不完全な僕達は。【完結】

「じゃあ俺、ホッチキスで留めていくから、姫野は資料をまとめていって」

相良はそう言うと、美優の手から手際よくホッチキスを受け取り、隣の席の椅子を引いて座った。

二人は自然と分担しながら、放課後の作業に取りかかった。美優がページ順にプリントを揃えて手渡し、相良がそれを小気味いい音を立てて留めていく。

カシャ、カシャ、というホッチキスの音の合間に、相良は今日あった面白い出来事をポツポツと話し始めた。

(そういえば……こうして相良くんと話したりするの、初めてだなあ)

美優は手元を動かしながら、少しぼーっとそんなことを考えていた。
これまで色々な男子と付き合ってきたけれど、彼らはいつも美優の機嫌を窺うような、どこか気取った言葉ばかりを並べていた。けれど相良の言葉には、着飾りも気負いもない。そんな彼の他愛もない雑談が、妙に心地よくて、昼間からずっと強張っていた美優の心を不思議と落ち着かせてくれた。

「――でさー、山田のやつが掃除の時間に思いっきりすっ転んでさ。……って、ごめん! 俺ばっかり喋ってるよな」

相良はフッと我に返ったように話を止め、決まり悪そうに頭を掻きながら笑った。

美優はプリントを揃える手を止め、ふんわりと微笑んだ。

「え? そんなことないよ。全然いいし、面白いからもっと聞きたいな」

お世辞ではなく、本心だった。もっと彼の声を聞いていたいと、心のどこかで思っている自分に驚く。

すると相良は、ホッチキスを握ったまま、少しじーっと美優の顔を見つめてきた。夕暮れのオレンジ色の光が、彼の茶髪の隙間から差し込み、そのまっすぐな瞳を綺麗に照らしている。

「ん――? でもさ、俺は姫野の話も聞きたいな」

相良はいたずらが成功した子供のように、ニヤッと意地悪く笑った。

「……っ」

その顔を見た瞬間、美優の胸の奥が再び激しくざわざわと騒ぎ出した。まただ。この胸の焦燥感と、耳の奥が熱くなるような感覚。彼の一挙手一投足に、自分の感情が簡単に振り回されていく。

美優は慌てて視線を泳がせ、困惑したように声を漏らした。

「えっ、……たとえば……どんなこと?」

「なんでもいいよ。好きなこととか、休みの日の過ごし方とかさ」

急にそんな風に距離を詰められて、美優は完全にフリーズしてしまった。

(急に言われても、私、何を話したらいいんだっけ……?)

いままで深く考えずにどんな質問にも模範解答を出してきたはずなのに。「自分自身の話」を求められた途端、言葉が全く出てこない。心臓がトクトクと自己主張を強める中、美優は手元のプリントを見つめたまま、ただ赤くなっていく頬を隠すのに必死だった。