お昼を過ぎ、いよいよ待ちに待った自由行動の時間が始まった。萌華に「楽しんできなよ!」と背中を押された美優は、優希から届いたメッセージの画面を開き、指定された約束の場所へと向かった。
たどり着いたのは、横浜にある水族館だった。
館内に入ると、外の暑さが嘘のようにひんやりとした空気に包まれる。薄暗い通路を進みながら、美優は周囲を見回した。
「たしか、ここでいいと思うんだけど……」
あたりをキョロキョロと探してみたけれど、まだ優希の姿は見当たらない。
ふと横を見ると、巨大な水槽のガラス越しに、大きな魚たちが美優の方をちらりと見つめながら、ゆったりと優雅に泳ぎ去っていくところだった。青く澄んだ神秘的な世界に、美優は思わず心を奪われる。誘われるように魚たちのいる方へと近づいていき、ガラスに手を添えてしばらくその様子を眺めていた。
その時だった。
視線を奪われている美優の背後から、ゆっくりと、だけど迷いのない確かな腕が回ってきた。不意に身体を優しく包み込まれ、すぐ耳元で、少し低めの心地いい声が囁かれる。
「ごめん美優、待った?」
「え……っ!?」
驚いて心臓が跳ね上がる。慌てて振り返ろうとすると、そこには美優を後ろから包み込むようにして立ち、いたずらっぽく微笑む優希の顔があった。
「え、えぇっ!? ちょっと、優希くん……っ!?」
急な出来事に、美優の顔に一気に熱がのぼる。他人の目もある場所での再会に、美優は恥ずかしがりながらも、どこか安心したような表情を浮かべた。
そんな美優の様子を見て、優希は白い歯を見せてニカッと明るく笑った。
「はは、びっくりした?」
優希はゆっくりと腕を解き、楽しそうに目を細める。水槽の青い光に照らされた二人の時間は、幻想的な水族館の雰囲気の中で静かに動き出した。



