不完全な僕達は。【完結】




放課後、オレンジ色の柔らかな西日が差し込む通学路を、美優と萌華は並んで歩いていた。

いつもなら優希が隣にいるはずだったけれど、今日は委員会の仕事で居残りが必要だったため、久しぶりに親友二人きりでの下校となった。

萌華はカバンを肩にかけ、横目で美優を見つめながらニヤニヤとした笑みを浮かべた。

「ほんと見せつけてくれるんだから〜。あの後、相良くんすっごく上機嫌だったよ?」

昼休みに教室から飛び出し、図書室で優希に額にキスをされたあの一連の出来事を思い出し、美優はカバンの紐をぎゅっと握りしめた。額の奥が、まだじんわりと熱いような気がする。

「そんなんじゃないし……。優希くん、時々すっごく意地悪なのっ」

美優がそっぽを向いて照れ隠しをすると、萌華はゆっくりと美優の歩幅に合わせながら、優しく目を細めて笑った。

「でもさ、美優。相良くんと付き合ってから、なんだかさらに可愛くなったよね」

「え……?」

予想外の言葉に、美優は思わず目を見開いて萌華の顔を見た。萌華は顎に人差し指をあてて、楽しそうに首を傾げる。

「なんかこう、うっとりしてるというか、ふわふわしてるというか……トゲがなくなって、丸くなったみたいな? 雰囲気がすっごく柔らかくなったよ」

「何それー、大げさだよ」

美優はクスッと小さく笑って、恥ずかしさを誤魔化すようにまた歩みを進めた。けれど、萌華の次の言葉に、今度は本当に心臓が跳ね上がることになる。

「それってさー美優、相良くんのことに『恋してる』って顔なんじゃない?」

萌華は、からかうような声音ではなく、心から祝福するような優しい笑顔でそう言った。

(まさか……萌華にまで気づかれるくらい、私、顔に出てたの……?)

美優の胸に、ドクンと大きな衝撃が走った。バスの中で静かに自覚したはずの自分の気持ちが、あまりにも鮮明に外に溢れ出ていたのだと知り、美優の足がぴたりと止まった。

前を歩いていた萌華が、不思議そうに立ち止まって振り返る。

「美優?」

西日に照らされた親友の顔を見つめながら、美優は静かに息を吸い込んだ。もう、誰に対しても、そして自分自身に対しても、嘘をつく必要なんてない。優希が自分のありのままを受け入れてくれたように、美優もまた、自分の本当の気持ちをまっすぐに言葉にしたかった。

「うん……そうだよ。萌華の言う通り」

美優は、胸の前にカバンを抱きしめ、少し照れくさそうに、だけど今までにないほど澄んだ瞳で萌華を見つめた。

「私…っ、優希くんのこと、好きなのかもしれない……
ううん、……好きだと思う」

はっきりと告げられた美優の言葉は、夕暮れの静かな街並みに心地よく響き渡った。