「で、図書室で何度か美優のこと見かけてたからさ……。あの伊澄の存在も、最初から知ってたんだ」
優希は、どこか遠い目をして悲しそうに笑った。
その言葉を聞いた瞬間、美優はドクンと心臓を強く掴まれるような衝撃を覚えた。
自分の知らないところで、優希がどれだけの時間、自分を見つめ、どれだけ胸を痛めてきたのだろう。そう思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「そっか……」
美優は小さく呟き、それから、ふっと肩の力を抜いた。
「なんだ、全部知ってたんだね。……でも、なんか、すっきりしちゃった」
ずっと過去の自分を隠さなきゃいけないと怯えていたのが嘘のように、心が軽くなっていた。
優希はそんな美優の顔をじっと見つめ、不器用なほどに優しい声で言った。
「本当は、言うつもりなかったんだ。美優にはあの頃みたいに……伊澄と出会う前みたいに、ずっと笑っていて欲しかったから。過去のことなんて、俺が忘れさせてやればいいって思ってた」
そんなにも深く、まっすぐに自分を想い続けてくれている優希の存在が、愛おしくて胸が苦しくなる。
美優はベッドの上で優希との距離を詰めると、じっと彼の優しい瞳を見つめた。
そして、震える手をゆっくりと伸ばし、優希の綺麗な頬にそっと両手を添えた。
「美優……?」
いつも余裕を崩さない優希が、驚いて大きく目を見開く。
彼の言葉を遮るように、美優は少しだけ背伸びをして、優希の唇に自分の唇をそっと重ねた。
昼休みの保健室。
白いカーテンが微かに風に揺れる静寂の中で、ゆっくりと唇が離れていく。
美優は真っ赤になった顔のまま、今度は逃げずに優希の目を見つめて、はっきりと言葉にした。
「好きだよ、優希くん」
それから、彼のこれまでの不安をすべて溶かすように、心からの笑顔を浮かべた。
「不安にさせて、ごめんね」
その笑顔と告白に、優希はもう耐えきれなくなった。
「っ………!」と掠れた声で呟くや否や、優希は美優の身体を壊れ物を扱うように、だけど二度と離さないとばかりに強く抱きしめた。
お互いの鼓動が、重なり合って激しく響き渡る。
優希は美優の身体を抱きしめたまま、今度は自分から、ゆっくりと深く熱いキスを美優の唇へと落とした。
かつての歪んだ『完璧な世界』の記憶は、優希の温かい体温によって完全に上書きされ、二人の新しい本物の恋が、ここから静かに色づき始めていた。



