体育祭の片付けが終わり、校庭の喧騒が遠のいていく中、美優はソワソワとした心地のまま誰もいない教室へと戻った。
机の横に掛けられた鞄を手に取ろうとしていると、廊下から聞き慣れた声が近づいてくる。ガラガラとドアが開き、他の男子たちと談笑しながら優希が教室に戻ってきた。
「おう、また明日なー」
優希は一緒にいたクラスメートたちにひらひらと手を振り、見送る。その笑顔はいつも通り爽やかだったけれど、美優の胸の内の焦りは消えなかった。彼が一人になった瞬間を狙って、美優は思い切ってその距離を詰める。
「優希くんっ、あのね……」
緊張で震える指先で、優希のカッターシャツの袖をクイッと掴んだ。
優希の動きが止まる。彼はゆっくりと美優の方を振り返り、少し冷ややかな光を宿した瞳で美優を見下ろした。その視線にドキリとしながらも、美優は消え入りそうな声で言葉を絞り出す。
「ごめんね……」
まずは謝らなければと口にした美優に対し、優希は少しだけクスッと笑った。だけど、その目は全く笑っていない。
「何に対する、ごめんなの?」
(どうしよう……優希くん、めちゃくちゃ怒ってるじゃん……!)
試すような彼の問いかけに、美優の心臓はバクバクと壊れそうなほどの音を立て始める。完全にキャパシティをオーバーしそうになりながらも、美優は必死に本当のことを伝えようと言葉を繋いだ。
「私が、伊澄先生とその……二人きりで会ってしまったのを、優希くんに言ってなかっ……!」
――そこまで言いかけた、次の瞬間だった。
「っ……わ、」
視界が激しく揺れ、美優の腰が近くの机の縁に軽く当たった。気づいた時には、優希の大きな手が美優の細い腰へと強引に回されていた。それと同時に、もう片方の手で美優の手首をきゅっと掴まれ、二人の距離が遮るもののないゼロになる。
優希のカッターシャツから、彼特有の清涼感のある香りと、少し高めの体温が容赦なく美優の肌に伝わってきた。
優希は美優を完全に腕の中に閉じ込め、逃がさないように視線を強く絡める。そして、耳元へ顔を近づけると、いつもより低く掠れた声で意地悪に囁いた。
「美優はさ……俺がどれだけ美優のこと好きか、全然わかってないでしょ」
剥き出しにされた彼の独占欲に、美優の頭の中は一瞬で真っ白になる。耳の先まで一気に熱が上がっていくのが分かった。
「優希くん、ちょっと……! ここ、教室だよ……っ! 誰か来たら……!」
真っ赤な顔で周囲を気にしながら、美優は胸元で小さく身をよじる。けれど、腰を抱く優希の腕は、美優の焦りに応えるかのように、さらに強く引き寄せられるのだった。



