気がつけば季節は移り変わり、夏前の少し汗ばむような校外学習の日がやってきた。
美優たちの学年を乗せた観光バスは、予定通り神奈川県の横浜に到着した。バスを降りると、目の前には異国情緒あふれる美しい港町の景色が広がっている。
班行動のグループ決めでは、幸運にも親友の萌華と同じグループになることができた。しかし、恋人である優希とは別のグループに離れてしまっていた。
(……でも、昨日の夜、メッセージくれたんだっけ)
スマートフォンの画面を思い出し、美優は胸の奥を小さくときめかせる。
昨夜、優希から届いた『自由行動になったら、どっかで合流して一緒に回ろう』というメッセージ。班ごとの見学が終われば、彼と会える。そう思うだけで、美優は今日の校外学習が何倍も楽しみに感じられていた。
そんな美優の微かな変化を、鋭い親友が見逃すはずもなかった。
「でー? ちょっとは進展してるの?」
赤レンガ倉庫へ向かって歩いている途中、萌華がニヤニヤとした笑みを浮かべ、美優の肘をツンツンとつつきながら覗き込んできた。
「……え? なんの話?」
動揺を隠すように、美優はわざととぼけて聞き返す。しかし、萌華は「え? じゃないよ!」と声を弾ませた。
「なんかこう、付き合ってる二人の甘々な展開、色々あるでしょー!? ほら、手繋いだりとかさ!」
キャッキャと楽しそうに騒ぐ萌華に対し、美優はそれ以上ポーカーフェイスを維持できず、ふいっと視線を斜め下にそらした。頬がじわじわと熱くなっていく。
「な、ないよ、そんなの……」
恥ずかしそうに消え入るような声で答える美優。その分かりやすすぎるリアクションに、萌華は目を細めてジロジロと美優を観察した。
「あー、怪しい! なんか隠してるでしょ〜、その顔は!」
「本当に何もないってば」
美優は困ったように少し笑いながら、だけど、胸の内にあった素直な気持ちをそっと言葉にしてみた。
「……でもね、なんか優希くんと一緒にいると、楽しいって思えるようになったかも。自分でも不思議なんだけどね」
あの日、優希に抱っこされて自分の恋心に気づいてから、彼への想いは少しずつ、だけど確実に美優の中で育まれていた。
その言葉を聞いた瞬間、萌華は驚いたようにパッと目を見開いた。そして、まるで自分のことのように深く感動した表情を浮かべると、勢いよく美優の身体に抱きついた。
「きゃぁ〜! 美優! 良かったねぇ……っ!!」
「ちょ、ちょっと萌華、恥ずかしいよぉ」
おめでたそうに笑う萌華の腕の中で、美優は照れくさそうに、だけど幸せそうに微笑み返していた。その視線の先、人混みの向こうに、聞き覚えのある爽やかな笑い声が聞こえたような気がして、美優はそっと胸を高鳴らせた。



