「ってえええ!? 伊澄先生と付き合ってたぁぁぁ!?」
昼休みの澄み切った青空に、萌華の驚天動地の絶叫が響き渡った。
「ちょっと、萌華! 昔の話だから! 声が大きいよっ!!」
美優は慌てて自分の口の前に人差し指を立て、真っ赤な顔で周囲を見回した。幸いなことに、昼休みの屋上には他の生徒の姿はなく、心地いい風だけが通り抜けていく。
あの体育祭から数日。美優は親友である萌華に、ずっと隠し続けていた伊澄先生との過去、そして優希と同じ中学だったという全ての真実を、ようやく打ち明けたのだった。
屋上のフェンスに三人で並んでもたれかかりながら、萌華は信じられないものを見るように目を丸くしている。
「いやいや、ちょっと待って、びっくりなんだけど! っていうか相良くん、そんな過去の男が突然赴任してきて、気が気じゃなかったんじゃないの!?」
萌華が優希を覗き込むようにして尋ねる。あの体育祭のリレーで優希と先生が張り合っていたのを見せていた理由が、これでようやく繋がったらしい。
しかし、当の優希は焦る素振りなど微塵も見せず、ニカッと眩しい笑顔を浮かべた。
「いや? 全然」
優希はフェンスから背を離すと、美優の後ろから包み込むようにして、その細い肩をぎゅっと抱きしめた。
「俺は美優が好きで、美優も俺が好き。お互いにそれだけ分かってれば、何も問題ないでしょ?」
耳元で自信たっぷりに、そして大人のような余裕を漂わせて囁く優希。彼の高めの体温と、カッターシャツから香る爽やかな匂いに包まれ、美優の顔はさらに一気に沸騰していく。
「ちょっと……優希くん、萌華の前だよ……っ」
恥ずかしさのあまり、美優は彼の腕の中で小さく身をよじって照れた。
そんな二人の無自覚な熱愛っぷりを見せつけられた萌華は、わざとらしく、はぁー、と深いおため息をついて肩をすくめた。
「はいはい〜。ごちそうさまでしたー! アオハル全開のお二人さんの邪魔ものは、これにて退散します〜」
萌華はニヤニヤとした笑みを浮かべながらひらひらと手を振ると、美優を引き留める隙も与えずに、早足で屋上のドアの向こうへと消えていった。
「あ、ちょっと萌華……っ」
パタンとドアが閉まり、屋上には再び、どこまでも広大な青い空と、二人だけの静寂が戻ってきた。
美優は優希の腕に体を預けたまま、小さく苦笑いを浮かべる。
「……もう。萌華、完全に拗ねちゃったじゃん」
「そーだな」
優希は美優の髪に自分の頬を優しく寄せながら、クスクスと愉しげに笑った。
「じゃあ、帰りはどっかクレープ屋にでも寄って、機嫌とろっか。美優も、甘い物食べたいだろ?」
「うん、そうだね。いこう」
優希の瞳には、かつて中学時代の傷ついた美優なんて、もうどこにもなかった。そこにあるのは、美優のすべてを受け入れ、世界で一番愛してくれている、温かくて眩しい光だけだ。
「大好きだよ、優希くん」
「俺も。世界で一番、美優が大好きだよ」
不完全な二人の、新しく始まった完璧な恋の物語。青空の下、重なり合う二人の笑顔は、これからの未来を祝福するように、どこまでも鮮やかに輝き続けていた。
Fin.



