不完全な僕達は。【完結】



制服へと着替えた美優は、胸の高鳴りを抑えながら夕暮れの廊下を進み、図書室の前へとたどり着いた。

「失礼します……」

小さく呟きながら、ゆっくりと図書室のドアを開ける。ガラガラと静かに開いた部屋の中は、体育祭の喧騒が嘘のようにしんと静まり返っていた。オレンジ色の柔らかな夕光が、本棚の隙間から幾筋もの光の帯となって差し込んでいる。

「優希くん……?」

声を潜めて、静かに奥へと歩いていく。本特有の埃っぽい匂いに包まれながら進むと、窓際に近い奥の本棚の足元に、探していた人影を見つけた。

優希は床に直接座り込み、膝の上に分厚い本を開いたまま、壁に頭を預けて気持ちよさそうに眠っていた。リレーであれだけ全力疾走したのだ、きっと酷く疲れていたのだろう。

美優は愛おしさが胸に満ちていくのを感じ、優しい笑みを浮かべた。

「ええ……こんな所で寝てるの?」

クスッと小さく喉を鳴らして笑い、美優は優希の隣にゆっくりと腰掛けた。少しだけ乱れた彼のサラサラな髪に、そっと指先で触れてみる。夕日の光を浴びて青みがかった髪が、美優の指の間を滑らかに通り抜けていった。

触れられた優希は起きる気配もなく、静かな寝息を立てている。そっと顔を近づけて覗き込むと、閉じられた瞼から伸びる長いまつ毛が、差し込む光に反射してきらきらと輝いていた。

「まつ毛、長いなー……」

美優は感心したようにぽつりと呟いた。いつも完璧で、時々意地悪で、だけど誰よりも自分を真っ直ぐに愛してくれる、大好きな人。

その時、美優の微かな声に反応したのか、優希の長いまつ毛がピクリと動いた。

「ん……? ――美優……?」

優希はゆっくりと目を開けると、眩しそうに何度か瞬きをし、眠気に耐えるようにふにゃりと目をこすった。いつもは見せない無防備な姿が、たまらなく愛らしい。

美優は彼の優しい瞳をまっすぐに見つめ、これ以上ないほどにっこりと、心からの笑顔を咲かせた。

「うん、ただいま。待たせてごめんね」

過去を断ち切っめ、本当の意味で彼の元へと帰ってきたという確信を込めて。

美優のその言葉と晴れやかな笑顔を見た瞬間、優希は一気に眠気が吹き飛んだように小さく目を見開いた。そして次の瞬間には、膝の上の本が床に落ちるのも構わず、美優の華奢な身体をゆっくりと、だけど二度と離さないとばかりに強く抱きしめた。

「っ……わ、優希くん……っ」

突然の強いホールドに美優は驚いて声をあげる。けれど、回された彼の腕がかすかに震えているのを感じて、美優は優しく目を細め、彼の広い背中にそっと手を回した。夕闇が迫る静かな図書室で、二人の心臓の音が、静かに重なり合っていた。