優希は美優を腕の中に強く閉じ込めたまま、その肩に顔を埋めるようにして、小さく、掠れた声を漏らした。
「……もしかしたら、もう俺のところには、帰ってこないんじゃないかって思った」
いつも自信満々で、クラスの人気者であるはずの彼が、まるで迷子の子どものように怯えている。掴んだ制服の生地から伝わる彼の切ない震えに、美優は胸の奥がキュッと締め付けられた。
美優は、優希の広い背中にゆっくりと、だけど愛おしさを込めて両手を回した。
「不安にさせて、ごめんね」
その体温を感じながら静かに謝ると、美優はゆっくりと彼の身体を離した。そして、真っ直ぐに優希のターコイズブルーの瞳を見つめ、隠すことなく言葉を紡ぐ。
「ちゃんと、伊澄先生と話してきたよ。……私の、本当の思いを全部伝えてきた」
「うん……」
優希は美優を見つめたまま、ただ静かに相槌を打った。その瞳は、美優の次の言葉を、彼女の『答え』を待っている。美優はふんわりと微笑んで、優しく語りかけた。
「私ね、優希くんと出会って……やっと、自分の本当の気持ちと向き合うことができたの」
「美優……」
優希の大きな手がそっと伸び、美優の頬を伝うようにして、少し乱れた髪の毛をゆっくりと耳の後ろへとかけた。彼の指先の温もりが、肌を通して心地よく広がっていく。
「先生のことは確かに、あの頃、大好きだったよ。それは今でも変わらない事実だし、消えない過去。……でもね、それ以上に、私はやっぱり優希くんのことが大好きなの」
美優は優希の掌の上に、自分の手をそっと重ねた。
「これからも、ずっと一緒にいたいと思う。……優希くんは、私に完璧を求めなくて、今のままの私を好きでいてくれる。私たちは不完全なままでいいんだよって、あの時言ってくれたから……私は、本当に救われたの」
あの日、彼が自分のすべてを肯定してくれたから、過去の暗闇から抜け出すことができた。
「だから……ありがとう、優希くん。これが、私の答えだよ」
美優が心からの、世界で一番晴れやかな笑顔を咲かせると、優希はしばらく呆然としたように目を見開いていた。
完璧に見えて、誰よりも美優のことで余裕をなくしていた彼の瞳に、じわじわと、言葉にできないほどの歓喜と愛おしさが灯っていく。
優希の綺麗な唇が、嬉しそうに、そして誇らしそうに弧を描いた。
「っ……もう、本当に敵わないなー……」
優希は押し潰されたような声を出すと、今度は引き寄せられるように、もう一度美優の身体を力いっぱい抱きしめた。
窓の外では、夕日が地平線の向こうへと沈み、図書室の青い影を濃くしていく。けれど、お互いの背中に腕を回し、しっかりと抱き合いながら鼓動を重ねる二人の世界は、これまでにないほど温かく、そして色鮮やかな光に満ち溢れていた。



