不完全な僕達は。【完結】


相良くんと付き合い始めてから数日の間、学校内は二人の噂でもちきりだった。「あの姫野美優が、クラスの中心にいる相良優希と付き合った」というニュースは、瞬く間に学年内を駆け巡ったのだ。

当然、一番の衝撃を受けたのは幼馴染の萌華だった。登校するなり、萌華は驚きのあまり口をあんぐりと開けたまま美優の席に詰め寄ってきた。

「ちょっと待って!? あの相良くんと付き合ったってどういうこと!? いやお似合いだけど!…ってか急に何があったのよ!?」

完全に状況についていけていない様子の萌華を前に、美優はいつもの平静を保とうと努めた。
スクールバッグから淡々と今日の教科書を取り出し、机に並べながらさらっと答える。

「何って……、なんかそういう流れで、そんな感じになっただけだよ?」

「いやいや、冷静すぎない!? そんな、流しそうめんでそうめん掬ったみたいなノリで言われても納得いかないんだけど!」

萌華が身振り手振りを交えて猛烈なツッコミを入れた、その時だった。

「ははっ」

美優のすぐ後ろから、聞き慣れた低い笑い声が聞こえてきた。驚いて振り返る暇もないまま、すっと近づいてきた影が、美優の耳元に唇を寄せる。

「ほんと、リアクション薄いよ?姫野、俺寂しいなー」

鼓膜を優しく揺らすような囁き声と、かすかに触れた熱い吐息。

「ひゃ……っ!」

これまでどんな男子に何を言われても無風だった美優の口から、生まれて初めて可愛らしい悲鳴が漏れた。手元が狂い、持っていた筆箱を床へと派手に落としてしまう。

「えええええ!? 相良くん!?」

一部始終を特等席で見ていた萌華は、美優以上に顔を真っ赤にして叫んだ。けれどすぐに「何これ、なになに! なんだかんだ言って、めちゃくちゃいい感じじゃん!」と、嬉しそうにキャッキャと飛び跳ねて喜びだす。

美優は激しく跳ね上がる鼓動を押さえつけながら、ぽっぽと熱くなっていく顔を隠すこともできず、床の筆箱を拾うのも忘れて振り返った。

「さ、相良くん……っ!?」

そこには、美優の予想通りの反応が見られて心の底から満足したような、悪戯っぽい笑みを浮かべた相良が立っていた。彼は美優のガラスのような瞳を覗き込むと、くしゃっと目を細めて破顔する。

「はは、姫野照れてる?」

いつも完璧な仮面を被っていた美優が、自分のせいで形無しになっているのが愛おしくてたまらない――そんな真っ直ぐな好意が、彼の笑顔から溢れていた。

廊下からの視線も、萌華の冷やかしも、今の美優の耳には届かない。耳元に残る熱と、相良の眩しい笑顔の前に、美優はただ真っ赤になって立ち尽くすことしかできなかった。

過去の凍りついた記憶を上書きしていくような新しい胸のときめきに、美優は完全に翻弄されていく。