不完全な僕達は。【完結】



「じゃあ、回ろっか」

そう言ってニカッと笑った優希は、美優の返事を待たずにその小さな手をぎゅっと握りしめ、楽しそうに歩き出した。

繋がれた手のひらから伝わる体温に、美優の顔はさらに熱くなっていく。美優は心臓の音を誤魔化すように、顔にこもる熱を冷ましながら彼の後ろをついていった。

(もう、優希くん……誰も知ってる生徒が居ないからって、調子いいんだから……)

校外学習とはいえ、ここは広い横浜の水族館だ。いつどこでクラスメイトや先生に会うか分からない。そう思うと内心気が気ではなかったが、繋がれた手を解く気にはなれなかった。

優希に引かれるまま、二人は青い世界を巡っていく。
ライトアップされて綺麗にふわふわと泳ぐクラゲの幻想的なエリア、砂の中からひょっこりと顔を出す愛らしいチンアナゴの姿に足を止め、大迫力のイルカショーでは水飛沫に歓声をあげた。優希と一緒だからか、見慣れたはずの生き物たちがどれも特別に輝いて見える。

やがてエスカレーターを上がると、頭上が全てガラス張りになった水中トンネルへと迎えられた。丸い頭上のトンネルを、大きなエイやサメたちが美優たちを見下ろすようにして、優雅に、そしてゆったりと泳いでいる。

「うわ、すげえ……!」

優希はまるで少年のように目をキラキラと輝かせ、ガラス越しに頭上の光景を見つめていた。そして、繋いだままの美優の手を優しく引き寄せる。

「美優、こっちきて。上、見てみなよ」

「うん……」

促されるまま一歩踏み出した美優だったが、彼女の視線が捉えたのは、頭上の魚たちではなかった。すぐ隣で無邪気に目を輝かせている、優希の横顔だった。

美優は、彼の横顔をまじまじと見つめた。
耳元で控えめに主張するピアスが、水槽の青い光を反射してキラキラと光っている。水族館の照明に照らされた彼の髪は、ほんのりと青みがかって息を呑むほど綺麗だった。ガラスを見上げるそのターコイズブルーの瞳と、長く伸びた綺麗なまつ毛が、差し込む光を浴びて宝石のように輝いている。

(……きれい。なんか優希くんって、本当にかっこいいんだな……)

それは、至近距離にいるからこそ改めて突きつけられた、あまりにも真っ直ぐな事実だった。

「あっ……」

見惚れていた美優は、小さく声を漏らした。
魚たちの泳ぐ水の音に混ざって、自分の胸の鼓動がドクンと大きく跳ね上がる。美優は、自分が思っている以上に、もう引き返せないほど優希という存在に惹かれつつあることに、はっきりと気づき始めていた。