美優が勇気を出してその名前を呼んだ瞬間、それまで余裕たっぷりだった優希がピクリと動きを止めた。
彼は少しだけ目を見開いたまま、美優の顔をじっと見つめている。よく見ると、彼の端正な顔の、特に耳元がほんのりと赤く染まっていた。いつも美優をからかってばかりの彼が見せた予想外の反応に、今度は美優が驚いてしまう。
「え、どうしたの……?」
美優が恐る恐る尋ねると、優希は片手を顔に当て、視線をふっと泳がせた。
「あー、いや……想像以上だなと思って」
そう呟く彼の声は、どこか照れくさそうに震えている。完璧に見えた彼も、自分と同じようにドキドキしているのだと知り、美優の胸にじんわりと温かいものが広がった。美優は少し顔を赤くしながら、小さく唇を尖らせてそっぽを向く。
「だって……練習っていったじゃん」
「ははっ、ごめんごめん」
優希はいつもの爽やかな笑顔を取り戻すと、楽しそうに立ち上がった。お店を出て、少し歩いたところにある静かな公園のベンチ。優希は美優の前に立つと、悪戯っぽく微笑んだ。
「……じゃあ、美優! ちょっとここに立って」
「え?」
不思議に思いながらも、美優がゆっくりとベンチから立ち上がる。次の瞬間、優希は美優の目の前に一歩踏み込むと、ニコッと笑って、美優の身体をひょいっと抱っこして持ち上げた。
「えっ!? ちょっと、優希くん!?」
地面から足が離れた驚きと、突然の密着感に、美優は思わず彼の肩にすがりついた。心臓が今までにない速さで警鐘を鳴らす。
そんな美優の焦りっぷりを見て、優希は白い歯を見せてニカッと笑った。
「ははっ、美優は本当に可愛いな」
優希は愛おしそうに腕の力を強め、美優の身体をぎゅっと抱きしめながら、幸せそうに笑っていた。彼の胸の鼓動が、自分の身体にも直接伝わってくる。
(あぁ、きっと……)
優希の腕の中で、美優の胸の奥が、トクンと大きく、優しく動いた。
(きっと私……彼のことを好きになる)
それは、これからの二人を予感させる、確かな直感だった。



