不完全な僕達は。【完結】



美優と萌華がクラスのテントに戻ると、男子たちの中心で楽しそうに笑い合っている優希の姿が真っ先に目に飛び込んできた。

(あっ、優希くん……)

彼のいつもと変わらない爽やかな笑顔を見た瞬間、美優の胸の奥にズキリと重い罪悪感が込み上げてきた。伊澄先生の「ずっと美優しか見ていなかった」「婚約破棄するつもりだった」という身勝手な言い訳に、一瞬でも心をザワつかせてしまった。そんな自分が酷く嫌で、後悔の念が押し寄せる。

ふと、男子たちと話していた優希が、美優たちの帰りに気づいてこちらを振り返った。

優希は美優の姿を捉えると、すぐに輪を離れてまっすぐこちらへと歩いてくる。

「美優、作業終わった?」

ニコッと眩しい笑顔を向けてくれる優希。けれど、今の美優にはその真っ直ぐな瞳が眩しすぎて、申し訳なさから彼の顔をまともに見ることができなかった。

「う、うん……」

美優は思わず視線を斜め下に落とし、どこかよそよそしい返事をしてしまう。動揺を隠すように大慌てで段ボールを開け、中からクラスゼッケンを取り出す作業に没頭した。

そんな美優の不自然な様子に、優希のターコイズブルーの瞳が微かに細められる。けれど、彼はいつも通りの優しい声で美優を労うように言った。

「上の棚の荷物、重たかっただろ。俺も手伝いに行けばよかったな」

「ううん、大丈夫だよ。全然重くなかったし」

美優は無理に作った笑顔を浮かべて、取り繕うように答えた。一刻も早く、この話題を終わらせたかった。

しかし、その場にいた萌華が、悪気のない弾んだ声でニコッと笑いながら会話に入ってきた。

「そういえば、体育倉庫のところで伊澄先生が手伝ってくれたんだよねー! 荷物取ってくれたりしてさ、ほんと優しいよね」

「っ……!」

萌華の軽はずみな一言が、静まり返ったテントの空気に響き渡る。

美優は息が止まるかと思うほど心臓を大きく脈打たせ、完全に指先を凍りつかせた。慌てて優希の様子を窺うと、さっきまで穏やかに微笑んでいた彼の顔から、すっと一切の笑みが消え失せていた。

美優の知らないところで伊澄先生の存在を警戒し、ずっと美優だけを想い続けてきた優希。彼の前で、最悪な形で「伊澄先生と二人きりだったこと」が明かされてしまった。テントを吹き抜ける生温かい風が、一瞬で氷のように冷たく張り詰めていくのを、美優は肌で感じていた。