「そんなの関係ないよ」
周囲を気にして身をよじる美優を逃がさないように、優希はさらに強く腰を引き寄せた。耳元に吹きかけられる彼の熱い息に、美優の身体がぞくっと震える。
「俺、怒ってるんだからね」
優希はいつもより低く、甘く掠れた声でそう囁くと、美優の華奢な身体をゆっくりと包み込むように抱きしめた。
カッターシャツ越しに、トクン、トクンと、彼の少し早い心臓の鼓動がダイレクトに伝わってくる。いつも完璧で冷静な彼が、自分のせいでこんなにも余裕をなくしている。その事実に、美優の胸もドクンと激しく跳ね上がった。
美優は溢れそうな愛おしさを堪えながら、そっと優希の広い背中に両手を回した。
「ごめんね……。本当に何もないから。私の好きな人は、優希くんだけだよ」
必死にそう伝えると、優希は美優の肩に顔を埋めたまま、クスッと小さく喉を鳴らして笑った。
「んー? どうしようかなー」
優希はゆっくりと身体を離すと、悪戯っぽく微笑みながら、美優の制服のリボンをプチッと器用に外した。
「え!? ちょっ、ちょっと……!」
美優が焦って声をあげるのも構わず、優希の大きな指先が、美優のカッターシャツの襟元を少しだけ広げる。
「あっ、優希くん……っ! だめだよ……っ!」
誰かが入ってくるかもしれない恐怖と、彼のあまりにも大胆な行動に、美優は真っ赤になって抵抗した。しかし、優希は美優の両手を優しく封じ込めると、そのままゆっくりと、美優の白い首筋へと顔を近づけた。
次の瞬間、美優の柔らかな肌に、温かい唇が押し当てられる。
吸い上げられるような、チクリとした小さな痛みが走った。
「んっ!?」
驚きに目を見開いた美優は、今度こそ強引に優希の身体を押し返し、ばっと後ろへ距離を取った。背中を預けたまま、押さえた首筋がじわじわと熱を持っているのが分かる。
そんな美優の焦りっぷりを眺めながら、優希は口元を緩め、クスクスと愉しげに笑った。
「はは、できた。――俺の、って証」
優希は一歩近づくと、美優が手で隠している首筋の上に、自分の手のひらをそっと重ねた。
「優希くん……!?」
何が起きたのかを理解し、美優はこれでもかというくらい顔を真っ赤に染めた。耳の先まで完全に沸騰している。
キスマーク――彼が独占欲のままに刻みつけた、消えない証拠。
優希はそんな美優の反応に心底満足したように、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「今度また、俺にヤキモチ焼かせたら、次はここじゃ終わらないからね」
そう言って、優希は外したリボンを美優の手にポンと戻すと、いつもの爽やかな足取りで自分の鞄を持ち上げた。
「〜〜っ、もう、優希くんの意地悪……っ!!」
首元を隠しながら、涙目で抗議する美優。
夕暮れの誰もいない教室。刻まれた微かな痛みの余韻と、優希の圧倒的な独占欲の熱に当てられて、美優の心臓はいつまでも、いつまでも鳴りやまない鼓動を刻み続けていた。



