夕暮れの図書室に、二人の静かな衣擦れの音が響く。
お互いの温もりを確かめ合うような長い抱擁を終え、美優と優希はゆっくりと立ち上がった。優希は膝に落ちていた分厚い本を拾い上げて棚に戻すと、いつもの爽やかで優しい笑顔を美優に向けた。
「……じゃあ、帰ろっか」
彼が差し出してくれた手を、美優は握る代わりに、その制服の腕をクイッと小さく掴んで引き留めた。
「あのね、優希くん……」
優希は少し驚いたように足を止め、不思議そうに振り返る。その優しい瞳に見つめられ、美優は一気に顔が真っ赤になっていくのを感じた。心臓がバクバクと暴れ出し、言葉が喉の奥で震える。
けれど、もう逃げないと決めたから。
美優は潤んだ瞳で優希をまっすぐに見つめ、小さな、だけど確かな声を絞り出した。
「キス……してくれないかな」
「美優……っ」
優希の瞳がドキリと大きく揺れた。いつも意地悪に美優を翻弄するはずの彼が、一瞬で完全に余裕をなくし、耳の先まで赤く染まっていく。
けれど、優希はすぐに愛おしさを噛み締めるように目を細めると、そっと大きな掌を伸ばした。壊れ物を扱うような、驚くほど優しい手つきで、美優の熱い頬を包み込む。
その温もりに導かれるように、美優もまた、自分の小さな手を優希の手の上にそっと重ねた。至近距離で見つめ合う世界の中で、美優は彼の瞳の奥にある自分への真っ直ぐな愛を、その肌で、心で、確かに感じていた。
「好き……大好きだよ、優希くん」
もう一度、心からの愛を言葉にして紡ぐ。
その声が静寂に溶けると同時に、優希はゆっくりと、だけど吸い寄せられるように顔を近づけ、美優の唇に自分の唇をそっと重ねた。
水族館での未遂も、昨日の教室でのキスマークも、すべてはこの瞬間のためにあったのだと思えるほど、それは優しく、深く、お互いのすべてを満たしていくようなキスだった。
窓の外では、沈みゆく太陽が最後の輝きを放ち、オレンジ色と紫色の夕暮れの光が、図書室の窓からキラキラと二人の足元へ差し込んでいた。埃っぽい空気さえも、まるで宝石の粉のように美しく光の帯の中で舞っている。



