体育祭の熱気と歓声が遠く響く中、美優は静まり返った校舎の廊下を全力で走っていた。
目指す場所は、伊澄先生が向かったであろう保健室。
「はぁ、はぁ、……っ」
激しく上下する肩を押さえ、息を切らしながら保健室の白い扉の前へとたどり着いた。ノブに手をかける前に、まずは一度、深く大きく息を吸い込んで、バクバクと暴れる心臓を落ち着かせる。
(優希くんを、これ以上不安にさせないためにも……ちゃんと、終わらせてくる)
昨日の放課後、彼が首筋に残してくれた「証」をマフラータオルの上からそっと右手で確かめる。肌に残る確かな熱が、美優に一歩を踏み出す勇気をくれた。
美優は意を決して、ドアに手をかけた。
ガラガラ、という乾いた音と共に、ゆっくりと引き戸が開いていく。
「……っ、美優?」
室内を覗くと、ベッドの脇にある丸椅子に腰掛け、痛めた片足に氷嚢を当てて冷やしていた伊澄先生が、驚きのあまり大きく目を見開いた。まさか、自分をあれほど拒絶していた美優が、リレーの後に自分を追いかけてここまで来るとは夢にも思っていなかったのだろう。先生の瞳に、かすかな期待の光が灯る。
美優はそんな先生の視線をまっすぐに受け止め、静かに一歩、保健室の中へと足を踏み入れた。
「伊澄先生……足、大丈夫ですか?」
その声は、かつてのように怯えて震えてはいなかった。一人の女性として、そして過去の因縁にきっぱりと決着をつける思いと、凛とした強さが宿っていた。



