最初から、こんな風に冷めきった女の子だったわけじゃない。
時計の針を数年巻き戻す。それは、美優がまだ中学3年生の秋のことだった。
「美優、次の模試も当然トップよね? あなたは将来、いい高校を出て、いい大学に入って、立派な大人にならなきゃいけないんだから」
美優の両親は、もともと教育に対して異常なほど厳しかった。敷かれたレールから外れることは絶対に許されない。そんな家庭環境だった。
幸か震か、美優は生まれつき要領が良く、頭の回転も早かった。親からの遺伝なのか、どんなに高い壁を提示されても、大抵のことはそつなくこなせてしまった。
だからこそ、周囲は私を褒めちぎり、親は「もっと、もっと」と期待を膨らませる。
「……こんなので、本当にいいんだろうか」
ある夜、夜中まで続く猛勉強の最中、ぽつりと漏らした切ない呟き。それは私の行く末を監視するように、勉強机を冷たく灯すデスクライトの明かりの中に、静かに吸い込まれて消えていった。
このまま、親の決めたレールを一生歩いていくのだろうか。
いくら周囲に羨望の眼差しを向けられても、自分自身が本当にやりたいことなんて、どこを探しても見つからない。
私だって、もっと自由に、なんの縛りもなく動き回ってみたい。
張り詰めた糸のような毎日は、次第に美優の首を絞めていく。息が詰まるような生活。逃げ場のない檻。そんな限界を感じていたある日、頭の中に、ふと、それまで思いつきもしなかった危険な考えが浮かんだ。
(……たまには、授業をサボってみるのはどうかな)
一度芽生えた反抗心は、一瞬で美優の身体を突き動かした。
5時間目のチャイムが鳴る直前、教室とは真逆の方向へ足を向ける。向かったのは、校舎の隅にある、いつも薄暗くて静かな図書室だった。
実は、その図書室の最奥、背の高い古い本棚に挟まれた隙間に、誰も寄り付かない秘密基地のような、隠れるための絶好の穴場を見つけていたのだ。
それ以来、お弁当を食べ終えた昼休みの残り時間や、どうしても心が息を吹き返せなくなった授業中、美優はいつもその隙間に身を隠すようになった。
ひんやりとした床に体育座りをして、本棚から適当に抜き取った小説のページをめくる。
紙とインクの古い匂いに包まれている時間だけが、「完璧な優等生」という呪縛から解放してくれた。文字を追いかけている間だけは、世界の息苦しさを忘れられた。
カサリ、と静寂の中でページをめくる音が響く。
この薄暗い秘密基地こそが、美優の世界のすべてだった。



