プログラムは順調に進み、いよいよ体育祭のクライマックスである「クラス対抗選抜リレー」の時間がやってきた。運動場全体のボルテージが最高潮に達する中、美優と萌華は応援席の最前列で身を乗り出していた。
「キャー! 優希くーーん! 頑張ってーー!」
「相良くん、アンカーじゃん! マジでかっこいいね美優!」
トラックの最終走者エリアで、クラスの命運を握るアンカーのタスキを肩に斜め掛けしている優希の姿を見つけ、萌華は大はしゃぎでメガホンを叩く。美優も、大歓声の中でひときわ輝いて見える恋人の姿に、胸を高鳴らせていた。
が、しかし――。
美優の視線が、優希の隣のレーンに立つ、別のクラスのアンカー役に吸い寄せられた瞬間、その体温がサッと引いていくのが分かった。
(え……。伊澄先生……?)
美優はドキリとして、驚きに目を見開いた。
そこに立っていたのは、ジャージに着替え、アンカーのタスキを巻いた理科担当の伊澄先生だった。どうやら、そのクラスの男子生徒が急な体調不良か怪我で走れなくなり、急遽、若い伊澄先生が代役としてアンカーを務めることになったらしい。
「ええっ!? 嘘、伊澄先生が出てるじゃん!」
隣で気づいた萌華が、さらにテンションを上げて声を弾ませる。
「教員チームじゃなくて生徒の代わりに出るなんて、ガチじゃん! 相良くんとの一騎打ち? これは面白くなりそーー!」
「あ、はは……そうだね……」
萌華は純粋に大興奮して笑っているけれど、美優の胸の奥は、言いようのない不安でザワザワと波立ち始めていた。
偶然とはいえ、今の自分のすべてを愛してくれている優希と、終わったはずの過去を今さら揺さぶりにかかってきた伊澄先生が、アンカーという同じ舞台で直接対決することになってしまった。
トラックの向こう、優希は隣に立った伊澄先生の存在に気づくと、いつもの爽やかな笑みをすっと消し、ターコイズブルーの瞳に鋭い火花を散らせて先生を睨みつけた。対する伊澄先生も、大人の余裕を崩さないまま、どこか挑発的な視線で優希を見返している。
ピリピリとした一触即発の空気が、美優のいる応援席にまで伝わってくるようだった。
「位置について――」
スターターの乾いた声が運動場に響き渡る。美優はぎゅっと首元のマフラータオルを握りしめながら、どうか何事もなく優希が勝ってくれますようにと、祈るような気持ちで二人を見つめていた。



