不完全な僕達は。【完結】



重苦しい沈黙が、二人の間に立ち込めていた。

今さら何を言われても、傷ついた過去が消えるわけではない。美優がどう言葉を返していいか分からず、ただ恐怖と困惑に立ち尽くしていた、その時だった。

「あれ? 美優ー?」

運動場の方から、緊張感を一瞬で吹き飛ばすような、聞き慣れた明るい声が響いた。
美優は驚いてハッと振り返る。そこには、美優が戻らないのを心配して様子を見にきた萌華が、小走りでこちらに向かってくるところだった。

萌華は美優の元まで来ると、少し息を切らしながら言葉を続ける。

「もう、遅いよー? クラスのみんな、ゼッケン待ってるんだから。……あれ、伊澄先生もいるじゃん!」

萌華はいつもの屈託のない笑顔で、美優の隣に立つ伊澄先生を見つめてニコッと笑った。

親友の登場によって、張り詰めていた空気が一気に解けていく。美優はまるで蜘蛛の糸を掴んだかのような心地で、伊澄先生の方を向いた。これ以上、この場所にいて先生の言い訳を聞く必要はない。

「……じゃあ、私、準備があるので」

美優は伊澄先生へそれだけを告げると、隣にいる親友の腕をぎゅっと掴んだ。

「ごめんね、萌華! いこ!」

「え? あ、うん……?」

美優の尋常ではない焦りっぷりに、萌華は不思議そうに首を傾げながらも、美優に手を引かれるままその場を離れていった。

二人の女子生徒がクラスのテントへと向かって早足で去っていく後ろ姿を、伊澄先生はただ無言で見つめていた。その瞳には、自分の言葉が届かなかったことへの焦燥と、かつての恋人への断ち切れない未練が、名残惜しそうに、そして深く滲んでいた。