るほど、足だけを都合よく折る難しさを痛感した。
 まあ僕も本気で自分の足を折ろうとしていたわけではなく、少し現実逃避をしたかったというのが本音だ。

イヤホンを大音量で鳴らしながら、廃墟の前にある芝生に寝っ転がった。
目を閉じて、生温かい風に吹かれる。このまま雲になって空を漂えたらいいのに。雲なら何の悩みもなさそうだ。というか、あのとき林田先生に会っていなければ、こんなにしんどい思いをしなくても済んだのだろうか。
考えてもどうしようもないことを堂々巡りさせていると、不意に体を揺さぶられた。

驚いて目を開くと、そこには江波戸がいた。急いでイヤホンを外す。
「…い…おい、何やってるんだよ、こんなところで」
「江波戸こそ、なんで」
「今日補習休みだから帰ろうとしたら、逆方向に向かう北村が見えたから。どうしたんだろって思って」
ますますわけが分からない。ついてくる理由は理解できないが、友達とはそういうものなのかもしれないと納得することにした。

「で、北村は何やってたの」
「現実逃避」
「だとしても、こんなところで寝転がるのは汚いだろ。動物も多いし、変な菌でも移ったらどうするんだよ」
変な菌にかかれば林間学校に行かなくて済むかもしれない、という思考が一瞬よぎる。もっとも、今かかったところで本番まではまだ2週間あるから、早すぎるのだけれど。
「それもいいかもな」
「いいわけないだろ」
江波戸は僕の両腕を掴み、無理やり引っ張り起こした。
「今日天気不安定だし、早く帰ろうぜ」
「おん」